石橋忠信・柴 正博
(東海大学社会教育センター 学芸文化室博物課 学芸員)
海・人・自然(東海大学博物館研究報告) 1999年 No.1 81-95
図については一部省略した
要 旨
当センターのホームページへのアクセス件数は,公開以降約34,000件あり,増加傾向にある.この傾向は,一般におけるインターネット環境の整備,すなわちインターネットを利用できる人の増加を意味していると考えられる.また,その季節変化から,当センターへのアクセスは行楽地に関する情報を求める利用者によりかなり影響を受けることが推測できた.しかし,そのような利用者の中からも当センターのコンテンツに興味を持ち,定期的にアクセスしている層も存在する.
利用者からのメールによる質問を見ると,その内容はコンテンツや博物館の展示物を直接的に対象としたものではなく,それらに関連する内容がほとんどであった.このことから,ホームページは利用者の学習に対する動機付けとしてかなり有効に作用することが明らかになった.さらに,インターネットという物理的ネットワークが持つ特性を活用することにより,博物館学芸員相互やホームページにアクセスしてくる利用者をも含めた人的ネットワークの構築が可能となる.これは従来の「友の会」の形を越えた博物館サポーターの獲得にも繋がり,博物館での教育という観点から見ても新たな展開を生み出すことが可能であると考えられる.
これらのことより,一般に広報媒体としてとえられがちなホームページの役割は,まさに博物館の教育行為であり,ホームページでは展示同様に利用者に新しい動機付けを提供する努力が必要である.
また,このネットワークという新しいメディアを利用することにより,従来の学芸活動が徐々に変化しはじめる.オフィスオートメーションという観点でこれらの作業を見直すと,ホームページのデータ作成は必ずしもそれを目的とした作業を必要としないことが明らかになった.さらに、ホームページの運用をキーワードに作業を効率化することにより,展示物およびそのデータを管理するという従来の学芸作業が飛躍的に進歩する可能性がある.
はじめに
インターネットを利用したホームページは博物館の情報発信のひとつの手段であり,この1年で博物館のホームページは急激に増加している.1997年10月に筆者たちが調査した結果(柴・石橋,1998a)では,日本の博物館約3,500館の中でホームページを公開しているところは500館程度だった.そして,その多くは市町村やNTTなどの企業,それと全国科学博物館協議会など博物館関係の協会などのページに付加されている博物館紹介や観光施設案内程度のもので,博物館独自でホームページを製作・管理しているところは100館に満たない状況だった.しかし,その半年後の1998年4月に同様の調査を行ったところ,ホームページをもつ博物館は1,500館以上と半年で3倍以上になり,博物館独自で制作・管理するところも同様に急増していた(柴・石橋,1998b).また,サーバーを設置してホームページ,データベースの公開などに利用している博物館も増加している.
東海大学社会教育センターでは,1996年2月にインターネット活用委員会が組織され,同年5月よりインターネットによるホームページ(http://www.scc.u-tokai.ac.jp/sectu/welcome.html)を公開・運用した.Fig. 1にそのうちの海洋科学博物館(http://www.scc.u-tokai.ac.jp/sectu/kaihaku.html)のホームページを示す.ホームページの公開以後,現在までに当センターのホームページには,約34,000件のアクセスがあった.また,利用者からの電子メールによる質問や問い合せも延べ750通あった.
東海大学社会教育センターのホームページの開設と公開については,すでに柴・石橋(1997)でその詳細を報告したが,本稿ではまず当センターにおけるその後のホームページの運営経緯とアクセス件数の推移や問い合せから,利用状況と利用者の目的について検討する.さらに,ホームページの情報作成の手段の紹介や今後のホームページのありかたの検討などを通して,博物館におけるホームページの情報媒体としての役割について考えてみたい.
なお本稿では,「情報」と「データ」を次のようにに使い分ける.「情報」とは,行事予定などのように媒体に固定されていない状態の情報について用い,「データ」とは印刷された回覧文書などのように特定の媒体に固定された状態の情報に用いる.
ホームページの運営経緯と利用傾向
1. 運営経緯
東海大学社会教育センターのホームページの公開について,1995年12月にセンター内で意思決定がされ,各種調査が開始された.その結果,サーバーの設置場所としては本学海洋学部電子計算機室のワークステーションにエリアを借用できることになった.しかし,海洋学部電子計算機室との取り決めとして,将来的にはセンター内にサーバーを設置し専用線で運用していくことを確認した.
1996年1月に,Macintosh上にホームページのプロトタイプを構築し,公開の予定を決定した.各種の雑誌に取り上げてもらう可能性を考えると,「海」をキーワードにして夏の行楽地に関連させる方法が良いということで,1996年6月までには公開・周知する方針を決定した.なお,オリジナルコンテンツの開発として,海洋科学博物館の特性を活かし,博物館として見ると華やかに,水族館として見ると学術的にという意味合いから,飼育魚類の解説ページを図鑑風に作成することを決定した.
2月にホームページの運用だけでなく,インターネットを有効に利用する方法を検討するために,「インターネット活用委員会」をセンター内に組織し,活動を開始した.インターネット活用委員会では,とりあえずセンターのホームページ公開を第一目標とした.
4月にイニシャルデータを電算機室にアップロードした.その時点ではまだ海洋学部電子計算機室側にPPP接続(電話回線を用いたインターネット接続)の環境ができていなかったため,ホームページのデータをMO(外部記憶媒体の一種)にセーブ(保存)して海洋学部電子計算機室へ持参し,データを端末からtelnetで転送した.以後,リンクやファイルの調整作業を電子計算機室に出かけて行った.
5月にホームページを正式に公開した.Yahooなど各種ディレクトリや東海大学の他のサイトおよび関連団体にリンク依頼を行った.以降,定期刊行物「海のはくぶつかん」最新号およびバックナンバーや特別展などのコンテンツを順次追加公開した.たとえば,8月には海洋科学博物館の特別展「潜水の世界」,10月には飼育魚類のデータ16件を追加.11月には自然史博物館の特別展「静岡県の自然」ならびに定期的に行われる行事の参加者数を追記した.
