地平線 |
町の南側には広い平原盆地がひろがっている。町のはずれのその風景は、以前に小さな漁村で見た光景とオーバーラップした。草のまばらにはえる砂の平原は、まるで海原のように、そこには何もなく、水平線ならぬ地平線がそのむこうにひろがっている。町から一歩出ることは、何もない海原に挑戦するような勇気がいる。 私たちのジープ部隊は、町の外にひろがる草原の大海原に飛び出して行った。見わたすかぎり山もなく、地平線のかなたまで何もない。 空にはところどころ厚い雲があり、空は晴れているもののスコールのような雨が降ってきた。草原の草は短くまばらで、マンダルゴビまでの山の道と比べるとハイウェイのようである。 3台のジープは全速力で南に向かって砂煙をあげて爆走した。平原には低い起伏があり、それはまるで海原のうねりのように、私たちのジープは上下した。並行して走る私たちのジープはその起伏の影を出入りした。並走していたソメヤさんの緑のジープが起伏の影に入り、いつのまにか見失ってしまった。私の持ってきた無線で、お互いに連絡をとっていたものの、起伏の影で無線もとどかず、心配しながらも一応、南に向かった。そのうち、ベージュのジープも起伏の陰に姿を消した。 湖が前方に見え、そのほとりにベージュのジープが待っていた。それを追って緑のジープも現れた。時刻は午後1時過ぎで、ここでランチにすることにした。地面にシートをひいて、パンやご飯、りんごやシトロ(サイダー)がならべられた。 サンペルガバとオトゴンさんが準備をしている間、井上くんはケン玉を取り出して、パフォーマンスを一同に披露した。トゥメンバイヤーもケン玉にトライしたが、なかなかうまくいかなかった。彼は執拗にやっていたが、サンペルガバさんに食卓につくようにたしなめられた。 ランチを終えて、ジープごとにメンバーの記念撮影をして、また草原の道を南に向かって走りだした。しかし、すぐに道をはずれ、草原の中を走り、いくつかの谷を越えて、大きな川筋を横切り、西に向かった。ゲルもいくつか見え、岩山を通りすぎた。 わだちのまったくない草原を走り、南に向かう道に出る。 本当に何もない草原である。360度の地平線。そこに私たちのジープ3台しかいない。地図でみると3,500フィートの大平原盆地のまっただ中だ。車は地平線に向かって突っ走っている。 「すごい! 大平原だ。」 私は思わず叫んだ。 前年の旅では、ゴビの北側の山地と平原盆地の間を通って旅をしたため、平原盆地の中でもどこかに山地が見えていたが、ここではまわりに何も見えない。私たちは今、モンゴル中央の広大な平原のまっただ中にいる。 |