静岡県博物館協会インターネット活用研究会の活動



柴 正博(東海大学社会教育センター)・石橋忠信(東海大学社会教育センター)
泰井 良
(静岡県立美術館)

静岡県博物館協会研究紀要,no24,14-23
図については一部省略した



はじめに

「静岡県博物館協会インターネット活用研究会」は、1998年度から静岡県博物館協会の一つの研究会として活動を開始しました。本稿では、その設立とその後3年間の活動について述べ、今後の活動の方向について検討したいと思います。


研究会の設立経緯

 インターネットの利用や各機関でのホームページの開設は、日本では1994年頃から始まりましたが、1996年になるといくつかのパソコン通信網でもインターネット接続を開始し、家庭でもホームページを見ることができるようになりました。また同時に、ホームページを公開する博物館もいくつか出現してきて、まさにインターネットの幕開けの時代でした。その後、ご存知のように、インターネットでのホームページや電子メールなどの利用者は毎年急増し、ここ1年では携帯電話からのインターネット接続も利用者を増やし、その勢いは劇的に増加しています。

 筆者のうち柴と石橋は、1997年から「博物館にホームページを!」という研究(柴・石橋,1999)を行っていて、その活動に電子メールを利用したメーリングリストを活用していました。メーリングリストとは、登録された会員のひとりが特定のメールアドレスに電子メールを送信すると、登録された会員全員にそのメールが配信されるもので、情報交換には有効で、さらにあたかも電子メールを用いた会議のような作業を行うこともできます。

 「博物館にホームページを!」の研究では、そのメーリングリストの参加者で「博物館ホームページ推進研究フォーラム」を結成しました。この活動の目的は、博物館が将来多くの人に利用されて必要とされるためには、博物館に是非ともホームページが必要であり、それぞれの博物館のホームページが充実すればそれらを結ぶネットワークは、利用者や博物館にとってとても有効なものになるだろうというものでした。

 「静岡県博物館協会インターネット活用研究会」は、今後予想される高度情報化社会における博物館でのインターネット利用を研究する目的をもって、設立されました。設立目的は、インターネットの活用について学習するとともに、博物館職員が相互交流を行いながら静岡県内の博物館相互のインターネットによるネットワークを将来において構築していこうというものでした。


活動内容

 「インターネット活用研究会」では、まずその活動として、インターネット利用に関心のある県内の博物館職員にメーリングリストに参加していただき、その中で情報交換と相互交流を行いながら、研究会を発展させていくことにしました。インターネットを利用したメーリングリストでは、距離的に離れていても参加者相互の電子メールによる情報交換が容易なため、メーリングリストに参加することで研究会のメンバーとして情報交換や討論に参加することができます。また、実際に集まって行う研究会や講習会も以下に述べるように行い、また静岡県博物館協会の研究会にも積極的に参加してインターネット利用についての発表や討論を行いました。

そのような場では、メンバーの相互交流や博物館のインターネット環境の整備などについて研修を行いました。そのような機会には、電子メールを利用できない方にも参加していただきました。なお、研究会ではその活動の一つとして、将来、静岡県博物館協会のホームページを開設して、加盟館のネットワークを支援するためのインターネット環境の整備についても検討していました。

1 研究会のサーバーの設置

 「インターネット活用研究会」では、1998年5月に静岡県博物館協会事務局のある静岡県立美術館内にインターネット活用研究会の実験サーバー(lemon)を設置しました。研究会では、博物館でホームページやインターネットを今後どのように利用すればよいか、このメディアを使って博物館にとってどのようなことができるかを検討するために、このサーバーを利用して以下のような実験を開始しました。

 まず、研究会の活動の核となるメーリングリストの設置と運用を行いました。そして、特別展・企画展情報をメールで配布するCGIによるメールサービス(http://www2.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/exp/infocast/cst_info/spool/smml/)を作成しました。さらに、メールからHTMLファイル(ホームページ)を自動作成するプログラムの制作とその検索プログラムの実験、さらに『博物館住所録データ』をもとに実験サーバー上にSQLデータベースを構築し、Webブラウザを利用してアクセスして博物館住所を検索する実験(http://www2.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/exp/dbms/museum/search_muse.html)を行いました。