1997年1月にソフトバンク社『YAHOO! JAPAN internet GUIDE』誌で行われたウェッブ・オブ・ザ・イヤー学術・教育部門において,海洋科学博物館のサイトが3位にランクされた.4月には,センター全体のWeb構成を見直し,検討・修正を行った.自然史博物館のページに展示資料リストの追加もこの時に行った.なお,4月から海洋学部電子計算機室側にPPP接続の環境ができた.
2. 利用者数の推移
ホームページの利用者は一体どのくらい存在するのだろうか.そして,それは博物館で刊行している普及誌の読者数とどの程度の違いがあるのだろうか.ホームページを公開すると,そのホームページに同時にアクセスカウンタを設置するのが一般的である.アクセスカウンタとはホームページにどのくらいのアクセス件数があるか統計を取るものであり,当センターのホームページにもアクセスカウンタを設置した.
当センターのサイトは館内と接続されていないため,カウント値は純粋に外部からのアクセス数のカウント値となる.また,カウント値をチェックする際に各ページを読みに行くと,そのためのアクセスもカウントされてしまうため,カウント値をチェックするための別のページを作成し,不要なカウントアップを防ぐようにした.当センターのように一日のアクセス件数が少ないサイトでは,内部アクセスによるカウントアップがデータに与える影響を無視できないためこのような方法を採った.
ただし,このアクセスカウンタの値は単にそのページにアクセスされた件数ということであり,教育効果測定として利用する値としては疑問が残る.その意味では博物館における入館者数と同様の意味をもつ.
Fig. 2にホームページ公開当初から現在までの社会教育センター,海洋科学博物館,人体科学博物館,自然史博物館のそれぞれのトップページの月次アクセス件数を示す.これを見ると,センターに存在する3つの博物館のトップページへのアクセス状況はほぼ同様なカーブを描いており,季節的なアクセス傾向も同じと考えられる.
1997年1月のアクセス件数が急増し高い値を示しているが,これは前述した『YAHOO! JAPAN internet GUIDE』誌による人気投票で取上げられたことが原因と考えられる.しかし,現在のアクセス件数はこの時の値を越えており,現在は多くの人がインターネットを利用できる環境が確実に普及していることが推定される.
現状ではまだ2年分のデータしか蓄積されていないてため,これがアクセス傾向を明確に示しているとは考え難いが,このデータからは冬場にボトム,夏場にピークが現れる傾向が示される.この理由として,夏は行楽に関する情報を求める利用者が多く,全文一致の検索エンジンで「海」や「ダイビング」などのキーワードを使って検索した結果,海洋科学博物館のデータがヒットしやすいため,アクセスが多くなっていると思われる.
1997年12月から1998年8月までの期間で最大値と最小値の差を取ると約1000件強となり,この1,000件が季節によって行楽地を探している層(浮動層)であると考えられ,同時にいわゆるリピーターとして季節に関らずアクセスする層(定着層)が同時期に約1,000件弱存在しているように見える.しかし,この時点でも行楽地を対象とした検索エンジンのヒットによるアクセス件数が予想される.そこで,センター内の他の博物館ホームページへのアクセス件数を見ると,同一期間にほぼ500件(海洋科学博物館の50%)のアクセスが記録されている.
各博物館のページからは他の博物館にリンクが設定されており,どれかの博物館にアクセスした場合,興味が湧けばすぐに他の博物館にアクセスすることが可能な状態にある.各博物館へのアクセスが外部から直接飛び込んだものなのか,センター内からのリンクによるものなのかは明確ではないが,変化のパタンが海洋科学博物館のパタンとほぼ同じであることから,海洋科学博物館からのリンクによる影響がかなり強いと推定できる.
したがって,センター内からのリンクが主要な要素であったと仮定した場合,最初に海洋科学博物館にアクセスし,かつ他の博物館に興味を持たなかった層は純粋に上記浮動層として扱える.この場合,海洋科学博物館に対する浮動層は約500件弱(ボトム時の50%)存在していると考えられる.これにより,当センターの場合,定着層と浮動層はほぼ同数存在し,1997年12月の定着層はおよそ450件であると考えられる.
他の時期に関しても,海洋科学博物館へのアクセス件数と他の博物館へのアクセス件数の比はほぼ一定であり,約半数が海洋科学博物館以外にも興味を示しているということになる.また,グラフそのものは右上がりに推移しており,浮動層の中から定着層に遷移するパタンも見られるが,浮動層の増加による影響の方が強く,分析しきれていないのが現状である.
ホームページのアクセス分析に関しては,幾つかのツールが公開されているが,当センターの場合,上部組織である東海大学海洋学部のサーバーにエリアを借用して公開しているため,当センターのみの情報が記録されたログファイルが存在しない.なお,当センターの情報も記録されている海洋学部のサーバーのログには,学部全体のアクセス情報が残されるため,ファイルサイズが巨大なため分析できない状況がある.したがって,今回の分析は他のサイトで一般に行われている分析とは多少意味合いが異なるが,ここではホームページの影響しうる範囲の特定という意味で公開した.
以上のことより,1997年12月における定着層450件が海洋科学博物館ホームページによる影響範囲だと考えると,海洋科学博物館における普及誌の個人を対象とした配布件数約200件と比べ,多少ではあるが影響範囲が広いと言える.
このように考えてみると,この媒体の受信側・発信側双方に対するメリットがかなり多いことが明らかになる.また,東海大学海洋科学博物館の場合,ホームページは普及誌と同程度一般に対しての浸透力を持つ可能性が明らかになった.
3. リファレンスの傾向
ホームページには双方向の情報交換手段が存在する.そのひとつに,ホームページ管理者への利用者からの問い合せや質問がある.当センターのホームページでもこのリファレンスサービスを行っている.利用者のほとんどは電子メールで問い合せや質問をホームページ管理者であるインターネット活用委員会宛に送信してくる.
実際に当委員会に届いたメールの月別の数をFig. 3に示す.高低の波はあるものの,全体には増加傾向が認められる.現在までに委員会宛に届いたメールは延べ750通程度であり,そのうち業務に関する内容の物や,同じ内容に関するやり取りを除くと,192通である.
