イフ・ハルハン 

イフ・ハルハン 午後1時、正面東側の山影ははっきりした形を現した。高い頂の斜面はまるで巨大な爪でえぐりとられたようにへこんでいて、美しい白い花崗岩の岩肌が露出している。山並み全体が見えるところで、全員で記念撮影をした。東側に山並みが見える以外、ゆるい起伏のある草原が一面に広がっている。

 空は青く、薄い雲が地平線にかかっている。私はサングラスをかけた。

 「いいなー、モンゴルに来たんすねー。」
 と、井上くんはにこにこしながら言った。彼はモンゴルに着いてから、ずっとにこにこしている。

 ふと見ると、ジープのボンネットの網にバッタがたくさん貼り付いている。草原を走ると、車に驚いたたくさんのバッタが草から飛び出し、羽根を広げて飛び去るが、車に向かって逃げたバッタがボンネットの前面の網に衝突したのだろう。バタバタと音をたてて飛ぶバッタを写真に撮ろうとするがうまくいかない。

 前年の旅ではゴビで、ドライバーの目にハエが衝突してたまごを産みつけられ、大騒ぎになったことがあった。ゴビのハエは、子孫を残すために水分がある動物の目の中にたまごを産みつける習性がある。もしも、気がつかないでそのままにしていると、眼球がはれてきて、目が見えなくなってしまう。そのため、ゴビではメガネを必ずかけていないと危険なのである。
水をのみにきた馬 
 午後2時近くに、正面に見えていた白い花崗岩の山の麓に着いた。ようやくランチタイムだ。白い花崗岩の山の斜面はまるでゆるく斜めに傾く地層のように、層状の節理(岩の割れ目)があり、山の麓には板状に割れて落ちた岩塊が石垣のように堆積している。山麓の南側には湖があり、馬が水を飲みにきている。美しい風景である。

 サンペルガバさんとオトゴンさんは、風が強いので岩影によって、ランチの準備をはじめた。トゥメンバイヤーは私たちを集め、この花崗岩やこの山の地質について説明しはじめた。ここは私たちの旅の第一番目の地質観察ポイントになる。

 ここはイフ・ハルハンというところで、タングステンやモルブデンなどレアメタル(希土金属元素)に富む黒雲母花崗岩が露出している。ウランバートルの周辺には、中生代の三畳紀からジュラ紀に活動した大きな花崗岩体があり、その周辺部には金鉱床やその外側にはレアメタルに富むという。モンゴルでは中生代の火成活動が活発であり、中生代後期の恐竜化石を含む地層の研究にも、これらの活動は決して無縁ではない。

 サンペルガバさんは、大きな平らな岩の上にバラ柄のテーブルクロスをひろげ、ランチを用意してくれた。ランチは中国製のインスタント・ラーメンに揚げパン、それにトマトとウリのサラダも加えてくれた。そして、最後に紅茶のサービスがある。日本製の「ジンギスカン」という醤油のようなサラダソースがみんなに好評だった。

頭骨を拾う前田くん ここはピクニック・ランチには最高の場所で、白い山とまわりの湖や草原のつくる風景はとても美しい。湖から馬の群れが去って、今度はどこからか牛の群れが訪れた。

 前田くんや矢崎さんは、草原にころがっている羊の骨をひろい集めている。とくに歯医者さんの矢崎さんは、羊の頭顎骨を拾ってきて、歯や顎の特徴やその機能について私たちに講義してくれた。私たちはここでゆっくりした時間も味わった。

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