はじめての古生物学
柴 正博著

2020/11/2

海洋学部での「古生物学」の講義の内容をテキストにしたもので,
本書ははじめて古生物学を学ぶ人のための入門書として著しました。 


はじめての古生物学

柴 正博著

ISBN978-4-486-02114-8
A5変版・並製本・190頁
定価(本体2300円+税)
東海大学出版部
2016年7月30日発行

ISBN978-4-924523-13-5
A5変版・並製本・190頁
定価(本体2300円+税)
東海大学教育研究所
2020年10月10日発行


地質時代を通して,とぎれとぎれにある地層からその時々のその場所や地球全体の環境と地殻変動のありさまを推定して,その地層から産出する化石をもとに古生物の姿と生態を復元する.そして地球の変遷とともに現在に至る生物の進化を考える.この遠い過去から現在への魅力的な旅の物語を創造することが,古生物学の醍醐味である.


本書ですでに概説したが,過去の地形や気候,地殻変動は現在とちがっていた.そして,そこに生きた過去の生物たちも現在とはちがっていた.したがって,古生物学を学ぶ皆さんは,現在という呪縛から解き放たれて,現在とちがう過去を自由に旅して過去の生物について学び考えていただきたい.

目 次
はじめに――――― iii

1 古生物学と化石――――――――――――――――――1
 1-1 古生物学と化石とは… ……………………………………… 1
  1) 古生物学とは  2) 化石とは
 1-2 古生物学の発展… …………………………………………… 4
  1) ギリシャ・ローマ時代  2) ルネッサンス時代
  3) 近代自然科学の出発  4) 産業革命と地質学
  5) 古生物学の誕生  6) 化石層序学と進化学の発展

  コラム 1 日本の学術文化の基礎を築いたモース…………………………… 12

2 古生物学の研究方法――――――――――――――― 13
 2-1 科学の方法と階層性… …………………………………… 13
  1) 科学の方法  2) 科学の階層性
 2-2 地質学的方法… …………………………………………… 17
  1) 層序学と堆積学  2) 堆積物と堆積岩
  3) 堆積相と堆積システム  4) 石灰岩とサンゴ礁の堆積物
  5) 地層はどのように形成されるのか
  6) 堆積シーケンスと海水準変動  7) 地層の不連続性
  8) 地質系統と地質時代  9) 地質系統の名前

  コラム 2 掛川層群の堆積シーケンスと生層序層準………………………… 41

 2-3 生物学的方法… …………………………………………… 44
  1) 生物とその基本構造である細胞  2) 生物分類
  3) 生物の体と体制  4) 生態  5) 生態系  6) 進化
  7) 生物地理

  コラム 3 陸橋説による古生物地理…………………………………………… 60

3 化石の研究――――――――――――――――――― 69
 3-1 化石の産状と成因… ……………………………………… 69
  1) 化石の種類と産状  2) タフォノミー
  3) 貝化石密集層の形成  4) ノジュールの化石
  5) 保存のよい魚の化石  6) 化石による地層の分帯
 3-2 ミクロの化石………………………………………………… 81
  1) 微化石の有効性  2) シアノバクテリア(藍藻類)
  3) ココリス類  4) 珪藻類  5) 胞子と花粉  6) 有孔虫類
  7) 放散虫類  8) 貝形虫類  9) コノドント類

コラム 4 現生浮遊性有孔虫図鑑……………………………………………… 95

4 生物進化の歴史――――――――――――――――― 97
 4-1 生命の起源…………………………………………………… 97
  1) 無機物から有機物へ  2) 原始地球での生命の誕生
  3) シアノバクテリアの化石  4) 真核生物の誕生
  5) 多細胞生物の誕生
 4-2 無脊椎動物の進化… ……………………………………… 105
  1) 無脊椎動物の適応放散  2) 海綿動物門  3) 刺胞動物門
  4) 腕足動物門  5) 軟体動物門  6) 節足動物門
  7) 棘皮動物門などその他  8) 生活型の進化
 4-3 脊椎動物の進化… ………………………………………… 118
  1) 脊椎動物の起源  2) 脊椎動物の分類  3) 最初の魚類
  4) 軟骨魚類  5) 硬骨魚類  6) 陸上植物の進化
  7) 四肢動物の発展  8) 爬虫類の繁栄  9) 恐竜の謎
  10) 恐竜の絶滅  11) ギュヨーと白亜紀中期の海水準
  12) カメの種類とその進化

  コラム 5 モンゴルの恐竜………………………………………………………146

 4-4 哺乳類の発展と人類の誕生… …………………………… 149
  1) 哺乳類の進化  2) 海生哺乳類の海への進出
  3) 奇蹄目と長鼻目の発展と衰退  4) ヘビの進化
  5) 日本列島の誕生と海洋環境の変化  6) 人類への進化
  7) 旧人から新人へ  8) 海水準変動とヒトの発展