その内訳を見ると,リンクの設定許諾や雑誌での紹介許諾がほぼ半数の92通,メールによる宣伝が12通,残りの88通が質問のメールであった.質問のメールの内容を分類してみると,展示物や展示に関連する内容の質問が65%で一番多く,次いでアクセス方法や休館日,料金に関する質問が10%,博物館やホームページを見た時の感想が7%,資料や写真が借りられないかという問合せが5%,博物館に就職したいのだがどうすれば良いかという質問が5%,残りの8%は博物館やホームページに関係しない質問であった.
展示に関連する質問の中には,ホームページから誘発される疑問と同時に,利用者が探している情報や資料がどこに行けば見られるか,それに関して詳しい人・ホームページや参考書を教えて欲しいという索引的な役割を求めてる質問が非常に多い.
ホームページの持つ意味
1. 広告媒体として
当センターの場合,将来のインターネットの活用を検討する組織としてインターネット活用委員会が組織され,ホームページの公開はその委員会での最初の仕事となった.そして,委員会ではホームページでの一次的な役割をまず広報媒体として扱い,いわゆる博物館のガイドブック的な要素を中心にアピールする方針で作業が進められた.この時点でのホームページでのメリットとして,
a. 作成されたガイドブックを配布するコストが見かけ上不要.
b. 24時間閲覧可能.
c. データの作成は既存媒体からの流用が可能.
という項目が挙げられた.
この考え方によって暫くホームページの運用を続けたところ,一次的には広報媒体として考えていたホームページが,普及活動用の媒体として機能する可能性に気づきはじめた.つまり,作用としては,博物館の存在を知らせる(広報)ところからはじまるが,企画展や普及行事の案内,博物館に収蔵されている資料の紹介という段階になると,単なる広報の域を越え,教育普及的な意味合いが現れはじめることに気づいた.
さらに,展示場を紹介する意味でホームページに展示物の解説が現われはじめると,[物+展示場]という媒体を,[画像+インターネット]という媒体に置換した教育活動として作用しはじめた.加えて,提供する情報として研究報告や紀要などに記載されている論文を考える段階に至ると,単なる広報媒体とは呼びきれない側面が現れてきた.
2. 教育活動の媒体として
1)利用するための環境(インフラストラクチャー)
ここで教育目的の媒体としてホームページの活用可能性を考えてみる.まず,条件としてコンピュータが必要となる.さらにそのコンピュータでインターネット接続し,データの送受信ができることが必要となる.すなわち,インターネット環境のインフラ整備であるが,これを用意することをデメリットととるかどうかはその人や組織の考え方次第となる.
未来永劫にわたりパソコンは不要であり,インターネットによるデータ収集も考える必要がないという博物館も存在するはずであり,このような博物館に対し数10万円の初期投資と年間数万円の通信経費を強いることはできないかもしれない.
一方で,利用者側はどうかというと,現在新品で入手可能なパソコンはほとんどがインターネット接続を考慮した構成になっているため,ホームページを見るためにパソコンを購入するというケースでなくとも,ホームページを見ることができるパソコンを購入することになる.
さらに職場でのOA化推進や文部省による学校教育へのコンピュータ浸透を考えると,親が業務を自宅に持ち帰るために購入したり,子供の教育目的で購入する可能性も高まるため,各家庭にパソコンが入り込むのはもはや時間の問題と言える.したがって,利用者側の受け入れ態勢はほぼできあがりつつあり,ホームページを活用するか否かは全て博物館側の判断に委ねられている.
2)媒体としての博物館のホームページ
次に媒体としての博物館のホームページを現実にある博物館と比較しながらその得失を考えてみる.
(1)授受側の得失
a. 存在そのものが判らない可能性.
現実の博物館は町並みを一変させてしまうため,新しく誕生すればその存在は人々に強力にアピールを開始する.しかし,ホームページの場合,人々が普段目にする景観は全く変化せず,いつできたのかが判らないことが多い.
b. 休館日がない.
現実の博物館は一年365日無休での運用はほぼ不可能に近く,週に一度程度や年末・年始に定期休館日を設定している.ホームページではこれが当てはまらず,365日無休での情報提供が可能である.
c. 利用時間に制限がない.
開館時間を考えた場合,職員の管理面や利用者の状況を考えると24時間開館していても無駄であり,現実的には9時から17時付近までという時間帯で公開しているところが多い.したがって,真夜中に調べ物をしたい利用者が現われても,希望にそうことは不可能であるが,ホームページでは可能である.
d. 地理的な距離を気にする必要がない.
同じ町内に博物館があれば,毎日出かけて行くことも可能であるが,東京から大阪,北海道から沖縄というように距離が離れていると,一生のうちに一度という訪問にならざるを得ないことになる.しかし,ホームページであればアクセスするのに必要な費用として市内もしくは隣接区域への電話料金を考えればすむ.
e. 展示場では参照し難い出版物なども簡単に読める可能性.
博物館の展示場には限りがある.その限りあるスペースの中で最大限に情報を提供しているのであるが,やはり限度が存在する.ホームページにも量的な制限が存在する.しかし,その制限の枠を広げるために必要な費用は,現実の博物館における展示場拡大に必要な費用の恐らく0.1%にも満たないだろう.さらに,最初に存在する制限に対し,実際に用意されているデータの量は多分1%未満であると思われる.つまり事実上全く影響を受けないレベルの制限として考えて構わない.したがって,用意されていさえすれば,個々の展示に関する説明で,ホームページから論文集に匹敵する量のデータ,論文集そのものも利用することが可能になる.
f. 実物ではない.
ホームページに存在する情報は実物ではない.触れないし,香りもない.大きさもデータの形になった時点で実世界のサイズとは別のものになっている.逆に言うと,実物にとらわれないから,ネットワークを通じて色々な場所から情報を入手できる.
(2)提供側の得失
a. データを作成する必要.