これらの実験は、博物館におけるホームページの作成や管理、メールの利用やメーリングリストの活用、さらにメールやテキスト(文章)からのHTML自動変換によるホームページの更新と検索への活用、データベースの作成とWebブラウザによる遠隔更新、ホームページからのデータ検索利用(図1)といったもので、インターネット利用だけでなく今後の博物館における電子デジタルデータ管理と活用に必要と思われるものです。これらは、FreeBSD上で動作するフリーウェアのみを利用して筆者のひとり石橋が設置・運用しました。図2にそのシステムの概要を示します。

   

図1 メールや文章(テキストファイル)からのHTML自動変換によるホームページの更新と検索をするシステムと、データベース(バイナリーファイル)の作成およびWebブラウザによる遠隔更新と検索をするシステム

図2 インターネット活用研究会の実験サーバー(lemon)のシステム概要


 このシステムの特徴は、ホームページ公開に必要となる経費を低く押える事を目的として構成されているところにあります。ハードウェアは、いわゆるDOS/Vと呼ばれるIBM互換機であり、どこにでもある古くなったパソコンを利用しています。OSも市販のものは避け、フリーなパソコン用UNIX(PC-UNIX)であるFreeBSDを採用する事で、その費用を押えることにしました。

 また、ネットワークの世界には、古くからPDS(Public Domain Software)という文化があり、自分が作ったソフトウェアをその著作権を放棄して無償で提供する、という行為が盛んに行われていました。日本の場合には、著作権が簡単には放棄できないこともあり、フリーウェアという呼ばれ方が中心になっていましたが、無償で使用できるソフトウェアがかなり存在しています。

 その文化の中心は、UNIXを利用している技術者であり、そこで生産されるソフトウェアの質は非常に高いものでした。このUNIXの流れをくむPC-UNIXをOSとして採用することで、これらのフリーウェアがほぼそのまま利用できることも大きな魅力でした。

 主だったフリーウェアをご紹介すると、@Webを表示する apache、Aメールを送る sendmail、Bメーリングリストを構築する fml、CメールをHTMLファイルに変換する MhonArc、 D全文検索をする namazu、Eデータベースである PostgreSQL、Fデータベース用のWebインターフェースである OpenZOLAR、Gその他として自作のスクリプト、などがあります。そして、これらはそれぞれを組み合わせて利用することも可能ですから、メーリングリストに届いたメールをHTMLファイルにして表示し、そのファイルを全文検索して情報を捜す、というデータベース的な利用が可能になっています。

 また、メーリングリストは一度に多くの人間にメールを出すことが可能ですから、メールマガジン(配信専用ML)的な応用も可能です。自作のスクリプトでこの配信専用MLにメールを出すことで、登録してある人に特別展のお知らせを配信したり、そのお知らせのメールをHTMLにしてWebに記録したり、その内容を検索したり、ということが可能です。

 このサーバーを設置した1998年当時には、ホームページを開設できない博物館にはホームページのスペースを提供したり、電子メールのアドレスがない博物館職員にはアドレスを割り当てたりといったことを考えていたのですが、徐々にインターネットに対する敷居が低くなり、余り利用される事がない様です。

 ただ、プロバイダ等と契約してホームページを公開しているような場合には、通常メールアドレスが一つしか割り当てられませんから、質問用のアドレスとして公開すると、他の業務連絡と質問などが同じアドレスに届いて混乱することがあります。特にメーリングリストに参加した場合などは、大量なメールが届く可能性がありますから、注意が必要になります。

 このような場合に、このlemonを利用する事で博物館の職員全員がメールアドレスを持てることになります。そして業務連絡はlemon上のメールサーバーに届くようにすれば、質問と業務を切り分けられますので、混乱を防ぐことが可能になります(図3)。

 また、このアドレスは完全に個人の管理下に置かれますので、専門分野のメーリングリストに加入する事もできますし、他人宛に届くメーリングリストからのメールに煩わされることもなくなります。利用のご希望があればいつでも登録できますので、お気軽にご連絡下さい。

