モンゴル高原 |
低い山並みが霞の中から頭を出す風景の中に、突然として巨大な貯水池が現れた。その奥には切り立った山岳が段々と高さを増していく。 左側の窓からは、万里の長城が見える。 「これは越えて行けないよ。」 横に座った井上くんが、叫んだ。彼は、この切り立った山岳を越えて北へは行けないと言うことを表現した。 「モンゴル民族の地に入った。まだまだ、これから海抜1,000メートルまで上がるぞ。」 私は答えた。 山並みはどこまでも高く続き、それに沿って雲が一列に湧いている。ジェット機は北西に上がり、万里の長城の上を飛んだ。 私たちは、今、1995年9月15日午前10時50分、北京空港を飛び立ち、一路モンゴルのウランバートルに向かっている。 日本からモンゴルへは、現在は関西国際空港から冬の期間を除いて直通航空便が一週間に一回出ているものの、1995年時点では夏の期間やゴールデン・ウィークを除いて、航空便としては北京かそれともイルクーツク経由で行くしか方法がなかった。したがって、今回は、9月の中旬なので、北京経由の中国航空を利用してウランバートルへと向かった。 窓の下の山々には谷筋がなくなり、モンゴル高原の上に出た。内モンゴル自治区にあたるこの地域にはまだ、耕作地や道路、集落などが見られる。しかし、外モンゴル、すなわちモンゴル国に入ると人工的なものを地上に発見することがほとんどできなくなる。ゴビ砂漠である。 砂漠である。下には大規模なサンド・デューン(砂丘)がいくつも見られる。砂丘群は、まるで風の通り道のように幅広く北東に向かって大地を横断している。そして、真下に見える鉄道の線路以外に何もない大地がつづく。 「ほんとうに、何もないすねー。すごいな、大陸だなー。」 と、となりの席の井上くんがうなった。 眼下に小さな白い雲が浮いているところにさしかかった。ジェット機は、ゆっくりと北北西に向かって進んでいく。山地が見えてきた。この山並みの縞模様のシルエットは、ちょうど地層の分布をしめし、それは湾曲し、まさに地層の褶曲しているようすを見せている。なんと雄大な光景だろう。 |