最初に公開するデータの作成はかなり困難である.まったくの手探り状態から作り出さなければならない可能性もある.さらに,ホームページを生きた状態に保つため,データの更新・追加の作業も発生し,それは作業の増加にあたる.そしてそれはルーチン化する可能性が大きい.
b. データの蓄積によるデータベース効果.
ルーチン化されたデータ追加を続けると,徐々にデータが蓄積されてくる.そしてそれは,データベース化することが可能な形式のデータである.普及誌の記事を登録し続けていれば,キーワードで検索できる解説データベースを構築できるようになるはずであるし,その時には,学芸員自らの役に立つ情報源となり得る可能性もある.
(3)博物館のホームページの得失
この様な観点から見ると,利用者側からは実物ではないというデメリットがあるが,逆にそれ故いつでもどこでも情報が引き出せるというメリットが存在し,提供側からすると作業量の増加は発生するが,本来の教育活動と同じルーツを持つという点や,蓄積された結果が新たな利用価値を持つという意味から,意義がある作業であると思われる.
ホームページの情報
1. 期待される情報
ホームページという媒体を通して伝達される情報として,利用者が望んでいる内容は何なのか.利用者は目的とする情報を入手するためにホームページを訪れるはずである.利用者は目的にたどり着かなければ学習が成されないため,そこには道案内的な機能が必要になる.インターネットを巨大な図書館として考えた場合,一冊の書籍である博物館ホームページがどの書架のどこの位置にあるのかを探し出す司書的な機能が必要であり,その機能は利用者からの需要はかなり多い.
現在,ホームページの世界ではこの機能として「検索エンジン」と呼ばれるサービスが提供されている.これは利用者が検索エンジンにアクセスし,そのページから探したいキーワードを入力して検索を実行すると,該当するホームページの一覧が出力されるというサービスである.これは利用者からすると非常に便利なサービスであり,筆者らもかなりの頻度で利用している.
しかし,博物館のホームページという意味で言うと,司書の機能よりはやはり書籍としての機能が要求されるものと思われる.つまり博物館への司書的情報は外部の検索エンジンなどにまかせ,書籍的情報を博物館で提供するということになる.ただし,書籍が厚い場合には索引の機能が欲しくなるのは当然であり,ホームページのデータが充実するに従い,ホームページに検索の機能も用意する必要がある.
2. 公開されるべき情報
博物館には色々な側面があるが,資料の保存という立場から見ると収蔵されている資料のリストは公開されるべきであると考えられる.また,普及誌や年報・研究報告など,一般に公開する目的で作成されている印刷物の類は全て公開して構わないものと考えられる.
同時に純粋に利用してもらうための情報,たとえば入館料や開館時間,休館日などの情報も欠かせないものである.また,アクセスのための交通機関の時刻表や料金,近辺駐車場の有無や料金,道路の混雑状況が得られるローカルFM局の周波数など,細かく考えると色々な情報がリストアップできる.中でも交通機関の時刻表などは,利用者から見ると便利な情報だと考えられるが,文字数が多いためパンフレットに載せ難い.交通機関を運営している組織がホームページで時刻表を公開している場合も考えられるため,リンクを貼っておくだけで最新の情報にアクセスできるようになる.
しかし,博物館が教育機関であり,ホームページが教育機関に管理されていると考えるならば,内容的には教育目的のデータが提供されるべきであろう.ただしこの点は現実の博物館での検討要素と全く同じとして扱えるため,本稿では簡単に触れるに留める.
1)情報の範囲
情報が網羅されていることが重要なのか,掘り下げられていることが重要なのかという点では,博物館がテーマを持つという意味において掘り下げられた情報が提供されているべきであり,博物館で得られた研究成果など他では得られない情報を提供する必要がある.
2)情報のレベル
博物館には年齢制限はなく,解説のレベルをどこに置くかは重要な問題である.そしてそれはホームページにも当てはまる.博物館が対象としているのは大人なのか子供なのか,単に興味を持つ人間なのか研究者なのか.誰を対象にするべきか.単に興味を持つというレベルの人間を次のレベルに向けて育てようとする,という教育の目的に沿うのであれば,入口の敷居は低く,奥座敷は高度にという構造が必要となる.
たとえ現時点で理解できない内容が提供されていたとしても,一年後には理解可能になっているかも知れないし,その内容が理解できない時点では,そこに繋がる学術的背景や雰囲気だけでも感じ取れれば良いのかも知れない.
データ作成の手段
ホームページを公開し運営する場合,博物館側にとっては唯一送信側からの障害として,データ作成の手間という問題が浮き上がってくる.そこで,この問題をどう捉え,どう対処して行けば良いのかという点について,ここでは色々な角度から考えていくことにする.
一般的に博物館におけるホームページ運用に関し,外部に委託するという手段を用いることが可能である.この媒体をパンフレットなどと同様の広報手段として考えた場合,そのデザインや手法に関しては学芸員よりも専門業者の方が技術的に優れているため,外注の形式を取ることが多くなる.
ここで注意すべき点は,この媒体を使って何を訴えるべきかという目的を明確にしておくことである.また,多くの利用者にアピールするためには,セールスポイントのように内容や表現で他の博物館ホームページとは違う何かが必要になるかも知れない.これは単にホームページ上のということだけでなく,博物館の展示においても必要な要素であり,これを含めて外注してしまうと,そこには教育的配慮のない単なる広報の情報に逆戻りしてしまう可能性もある.
つまり,学芸員のアイデアを実現するためにデザインと手法を外注するという形式が望ましい.そしてできうるならば,ホームページのためのデータは学芸員自ら作り出すことが望ましい.デザインに凝らないのであれば,それは決して難しい作業ではなく,ホームページのためだけに特別に必要となる作業でもないのである.
1. 電子化の必要性
1)HTML
ホームページで表示される情報は,HTML(Hyper text markup language)と呼ばれる書式にしたがって記述(プログラム)された一種のテキストファイル(HTMLファイル)をもとに提供されている.したがって,ホームページを利用して情報を公開しようとした場合,その情報は一旦HTMLファイルの形式に変換される必要がある.
以前,オフィスオートメーション(OA)という言葉が盛んに使われていた時期があるが,この時期に導入された機器にワープロがある.あのブームのおかげで,かなり色々な職場にワープロが導入され,現在パソコンはないがワープロならある,という職場がかなり多くなっている.