 一方で、博物館職員だけが利用するのではなく、一般の利用者に対するサービスとしてもいくつかを公開してみました。

 さらに、今後の博物館相互におけるデータネットワークの構築を検討し、博物館データ間の横断検索の実験(http://www2.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/exp/search/)を行いました。これは複数の博物館のホームページ上にあるデータの検索ができるシステムであり、「博物館ホームページ推進研究フォーラム」のメンバーである徳島県立博物館の小川 誠氏が作成したものを利用させていただきました。

 この実験サーバーは、博物館で生成されるテキストや送受されるメールからホームページが自動生成され、それをすぐに検索して利用することができます。たとえインターネットに接続していなくても、博物館内だけのイントラネットとして博物館資料の整理と管理、資料検索、学芸員同士の情報交換や研究ツールとして利用できるように設計されています。もちろんインターネットサーバーとして利用すれば、それに加えて、一般の利用者が博物館資料を閲覧したり検索したりすることができ、利用者の質問に対しての対応やメーリングリストの活用、さらにそれらのメールをHTMLに自動変換して情報データとして蓄積し再利用することも可能です。

 どこの博物館でも、サーバーとして利用できるコンピュータさえあれば、この実験サーバー(lemon)のプログラムをハードディスクにインストールし、設定値やHTMLファイルをテンプレートとして細部の設定を書き換える作業だけで、これらの機能がすぐに利用できます。今後、これらの機能のバージョンアップやさらなる充実した機能の付加を検討中です。

2 研究会・講習会の開催

 「インターネット活用研究会」としては、「博物館ホームページ推進研究フォーラム」と共催で今までに2回の研究会を開催しています。また、「インターネット活用研究会」がまだ正式に設置されていなかった1988年3月に「博物館ホームページ推進研究フォーラム」による講演会と研究会が静岡県立美術館で開催されました。以下に1998年から3年間に開催された研究会の内容を示します。これらの研究会(図4)での講演タイトルを見ていただくだけでも、この間のインターネット利用の状況がわかると思います。詳しくは、「博物館ホームページ推進研究フォーラム」の研究会のホームページ(http://www2.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/~museum/data/disc/disc_idx.html)にすべてではありませんが、講演要旨が掲載されています。

「博物館とインターネット」講演会・技術講習会を開催

日時:1998年3月22日(日)10:30−16:00
会場:静岡県立美術館 講座室

内容:
・講演「博物館の情報整理と情報提供」 講師 小川 誠(徳島県立博物館学芸員)
・講演「れきはくホームページをとりまく状況について −美術館・人文系博物館の事情を中心に−」 講師 鈴木卓治(国立歴史民俗博物館情報資料研究部)
・事例報告
・講演「博物館とインターネット」 講師 松下幸司(大阪大学大学院人間科学研究科)
・「ホームページの作り方」技術講習会

第1回静岡県博物館協会インターネット活用研究会研究集会

日 時:1999年3月9日(火)午後1時30分〜5時30分・10日(水)午前10時〜午後2時
場 所:静岡県立美術館講座室

テーマ:博物館のホームページの開設と運営 (博物館における情報処理の問題なども含めて)
内 容:
・「博物館ホームページ研究推進フォーラムの活動について」柴 正博(東海大学社会教育センター)
・「予算が無くてもホームページを作るには−埼玉県立自然史博物館の例−」楡井 尊(埼玉県立自然史博物館)
・「美濃加茂市民ミュージアムの準備段階におけるインターネットの利用−その展開と展望に向けて−」井戸幸一(美濃加茂市文化課)
・「静岡県立美術館における自治省実証実験について−次世代ハイビジョン・ミュージアムの現状と課題」泰井 良(静岡県立美術館)
・「博物館の普及活動におけるインターネットの利用」佐久間大輔 (大阪市立自然史博物館)
・「はじめに人のネットワークありき―住民参加型調査結果の発信に向けて」戸田 孝(滋賀県立琵琶湖博物館)
・「植物園がホームページを持つこと -Botanical Gardens on the Web-」平塚 明(岩手県立大学総合政策学部)
・「ホームページのデータベース的利用」石橋忠信(東海大学社会教育センター)
・「全文検索の構築と有効活用方法」小川 誠(徳島県立博物館)
・「博物館・美術館の情報システムに関して」鈴木卓治(国立歴史民俗博物館)
・総合討論など
 
