博物館資料論 |
柴 正博東海大学海洋学部 博物館資料論テキスト Z. 資料情報論1. 博物館の情報 2. 博物館資料とその情報 3. 資料整理とデータベース ここでは,博物館の情報整理とデータベースに限らず,一般的な情報整理とデータベースについて述べる. 3-1. 資料整理法 1) 順次処理と検索処理 資料整理および検索には,順次処理と検索処理がある. 順次処理(ストリームアクセス):資料のデータ(レコード)を分類せずに順番に並べたものを,最初から順次探していく方法.コンピュータの機能でいえば,Windowsの検索機能やGoogleなどのテキスト検索は基本的にそれに当たる.コンピュータの性能が高まり,順次検索でも短時間で大量のデータから検索が可能となった. 検索処理(ランダムアクセス):あらかじめ分類された検索項目もとに分類ごとに整理された(ファイリング)ものを作成し,検索項目に直接アクセスして検索を行う.コンピュータのソフトでいえば,AccessやFileMakerなどがある. 2) 野口式押しだしファイリング 資料整理において,データは分類して整理し,階層的に配列することが基本と考えられている.しかし,「分類すること」は人為的で曖昧であり,整理や検索の混乱の原因となる.分類をできるだけ排除した時系列整理法として,野口式押しだしファイリング(「超」整理法)(野口,1993)がある. 本棚に一定の区画を確保し,角型2号封筒(A4の書類が楽に入る封筒)を大量に用意する.そして,机の上に散らばっている書類や資料をひとまとまりごとに封の部分を切った封筒に入れる.このまとまり(封筒)を「ファイル」とよび,封筒裏面の右肩に日付と内容を書く.封筒を縦にして,内容のいかんにかかわらず,書き込みが見えるように本棚の左端から順に並べていく.以後,新たに到着した資料や書類は,同じように封筒に入れて,本棚の左端に入れる.取り出して使ったものは,左端にもどす.私の場合,封筒裏面の左肩に記入し,本棚の右端から入れる(図7-2). この方法は,個人のデータを時間軸に整理し,さらに使用頻度で管理するというものである.分類して管理する方法は,多くの人が使用する会社や図書館などでは必要であるが,個人としては管理に手間がかかりすぎる.この方法は,コンピュータファィルの順次処理に検索処理を付加した構成で,個人データの管理・検索には威力を発揮する.なによりも,分類することで悩むことが少なく,資料がすべて同じところにあることから,探す手間と時間,精神的ストレスが極端に少なくてすむ.このように,個人が扱う資料やそのデータは,順次処理を基本とする整理法で十分である. 3-2. データベースと何か データベースとは,複数のアプリケーションソフトまたはユーザによって共有されるデータの集合,またはその管理システムを含めたもの.データベースという言葉は1950年代に米軍によって使われ出し,データの集まりを表の形で表現するリレーショナルデータベース(RDB)が主流である.データベースの操作や保守,管理をするためのソフトウェアをDBMSと呼び,大規模システムではOracle社のOracleが,小規模システムではMicrosoft社のAccessが,それぞれ市場の過半を占めている.近年ではデータの集合を,手続きとデータを一体化したオブジェクトの集合として扱うオブジェクトデータベースが大規模システムなどで利用され始めている. すなわちデータベースとは,蓄積されるデータの集まりとその再利用および管理システムである.そして,そのデータ管理のひとつの手法として,あらかじめ分類された検索項目もとに表として整理されたファイリング(リレーショナルデータベース)があり(図7-3),市販されているデータベースソフトのほとんどはこのファイリングにあたる(柴・石橋,1998). データベースソフトは博物館で情報整理に必要であるが,WordやExcelなどワープロや表計算ソフトほど一般的に普及していない.利用されていない理由は,使うまでに詳細な設定と高い技術を要求される場合があるからである.優れたデータベースとは,データ件数が多く頻繁にデータが追加・更新されるものであり,多くの人が使わないまたは使えないデータベースはデータベースの役割を果たせない. 博物館におけるデータベースシステムの核は基本的に,大規模なデータにも対応できるリレーショナルデータベースで構築すべきであり,入力や出力時には場合により容易に入力・処理できるExcelなどで利用できるCSVファイルに変換して使用できるようにすることも必要である. 3-3. テキストファイルを用いた簡易データベース 優れたデータベースが,データ件数が多く頻繁にデータが追加・更新されるものであるというものなら,データの追加・更新を一般的に普及しているワープロや表計算ソフトで行うことができれば多くの人が利用できる.したがって,できればそれらのデータを博物館のシステムとして構築したデータベースシステムに変換または引き上げる仕組みをつくりことを検討する必要がある. ここでは,ワープロが使えるだけでも簡易データベースを構築する方法を述べる.ワープロで作成したファイルをテキストファイルにしてネットワーク上の共有フォルダに蓄積する.これだけでも,りっぱなデータベースとなる.検索は,Windowsのキーワード検索を利用すれればよい.ネットワーク内の誰もがデータを追加・更新でき,検索も可能である. このような検索のときに有効なのが,シソーラス(Thesaurus)という類語辞書である.検索して資料が見つからなかったときや,逆に検索された資料が多すぎたときに,より適当な検索キーを探すために意味ごとに類語が整理された辞書があると便利である.普通辞書はアルファベットや五十音順で語を整理しているが,意味で整理した辞書をシソーラスと呼ぶ. 3-4. コンピュータのファイル作成の基礎 コンピュータは書類(ファイル)を作成し収蔵して,それらを再利用するための文房具である. 1) ファイル名の正しい作り方 ファイル名はかならず自分でつける.Default(怠慢,初期値)にしない. ファイル名は英数半角8文字が基本であるが,日本語や少し長いのも可.