HTMLファイルは,このワープロを利用して作成することが可能である.そのため,テキストファイルとして保存する機能のあるワープロであれば,ホームページ用のデータを作成することが可能であり,かなり多くの職場でホームページのデータを作成することが可能となる.
ワープロの利点は,単に文字を美しく印字するだけでなく,作成した文章を再利用できる点にある.依頼状など,一旦ひな型を作ってしまえば後は日付と利用者の部分を書き換えることで,作業の繰返し部分を非常に少なくすることができる.したがって,一度作成した文書は必ず保存し,以降の再利用に備えるという姿勢が非常に重要である.
このような形で情報が蓄積されていれば,ごく普通のワープロ文書がホームページ用のデータとして再利用可能になる.たとえば,広報用の資料がワープロで作成され,印刷・配布してその役目を終えたとしても,ファイルが残っていれば,そのファイルにTAG(タグ)と呼ばれるマークを挿入することでホームページ用のHTMLファイルができあがる.
さらに,新たに文書を作成する場合においても,一旦普通の文書として保存(セーブ)した文書を読み出し,TAGを挿入してテキストファイルとして保存するだけで従来の目的用ファイルとHTMLファイルがほぼ同時にできあがる.
当センターでの場合,定期刊行物の編集作業にワープロソフトを使用しており,数年分のバックナンバーはテキストファイルとして保存されている.データ作成というと新たに何かを作り出す必要があると考えがちであるが,現状のデータを流用することを考えると意外なところにもデータが存在することに気づく.
つまり,ワープロを使って作業しているセクションで作り出されるデータは,ほとんどホームページ用のデータとして流用可能であり,作業としてもホームページ用のデータとして作成しているわけではないため,ホームページ用のデータ作成コストとしてはほぼ無視できるレベルになる.後はTAGを埋めこむための人件費であり,文章そのものを考える必要がないので,時間的にもかなり少なくすることができる.
2)オートメーション
そもそもオートメーションとは,素材がベルトコンベアの上を移動し,それに対してコンベア脇から順番に加工して行き,目的の製品を作り出すことである.それでは,OAと呼ばれるオフィスにおける系をどのように考えれば良いのだろうか.
この場合,素材は電子化された情報である.たとえば,1990年の4月から1998年3月までに実施された特別展のデータがあったとする.これらのデータをもとに特別展入場者推移を作成したいこともあるだろうし,実施期間の一覧が必要な場合もある.OAと呼ぶのであるから,少なくとも数回のマウス操作で出力が得られる必要があるだろう.とすると,この場合OAを実現する核となるのはデータベースソフトである.
つまり,職場に存在する情報が電子化され,データベースとして機能していれば,ホームページ用のデータを作成する作業も自動化される可能性があり,ホームページ運用のみを目的とした特別な作業は姿を消してしまうのである.
3)通常業務の電子化とデータベースへの登録
現在行われている作業を電子化していくということは,単にホームページ運用のためにというのではなく,職場のOA化を推進していくという意味を持つことになる.ただし,職場における情報の流れと処理方法を考えた場合,ホームページ運用という目的を持たなかったとしても必然的にその方向に向かうことになり,ホームページ運用と通常の業務変化における結果が同じ方法によって実現されるとことになる.
そこで,現在手作業によって遂行されている業務を電子化していくことになるが,その場合一番重要なのは手作業の時代よりも作業者の負担を少なくする工夫をすることである.さらに,手作業で処理するための最善策と,電子化すなわちパソコンで処理するための最善策は違う可能性があるという点も認識しなければならない.
つまり,OA化を実現するためには,新しい作業手順で処理しなければならない場合も発生する.従来は一週間分まとめて処理していた作業を,発生した時点で毎日処理しなければならない,というようなことになる場合もある.また,こうした作業手順の見直しにより,今まで気づかなかった無駄の発見や順序の組合わせや変更による作業工程の短縮などが副作用として現れる場合もある.
当館で公開している生物解説のデータを作成する場合,最初の時点ではまずレイアウトを決め,そのファイルをひな型として保存し,データ作成のたびにひな型に情報を書き加え,別のファイル名で保存してデータを作成した.数にしておよそ100を越える程度であるが,これらのデータはホームページ初公開の際にアクセスできるようにした.その後,数回にわたり数10枚のファイルを追加し,現在では200件弱のデータが公開されている.
運用して気づいた問題点であるが,このように手作業でファイルを作成する場合,ホームページ上でのレイアウト変更が非常に難しくなる.変更するファイルの量にもよるが150を越えたあたりから,気力・体力ともに維持できなくなってきた.この生物解説の場合,簡単な検索の意味もあってアイウエオ順の一覧ページも作成してある.ファイルを追加した場合には当然こちらのファイルも変更する必要があるが,忙しさにまぎれ,チェックが甘くなり欠落するデータが発生したりもした.
この時点で将来計画としてデータベースソフトを利用しないと,維持管理が破綻するであろうと予測し,時間を見つけては現状のデータをデータベースソフトに乗せたり,新規の情報は最初からデータベースソフトを利用して登録するなどして,処理するための実験を開始した.特に切実な問題として持ち上がったのが,1998年2月から実施された郵便番号7桁化である.解説用のデータには全て住所が記載されていたため,これをきっかけにして,ホームページ用データでもデータベースソフトによるデータ管理とHTMLファイルの自動生成に踏み切ることになった.
最近の市販データベースソフトでは,HTMLファイルへの自動変換機能があるものもあるが,手持ちのデータベースソフト(1995年発売)がHTML形式ファイルの出力に対応していなかったため多少の工夫が必要だった.HTMLファイルの自動生成の完成により,現在では300件弱のデータから同数のHTMLファイルを生成する時間が2分程度に短縮された.
さらに具体的な利用には至っていないが,このデータベースソフトを利用すれば飼育生物の解説板を改修する際に版下を出力することが可能となり,文字データをフロッピーで入校できる業者を利用すれば校正の作業が極端に少なくなるはずである.