第2回静岡県博物館協会インターネット活用研究会研究集会

日 時:2000年3月25日(土)午後1時30分〜5時30分・26日(日)午前10時〜午後2時
テーマ:博物館ホームページの教育的活用
会 場:静岡県立美術館講座室

内 容:
・「科学系博物館ホームページの高度化支援事業報告」志津田嘉康(国立科学博物館)
・「社会教育施設のネットワーク化のポイント」黒田 卓(富山大学教育学部)
・「学社融合と総合的な学習の時間」杉浦 透(広島市立井口明神小学校教諭)
・ 「いま、“総合学習で”“調べ学習で”教師は/生徒は、何を求めているのか!?」松下幸司(大阪大学大学院人間科学研究科)
・事例報告(浜松市博物館・富士市博物館・千葉県中央博物館・新潟県社会教育研究所)
・「HTMLドキュメンテーションのすすめ」石橋忠信(東海大学社会教育センター)
・「静岡県立美術館の館内LANとデジタル化の将来性」泰井 良(静岡県立美術館)
・「国立歴史民俗博物館の第5期情報システムについて」鈴木卓治(国立歴史民俗博物館)
・「iモードを利用した屋外展示解説と教育活動へ展開」平塚 明(岩手県立大学総合政策学部)
・「全国博物館情報サービスの構築について」柴 正博(東海大学社会教育センター)
・総合討論


今後の活動


1 協会のホームページ

 「インターネット活用研究会」では、試験的に暫定版として協会のホームページ(http://www2.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/)(図5)を作成しいていますが、これは協会の公式なものではなく、どこともリンクをしていません。できれば、早い時期に、静岡県博物館協会でもインターネットやホームページをどのように活用していくかを十分に検討していただき、静岡県博物館協会の公式ホームページを公開していただきたいと思います。また将来的には、静岡県博物館協会会報『静岡の博物館』をホームページに掲載し、また各加盟館園の紹介およびそこで実施される催事等も紹介できればと考えています。

もちろん、これらをデジタル化すること自体は、比較的容易なことですが、最終的には各館園から電子メールによって催事などの情報をお送りいただき、協会参加館で協会のホームページを充実していくことが目標です。そうして寄せられた情報を速やかに協会のホームページ、あるいはメールで紹介したり、さらにはそれらを検索できるシステムが構築できれば、学芸員間のみならず一般の博物館ユーザーにとっても有益な情報となると思います。

2 研究会のネットワーク

 こうして電子メールの利用できる館園が増えてくれば、学芸員間のネットワークも緊密なものとなり、日々の業務、研究活動に関わる種々の疑問、問題点などを話し合える場所となるでしょう。一館園や学芸員個人では解決できない問題であっても、学芸員間ネットワークを構築することで、様々な事柄に対処できるようになればと考えています。現在、「インターネット活用研究会」では、メーリングリスト(SMML)を開設しており、現在10名余の登録者がいますが、皆様の参加をお待ちしています。参加の手続きは、電子メールをこの(smml-admin@lemon.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp)メールアドレスへお送りください。

 以上、ご紹介した活動を通じて、「静岡県博物館協会インターネット活用研究会」は、各館園の皆様がインターネットに関わる事柄に取り組まれる際のご助言やお手伝いをするべく活動を続けております。インターネットやネットワークに関わる疑問、問題点、あるいは皆様方の館園内での取組みなどをご紹介いだたける場合には、是非、当研究会にご参加いただきたいと思います。こうした静岡県内にある博物館施設がネットワークで結ばれることで、互いに情報交換をし、またそこから協力関係を築くことができれば考えています。

引用文献

柴 正博・石橋忠信(1999)博物館にホームページを!―博物館ホームページ推進研究フォーラムの目的と活動―.博物館研究,34巻6号,5-9ページ.





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最終更新日: 2009/07/24

Copyright(C) Masahiro Shiba