  コラム 6 伊豆諸島の生物のおいたち…………………………………………167

5 まとめ―――――――――――――――――――――173

 参考図書――――― 176
 引用文献――――― 177
 索  引――――― 185



はじめに

 自然史博物館の恐竜ホール(図1)で恐竜化石の標本を眺めていると,来館した親子のお客さんが話しかけてきた.恐竜の巨大な全身骨格を見て驚いたお父さんが,「この怪獣,大きいですね!」.お母さんは,「子どもが恐竜好きで,恐竜を研究する考古学者になるにはどうしたらよいのでしょう?」.子どもさんは「恐竜の骨が石になったものが化石だよね?」と言う.

これを機会に,博物館の学芸員とこの親子のお客さんとのコミュニケーションが始まる.そもそもお父さんの言った「怪獣」とは人が想像した架空の動物で,恐竜は化石があることから中生代に実際に生きていた巨大な爬虫類の仲間で,「怪獣」ではない.「怪獣」は「獣」という哺乳類を意味する字がつかわれていることから,架空の哺乳類と思われる.哺乳類は牙(犬歯)をもっているが,恐竜は牙をもたない.

つぎに,お母さんの言った「恐竜を研究する考古学者」もまちがいで,考古学者は人の文化の歴史を調べる学者であり,化石など過去に生きた生物を調べる学者は「古生物学者」という.化石についての子どもさんの定義は,化石のすべてをあらわしているものではない.恐竜の骨だけが化石ではなく,化石とは「過去の生物の遺体や痕跡など生物の生きていた証拠」である.また,化石は必ずしも石になっている必要はない.

私は,1982 年から東海大学自然史博物館で地層や化石を研究するとともに,学芸員として資料を収集して博物館の展示や教育をおこなってきた.また,1998 年からは一時期中断はあったが,東海大学海洋学部で「古生物学」の非常勤講師をしている.本書でのべる内容は,その「古生物学」の講義の内容をテキストにしたもので,本書ははじめて古生物学を学ぶ人のための入門書として著した.

古生物学では,過去に堆積した地層の中から発見される化石をもとに過去の生物を研究する.そして,古生物学のおもな研究課題は,化石となった生物たちの骨格や生活痕から,その生物とそれらが生息していた過去の時代の環境や生態系と,それらの変化の過程を読み解くことである.また,そのことから現在の生物と生物をとりまく環境を理解し,さらに将来の生物や環境のありかたを考えることである.

本書では,まず「1. 古生物学と化石」で古生物学と化石とは何かということと,古生物学の発展してきた歴史についてのべる.つぎの「2. 古生物学の研究方法」では,科学の方法について再確認し,古生物学が立脚している地質学と生物学の基礎をのべる.そして,「3. 化石の研究」では,古生物学の研究対象である化石についてのべ,化石による地層の分帯,すなわち生層序学について解説する.私の講義は海洋学部でおこなっていることから,海底堆積物中の微化石についてもふれる.

最後の「4. 生物進化の歴史」では,古生物学がこれまで明らかにしてきた生命の誕生から現在までの生物進化の歴史を,化石となった生物を示しながら概説する.また,各章の末には,各章の内容に関連した私の研究または研究対象に関するコラムを付録として設けた.

古生物学の目的は,化石を研究対象として,地球と生物の歴史をもとに生物進化の過程とその要因を明らかにして,現在の生物の成り立ちを歴史的に理解し,将来の地球と生物のありかたを考えることである.本書によって,読者が古生物学への理解を一層深め,自然や生物についてさらに興味を抱いてもらえれば幸いである.


初版(東海大学出版部発行)についての正誤表
  東海大学教育研究所発行のものについては修正済
ページ 備考 
p.14 下から5行目 仮設 仮説
p.47 下から4行目 属名→種名 属名→種小名  以下同様
p.48 上から2行目 Temmink Temminck  以下同様
p.58 下から8行目 フィリピンのミンダナオ ボルネオ  
p.58 下から6行目  ワレス線  ハクスレー線  
p.61 下から7行目 いつく いくつ  
p.111 図4-14 連結細管 連室細管  
p.130 図4-36 ペルム紀 三畳紀  
p.133 図4-39 プロパクトサウルス プロバクトロサウルス  
p.156 下から7行目  ビット管 ピット器官  
p.165 下から5行目 アリューシャン列島 ベーリング海峡  
p.165 下から5行目 カムチャッカ半島 シベリア  


にゃんこ先生の研究室

『ホーム』へ戻る



最終更新日:2020/2/12

Masahiro Shiba