データベースソフトはワープロソフトと比べると柔軟性が高く,単にホームページのための情報管理として使いはじめたとしても,その応用は多岐にわたり展示を含めた広い範囲での情報利用が可能になる.最近では,安価な市販のデータベースソフトでも80万件のデータを瞬時に検索できるようになり,博物館の学芸員自身が市販ソフトを利用して手軽に標本データベースを作成することが可能となった(小川,1997;勝山,1998).前述したOA化を検討する場合,このデータベースソフトの導入は必須となるため,いきなり重要な情報で運用するのでなく,ホームページ用といった基幹業務に影響を与えない情報を利用してトレーニングを開始するのも一つの方法である.
このような観点から見ると,ホームページ用のデータ作成という作業を考えるよりも,OA化を睨んで職場の情報の流れを把握し,電子化・合理化していくことこそがホームページの充実のために流用し得るデータの作成を生むと考えた方が良い.また,電子化が進むに連れ,ホームページ用のデータを自動生成できる環境が整ってくる.つまり,日常の業務でデータの管理をしていれば,ホームページで公開するためのデータは自動的に生成可能となり,全く意識する必要もなくなる可能性すらある.
2. 情報の表現の可能性
ここでは,ホームページという媒体を使ってどのような表現が可能なのかを確認していくことにする.ホームページという媒体は,提供するデータをネットワークを通して利用者のパソコンに送り込んで表示するという構造になっている.したがって,利用者側のパソコンの表示能力やネットワークでのデータ通信速度によって表示速度が著しく変化する可能性がある.
博物館ホームページの利用者は,おそらく一般市民であり,プロバイダ(インターネット接続サービスを提供する業者)に接続料を支払い,自宅からプロバイダまでの電話料金をも自己負担する必要がある.現在ではかなりのディスカウントが存在するため,数年前までとは比較にならないが,URL(Uniform resource locator:ネットワーク上でのデータ存在場所を示す文字列,住所の様なもの)を入力してから画面に表示されるまでの時間が,かなり気になる要素として存在するものと思われる.また,経済的な要素と同時に「待たされる」という精神的な不満も発生するため,表示までの時間短縮は重要な要素である.しかし,その原因の多くはネットワーク上の通信速度や混雑具合によるものであるため,博物館側で努力しても無駄,という考え方も存在するが,あくまでもサービスであると考えるのなら,一件のデータをコンパクトにして転送時間を短くし,利用者をイライラさせない努力は大切である.以下,これを踏まえて媒体上での表現を考えていく.
1)文字
まずは文字による文章表現.これは表示に必要な環境(利用者側パソコン)の能力が低くてもほとんどストレスを感じさせないで提供することが可能である.しかし,巨大な論文を一つのHTMLファイルにした場合にはデータを取り込むまでに時間がかかるため,サイズを考慮してファイルを分割するなどの処置が必要となる.
2)写真・イラスト(静止画像)
写真やイラストによるグラフィック表現は,データ量に比例して転送時間が必要になる.したがって,パソコン上のモニタに表示するという前提を考えると,無意味に品質の高い写真やモニタに表示しきれない程大きいグラフィックなどは,データ表示を遅くするだけという結果になる.
3)アニメーション(Animated GIF)
アニメーション表現(ここではイラストファイルの機能拡張として実現されるモノを意味する)は,楽しさを演出する場合に利用可能であるが,サイズやコマ数による転送時間に注意が必要である.
4)動画(ビデオ画像)
ホームページでは,いわゆるビデオの画面を送ることも可能である.貴重な生物の生態などを記録した画像が存在すれば,ホームページ上で公開することもできる.しかし,写真やアニメーションに比べ,ファイルのサイズが巨大になり,利用者側のパソコンで表示させるためにはプログラムも必要となる.
5)その他(プラグインによるもの)
BGM的に音楽を流したり,ボタンをクリックすると音が出たり,3次元画像が操作できたり,リアルタイムでテレビカメラを操作し,遠隔地の様子を見ることができたり,この分野は次々に新しい機能が開発され,現在提供されている.これらを利用するためには,利用者側にプラグインと呼ばれるサブプログラムが組み込まれている必要があり,データの形式によって様々なメーカーからプラグインが提供されている.さらに利用者によって組込み状況も様々であるため,博物館側ではプラグインを指定し,利用者が確実に再現できるようにする必要がある.
以上の要素から考えると,1)と2)は解説パネルやキャプションと等価であり,3)と4)はビデオを利用した展示と等価であるとして考えることができる.ホームページ特有の表現として,3)と1),2)を組合わせ,解説パネル上でアニメキャラクターが動きまわる,というような表現が可能になる.さらに5)を利用すると,博物館の展示場では表現しきれない新たな表現可能性も考えられる.これからの博物館ホームページの展開を考えていく上で,この新たな表現可能性は非常に重要な意味を持つと思われ,先進的なホームページを持つ館による積極的なアプローチが期待される.
3. 電子メールの有用性
ここまでホームページを中心として検討を進めてきたが,実はインターネットで利用可能な機能のひとつとして電子メールがある.ホームページのようにセンセーショナルに宣伝されていないために,なかなか話題に上がらない感もあるが,実はホームページを運用していく上でかなり重要な位置を占める機能である.
電子メールは,その文字からかなり想像しやすい機能であり,一口に言えば,ネットワーク経由で配達される郵便物のような物である.実際には普通の郵便物とは違うところがあるが,イメージとしては私書箱を借り,私書箱を対象として郵便が配達されると考えて構わない.
では,何故それが重要な位置を占めるのだろうか.それはひとえに「手軽」だからである.電子メールはネットワーク(インターネット)に接続されているパソコンから簡単に送信することができる.一般的にパソコンを利用していない人間が電子メールを送ろうとした場合,まずパソコンを立ち上げ,インターネットに接続し,手紙を書いて送信し,インターネットの接続を遮断し,パソコンの電源を切る,という作業が必要になり受け取る場合もほぼ同じ手順が必要となる.
