バカガザル |
6時に目が覚めたが、誰も起きていない。外はまだ暗く、空は厚い雲に覆われていて、東の空が少し色がつきはじめてきた。起床時間は日の出と決めたが、これではいつ起きればよいかわからない。 私はテントから出て、岩山に登り、日の出の写真を撮ることにした。気温は8度、湿度30パーセント。やはり、朝晩は冷える。そのうちに、朝日は雲間から出てきて、岩山を赤くそめはじめた。 午前8時に朝食をとり、トゥメンバイヤーの案内で、この岩山の地質見学をした。この岩山はバカガザルというところで、三畳紀からジュラ紀の花崗岩体の周辺部にあたる。この岩体は、周囲の古生代末の砂岩や頁岩(泥岩)の地層の中に大規模なドーム状に貫入したものらしい。 この花崗岩体の周縁部にはトパーズ(黄玉)を含み、レアメタルの鉱床も発達するらしい。昨日は気がつかなかったが、近くには試掘溝もいくつか掘られていた。蛍石鉱床の専門家でもあるトゥメンバイヤーは、この鉱床の分布や形成過程を、実際に岩石の産状を示して、私たちに詳しく説明した。 蛍石は白色から紫色のガラス光沢をもつ石で、カリウムとフッ素の化合物で、花崗岩などの火成活動にともなって生成される鉱物である。そして、鉱物資源としては、フッ酸やガラス原料として重要である。モンゴルには中生代の花崗岩や玄武岩の活動にともなって、多くの地域で蛍石やレアメタルの鉱床が発見されている。世界でもモンゴルはメキシコに次いで蛍石鉱石の生産量が高い。 出発の準備をしていると、近くのゲルのおばあちゃんがシミンアルヒとアーロールを持ってきてくれた。シミンアルヒは、モンゴルアルヒとも言うが、発酵乳を蒸留したお酒で、アルコール度が数パーセントと飲みやすく、ゲルの人たちが簡単につくることのできる蒸留酒である。ラクダのミルクからつくったシミンアルヒは最高である。 出発する前には、紙ゴミなどを目立たないようにまとめて土に埋め、ビールのあき缶やペットボトルは目立つようにきちんと並べて置いた。ここでは、ビンや空き缶は日本とちがってやっかいもののゴミではなく、遊牧民にとっての貴重な生活用品となる。遊牧民は捨ててあるビン缶を拾ってきて、塩や砂糖の入れ物にしたり、酒や水のビンにする。 小雨が降りだし、私たちは出発した。すでに午前10時まえになっていた。 |