オアシス |
午前6時50分に起きる。テントから出ると、オリオン座が見える。三日月も東の空に輝いている。風が少し強いが、とても暖かい。気温15度、湿度15パーセント。 簡単な朝食をとり、炎の崖と別れをつげて、午前九時すぎに私たちは北西に向かった。ゴビの平原盆地を少し行くと、ポーランド隊が「残丘(Ruins)」と呼んだ孤立した白亜紀の砂岩の岩山が見えた。ここからも恐竜化石が発見されている。 そして、その北側にゴビの中にまるで島のような緑のある平らな丘が見えてきた。ここが、本当のバヤンザク、すなわち「ザクのたくさん茂る(バヤン)場所」である。 ゴビでは草のような低い木だったザクの木が、ここではのびのびと大きく高く茂っていて、地面には野ねずみの穴もたくさんあり、空には鷹も飛んでいる。約20メートルの高さの低い丘はおそらく水平な砂岩層でできていると思われ、その丘が広大なゴビの平原盆地の北側を縁どっている。 この海のように広い平原盆地は北のミドルゴビからゆるい勾配をもって南につづき、この地がもっとも低い南の端にあたる。おそらく、平原盆地の地下を北から流れてきた地下水は、この白亜紀の砂岩の砂と砂の間隙を毛細管現象で吸い上げられ、自然のオアシスをつくったものと思われる。 私たちはバヤンザクの緑の中で、ゆったりした時間をすごした。砂漠のようなゴビに埋没していた心には、少しの緑と野ねずみの穴がこれほど人の心をなごませるものとは思わなかった。 ペットボトルの水がすでになくなっていた私にとっては、近くの井戸の冷たくておいしい水に救われる思いもした。 前田くんがトカゲをつかまえた。トゥメンバイヤーは 「Oh! little dinosaurs.」 と、言っておどけた。 緑色のジープの運転手であるソメヤさんは、矢崎さんに片言の英語や身振り手振りで、いろいろなことを教えていた。ここでは地面についた動物の足跡の見分け方を彼は矢崎さんに伝授していた。少し湿った地面には羊やラクダの足跡がたくさんついていて、その足跡の主やそれが歩いた方向など知ることもできる。 ソメヤさんは、近くに残っていたタイヤの跡を指さして、 「ミツビシ」 と、言った。きっと、パジェロが通ったのだろう。 |