したがって,どこが手軽なのか,という疑問も出て来るのだが,ホームページを見ている場合,パソコンを立ち上げ,インターネットに接続する状態が既にできているため,電子メールを送ろうとすれば,手紙を書いて送信するだけなのである.現実の郵便物と比較するならば,切手を準備して貼ったり,ポストまで出掛けて投函する必要もない.手紙が届いているかどうかも,マウスをクリックするだけで確認でき,届いていれば受信して読むことも,その場で返事を送り返すことも簡単に可能なのである.
1)リファレンス
利用者はホームページを見ていて疑問が湧いた時点で,手軽に質問の手紙を送信可能な状態にある.この時,利用者の学習要求は非常に高まっていると考えられるため,この機を有効に利用することがホームページにおける学習効率を高められるチャンスとなる.
当センターに届いた質問のメールの65%が展示物に関する内容であり,学芸員になるための方法の問合せを含めると,70%がホームページが学習の動機として機能していることになる.ただし,質問に対する回答がスムーズに行われない場合,質問者にはマイナスのイメージが発生するため,電子メールを利用したリファレンスに対する体制を構築しておく必要がある.
当センターの場合,今のところホームページにアクセスして実際に問い合せや質問のメールを出す利用者の比率は少なく,アクセスされた数の0.3%程度の比率である.実際の件数に関しても,質問のメールは10日に1通程度であるため,担当者はそれ程の負担にはなっていない.ただし,月ごとに届いたメールの数を見ると,やはり右上がりに推移しており,件数の少ない間にメールの内容を累計化しておく作業は必要だと思われる.
当センターの場合,ホームページ公開当初,管理者のメールアドレスがなかったため,「質問はFAXでお願いします」という具合に処理するつもりだった.しかし,「ホームページを公開しておきながら,わざわざFAXで質問させるとは何事か」という利用者からのおしかりのFAXが舞い込み,慌ててメールアドレスを申請したという苦い経験がある.
考えてみれば,電子メールを紙に印刷することで手紙やFAXによる質問と同様な作業で対応が可能となり,返信のみを再度電子メールで行えば問題は解決できる.したがって必要なのは回答を得るための体制(すでに構築されている)ではなく,電子メールを送受信し,現状の体制に合せて処理させるための体制である.
2)ネットワーク
電子メールを利用した機能のひとつにメーリングリストというサービスがある.これは一通の電子メールを会員限定のサークル全員に送信する機能で,特定のメールアドレスに電子メールを送信すると,登録されている会員全員に配送されるというサービスである.つまり,一通の電子メールが複数の人間に届くということであり,あたかも電子メールを使った会議のような作業を行うことも可能となる.
電子メールは自分の好きな時刻に送信し,好きな時刻に受信できる.電話の場合には送信側の都合で送信が開始されるが,受信側の都合はまったくと言って良いほど考慮されていない.一方,電子メールの場合,送受信とも双方の時間的要素にほとんど束縛されない.
実際に会議を行う場合,出席者全員が時間と空間を共有する必要があり,人数が増えるにしたがってその調整が難しくなる.しかし,メーリングリストであればこれらを共有する必要がなくなるため,広い範囲の参加者による,じっくりと考えた結果を集積することが可能になる.博物館におけるメーリングリストの利用として,友の会などの情報提供や会議室として利用できるばかりでなく,館内職員への相互情報提供などにも利用できる.
ところで,ここまでは電子メールについて解説を行い,ここでいきなり「ネットワーク」という語を使いはじめている.つまり,これは暗黙のうちに「ネットワーク」を「物理的ネットワーク」と解釈してもらおうという意味であり,このメーリングリストを利用することで,ネットワークの持つ別の側面,「人的ネットワーク」の構築が可能になるのである.
電子メールの特性として,「本人の私書箱に直接届く」という点がある.ネット上にメールアドレスを公開した人は,社会的な地位や経験による肩書きによってでなく,単にネットワーク上にアドレスを持つひとりの個人として扱われる.さらに,メーリングリストという環境は,時間・空間による制約も少なく,参加者全員が対等であるという自由な環境を作り上げる.ここで討論を繰り返すことにより,参加者のパーソナリティが明らかになり,自然に個人と個人のネットワークが構築されていくのである.
筆者らは,電子メールやインターネットというものは,物理的ネットワークを利用しながら結局は人的ネットワークが構築されていくところに一種の不思議さ,面白さを感じている.しかし,やはり物理的ネットワークは人的ネットワークをサポートする手段にしか過ぎないという気持ちも強く持っている.
情報の伝達形式と受信者を意識した情報提供
ここまで,ホームページの意味やそれを媒体として伝達される情報に関する内容を説明してきたが,ここではその情報がどのように利用者に届いているのかを考えてみる.博物館がホームページを公開し,情報を発信しているとすると,利用者はその情報をどうやって受信しているのだろうか.
今まで説明してきたように,利用者はホームページのURLを入力し,博物館のホームページが存在するサーバーからデータを引き出して情報を入手している.それはたとえると,玄関先にあるパンフレットを取りに博物館の玄関までやって来るという情報の伝達形式である.もちろんインターネットを通して電子的に,という条件がつくため利用者が「面倒だ」と感じることは少ないかも知れない.
これを利用者(クライアント)がホームページ(サーバー)からデータを引き出すという意味で,クライアントプル(Client pull)と呼ぶことにする.Client pullとは,本来,ホームページ上でアニメーションを実現する方式として使われる言葉であるが,ここでは他に適切な言葉を見つからないことから,あえてこの言葉を使用させて戴く.この形式であると,Pullされない限りデータは転送されず,情報は伝達されない.
利用者の意識からすると,ニュースや新聞の様に毎日更新されているページでない限り,頻繁にホームページにアクセスする必要はなく,時々しかアクセスしないでいる間にアクセスすることすら忘れてしまう可能性がある.そうなると,その間に博物館がホームページのデータを更新・追加していたとしても,情報は利用者には届かない.たとえその情報が利用者が望んでいた特別展の開催情報であったとしても,である.
