地質調査入門
柴 正博 著 東海大学出版部 発行
はじめに
みなさんは,みなさんが住む大地のことについて,どれほど知っているでしょうか.地面の下や山の中がどのようなものからできていて,どのようになっているのか.そして,それがどのようにつくられてきたのか.大地の開発や改造,防災や環境保全などの活動を,大地の構成やその成り立ちの歴史を知らずにおこなえば,人は将来に大きなリスクを負うことになります.
地質調査とは,大地がどのような地層や岩石でできていて,それがどのように形成されてきたかを調べることです.具体的には,山や平地の中で実際に地層や岩石をみて,それがどのようなものかを調べ,そのデータをできるだけ多く集めて,その連続や重なりかた,地層や岩石の形成と地形の成り立ちを理解します.
私の研究テーマは,駿河湾周辺の新第三紀から第四紀にかけての地層や化石を調べ,地域の地質図をつくり,その地域の大地をつくる地層や地質構造がどのように形成されたかを知ることです.したがって,この本ではそのような地層や岩石からなる地域の地質調査の方法の基礎について解説しています.
地質調査は,地層や岩石の基礎的なみかたができればそれほどむずかしいことではなく,あとは経験と学習で調査の実力が上がっていきます.初心者が地質調査の方法を収得するためには,できれば何かの機会を得て,野外での地質調査に参加してください.研究者や経験者などの指導で,地質調査を実際におこなうことで,体験的にいろいろなことを学び,調査の方法を習得できます.
さらに,数日間の調査に参加できれば,あなたは調査の中での起承転結の流れを経験することができます.はじめはわからなかった地層の重なり(層序)や地質構造が,日を経るにしたがって明らかにされます.その流れの中にいて,はじめて地質調査の方法や醍醐味,そして地域の地質が理解できるようになります.
ある程度調査の方法になれたら,安全に十分留意して,人を頼らずに自分自身で調査をおこなってみてください.独自で調査を重ねることによって,経験と学習を重ねて自信がつきます.地質調査の醍醐味は,調査範囲の拡大とともに,空間(地域の広さ)と時間(地層の重なり)のスケールが拡大することです.ぜひ,あなたもそのすばらしい地質調査の醍醐味を味わってください.あなたの地質調査の習熟にとって,この本が少しでも手助けになれば幸いです.
この本の編集と出版にあたっては,東海大学出版部の田志口 克己氏にお世話になり,いくつかの図の作成にはNPO静岡県自然史博物館ネットワークの横山謙二氏に協力していただきました.また,これまでともに地質調査をおこなった東海大学海洋学部の多くの学生さんたちの協力と励ましに感謝いたします.
2015年5月
柴 正博
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