しかし,記号は不可.Windowsの場合,拡張子はファイル形式になるので,これがないとファイルが開けない.したがって,その前に .(ピリオッド)は打たない.また,UNIXでは日本語のファイル名は使えない. 悪い例) 半角カタカナ.doc,med-1.09/8/25.txt,静岡の自然 @.ppt,博物館(成績) 10.9.xls 2) ファイルのしまい方 ファイルを再利用しやすいように,ディレクトリーに整理してフォルダに収納する. 4. ウェッブページとデータベース 4-1. インターネットとウェッブページ インターネットとは世界中に広がった物理的ネットワークであり,それにはメールはじめいくつかのシステムがある.そのひとつであるハイパーテキストを実現したシステムがWWW(World Wide Web: ウェッブ)で,日本ではこれを一般的「インターネット」と言っている.また,一般に「ホームページ」と言われるものは,HTML(Hyper Text Markup Language)言語で書かれたファイルであるウェッブページ(Web page)にあたり,ホームページはそのトップページまたはベースページにあたる. インターネットにより,コンピュータは携帯電話とともに世界に広がるコミュニケーションの道具,すなわちインターネットの端末機器となった. 4-2. ウェッブページの利用 ウェッブで気ままにリンクをたどり,いろいろなサイトを見て回り,新しい情報に出会うことを最近では聞かなくなったが,「ネットサーフィン」という.ウェッブでは,手軽に検索をして,自分の探している情報をウェッブページから手に入れることができる.ウェッブには,世界のさまざまな情報が常に追加更新されていて,誰もが「ネットサーフィン」や検索エンジンを利用して探したり調べることができる. データベースとは,蓄積されるデータの集まりとその再利用および管理のシステムであることから,ウェッブはすなわち世界的に自然発生的に形成された巨大なデータベースであると言える.自然発生的というのは,誰かが中央主権的な管理システムを作ったわけでなく,意図に構築されたわけでない.ウェッブは世界の個人や組織が独自に作成したサイトがネットワークで繋がったことにより形成され,巨大に増殖している.また,予約や買い物,対話など相方向の機能(Interactive tool)も利用できる. 博物館の情報の公開や博物館外部からの利用に対して,ウェッブページは博物館の公開データベースとしての役割を果たす有効な道具となる.また,データベースから直接自動的にウェッブページを作成することもできる. 4-3. ウェッブページの作成とウェッブサーバの利用 ウェッブページは簡単に作成でき,ウェッブサイトも容易に立ち上げることができる. ウェッブページはタグ(コマンド)中にテキストと画像などのリンクを配置したHTMLファイルからなり,基本的に以下のような構文である.このように作成したHTMLファイルをウェッブサーバの専用フォルダにftp (File Transport program) で転送すれば公開される(図7-4). <html> <head> <title> タイトル </title> </head> <body> <p>文 章</p> <IMG src="画像ファイル名"> <A href=“リンク先 URL">リンク先 </A> </body> </html> ウェッブサーバ管理には,システム維持とハッキングなどに対する安全性確保できる管理能力が必要となる.博物館ではその管理能力がなくても,上部組織に管理されたウェッブサーバがあるか,なければレンタルサーバを利用することでウェッブページを公開できる. 4-4. 博物館でのウェッブページの作成と問題点 1) ウェッブページの作成の条件 @ 素材となるワープロ文章(テキストデータ)と写真(画像データ)のデジタルデータがあり,利用できるか. A HTMLファイルが書ける人材がいるか. B ウェッブ上にある情報を利用し,個人のスキルをあげる学習意欲があるか. C インターネットとLAN環境が博物館内に整備されているか. D 博物館内でウェッブページの必要性とコンピュータシステム導入推進の理解があるか. E 学芸員の顔が見える個性ある博物館のウェッブページをつくることができるか. 2) 現実の問題点 @ 学芸員が本来の仕事とウェッブページの仕事の二重の仕事を背負う可能性がある. A ウェッブページとサイトのセキュリティーを守れるか. B 業務のひとつと位置付け,ウェッブ利用を前提とした新たな博物館体制の整備や投資を図れるか. 4-5. 博物館のウェッブページと留意点 1) 博物館のウェッブページとは @ 単なる広報媒体ではなく,媒体をかえた博物館活動であり,バーチャル(実質上の)博物館でもある.ウェッブページは現実の博物館の「鏡」であり,ウェッブページはその組織や個人の本質(実質)が出る媒体でもある.したがって,博物館のドメインや活動を見直す必要がある. A 博物館のさまざまな情報に関するデータベースの公開する場である.そのため,独自サイトで運用されるべきで,上部組織や関連組織のサイトの場合,更新や掲載制限を受ける場合があり,ドメインも明確でない. B 内容が施設紹介や展示内容紹介などで,更新されない,問い合わせができない,魅力的でないアクティブでない,単なる電子パンフレットは捨てられる.したがって,インタラクティブなものとし,リファレンス対応などや新しい教育活動の場としてとらえる. C 博物館の経営や教育活動に必要不可欠なものであり,博物館の電子情報化推進の方法でもある.そのために,デジタル化ためのシステム設計の検討が必要となる. 2) 留意点 @ 博物館のメッセージやドメインは明確化されているか. A 来訪者に必要な情報が提供されているか. B 誰にでも見やすいページになっているか. C 博物館に対する新たなニーズが形成されているか. D 来たい人のための情報提供や来訪者に即時対応できる活動と体制があるか. E 独自の意味ある収集活動と情報発信ができているか. |
最終更新日: 2010/09/30
Copyright(C) Masahiro Shiba