一方,電子メールを考えてみる.電子メールは送信側のタイミングで受信者側の私書箱に情報が届けられる仕掛けである.これをクライアントプルに対しメールサーバーがデータを押し出すという意味でサーバープッシュ(Server push)と呼ぶことにする.この形式ではデータはサーバーのタイミングで転送され,私書箱に蓄積されるため,利用者に忘れられることはなくなる.
ホームページでは表現に工夫されたデータが用意されていても,利用者がアクセスしないと情報は伝達されない.逆に,電子メールはネットワークに接続するだけで情報を入手できるが,表現としては文字情報が中心にならざるを得ない.この状態では双方がなんとなく中途半端な機能に思えてくる.そこで,これらを組合わせて,ホームページでのデータ更新を電子メールで周知するというシステムを構築すれば,この問題は解決するのではないか.さらに,「電子メールによるお知らせサービス」をホームページ上から登録できるようにして,希望者にはメールアドレスを記入してもらうようにしておけば,利用者はサービスを受けられる.
すなわち,電子メールでは最低限の情報を取りあえずお知らせし,どのページが更新・追加されたかを示して詳しい内容はホームページで見てもらうような構造になる.さらに,あらかじめ博物館でメーリングリストを設定しておけば,申込者が増えてもお知らせのメールは一通だけで済むため,件数が増えていっても作業量を心配する必要はない.また,この方法をインターネットにアクセスできない利用者にまで範囲を広げようとした場合,電子メールの代りにFAXを使うという方法も考えられる.ただし,この場合には電話回線が必要となったり,FAX用のモデムが必要となるため,博物館の中に物理的なサーバーを持っていないと難しい.しかし,一般家庭へのFAXの普及率を考えると,全く無駄になるアイデアとは言い難い.
ホームページの本質
当センターのホームページへのアクセス件数の増加は,一般におけるインターネット環境の整備,すなわちインターネットを利用できる人の増加を意味していると考えられる.また,その季節変化から,当センターへのアクセスは行楽地に関する情報を求める利用者によりかなり影響を受けることが推測できた.しかし,そのような利用者の中からも当センターのコンテンツに興味を持ち,定期的にアクセスしている層も存在する.
利用者からのメールによる質問を見ると,その内容はコンテンツや博物館の展示物を直接的に対象としたものではなく,それらに関連する内容がほとんどであった.このことから,ホームページは利用者の学習に対する動機付けとしてかなり有効に作用することが明らかになった.さらに,インターネットという物理的ネットワークが持つ特性を活用することにより,博物館学芸員相互やホームページにアクセスしてくる利用者をも含めた人的ネットワークの構築が可能となる.これは従来の「友の会」の形を越えた博物館サポーターの獲得にも繋がり,博物館での教育という観点から見ても新たな展開を生み出すことが可能であると考えられる.
ホームページによる情報提供が単なる広報目的であるとすれば,筆者らはこのような文章を公開することもなく,自らのページを充実させていくことに終始していたと思う.しかし,ホームページの本質が教育普及であり,伝達可能な範囲が地元からの利用者も北海道や沖縄といった遠距離にある利用者も,ホームページ利用に関して言えばコスト的にほとんど差がないメディアであり,この媒体の特性と新しい表現可能性について考えるにつれ,何とか有効に利用すべきだと思いはじめるようになった.
博物館の機能は教育であり,教育の目的は人を変えることであると思われる.博物館の多くは特定の分野に絞って資料を収集・研究し,展示物や解説にその特徴を反映させることで,入館者の学習意識(知的好奇心)を促する組織である.それでは,博物館は人をどう変えたいのか,これが学芸員に課される最初のテーマだと思う.博物館での教育手段として,[物+展示場],[普及活動],[出版物]という媒体を利用しているが,やはり一番重要なポイントは何を訴えたいのかという意識,すなわち「主張」である.
博物館のホームページにとっても最も重要な要素は「主張」であり,それは[画像+インターネット]という媒体を利用するとはいえ,博物館活動のひとつであることにちがいない.これらのことより,一般に広報媒体としてとえられがちなホームページの役割は,まさに博物館の教育行為であり,ホームページでも展示と同様に利用者に新しい動機付けを提供する努力が重要である.
また,このネットワークという新しいメディアを利用することにより,従来の学芸活動が徐々に変化しはじめる.ホームページを公開し,データを更新・追加していくという作業を行うと,職場での情報整理が進化しはじめる.そして,ホームページの維持・管理,すなわち運用が学芸活動と同じ意味を持つのと同時に,情報が整理された職場,すなわち学芸活動の拠点が進化して行くことになる.オフィスオートメーションという観点でこれらの作業を見直すと,ホームページのデータ作成は必ずしもそれを目的とした作業を必要としないことが明らかになった.さらに、ホームページの運用をキーワードに作業を効率化することにより,展示物およびそのデータを管理するという従来の学芸作業が飛躍的に進歩する可能性がある.
ある目的のために「もの」を調査・収集し,保管・収蔵および研究して,その成果を教育・普及するという博物館の機能を考えれば,その仕事やデータ全体をデジタル情報という形で残し,ひとつの情報の流れ(系)の中で館内および館外の人にも利用できるようにすることは,博物館の最も重要な仕事である(柴・石橋,1998b).この重要な仕事を学芸員が中心となりシステムを構築するべきであり,ホームページが導入されることをきっかけに,各博物館における情報管理環境の向上を,ひいては学芸活動の一層の加速を,筆者らは願って止まない.
引用文献
勝山輝男(1998)標本資料データベースの構築についての一考察.科学系博物館における標本データベースの標準化に関する調査研究委員会編:標本資料データベースの標準化に関する調査報告書(平成9年度),全国科学博物館協議会,東京,38-40.
小川 誠(1997)博物館の情報整理.徳島県立博物館ニュース,28,2-3.
柴 正博・石橋忠信(1997)東海大学社会教育センターにおけるホームページの開設.静岡県博物館協会研究紀要,20,51-60.
柴 正博・石橋忠信(1998a)博物館におけるホームページの活用と展開.静岡県博物館協会研究紀要,21,11-21.
柴 正博・石橋忠信(1998b)博物館のデジタル情報とインターネット利用.地学雑誌,107(6),809-816.
|