柴 正博 (東海大学社会教育センター)
博物館ホームページ推進研究フォーラムの第4回研究会
(2001年3月 美濃加茂市民ミュージアム)の講演要旨
博物館におけるホームページの役割
博物館のホームページ:日本の博物館3500館のうち、ホームページをもつ博物館はその半数にまでおよんでいます。しかし、それらの多くは観光施設としての博物館紹介やパンフレット的なもので、博物館独自で情報発信をしていたり管理しているホームページは少なく、さらに博物館でドメインを取得してサーバーを設置しているところは数えるほどです。
博物館とは:博物館は、ある分野の資料を収集・研究し、展示物や解説にその特徴を反映させることで、入館者の学習意識(知的好奇心)を促する教育機関です。そのため、博物館では従来から教育手段として[物+展示場]や[出版物]という媒体を利用しています。博物館は本来、利用者が主体で利用するための「施設」ではなく、博物館が主体として研究・収蔵・展示・教育という活動を行う「機関」(大石ほか,1998)です。
ホームページの本質と博物館:ホームページの内容の本質は何かと言えば、それは作者の「主張」です。個人や組織が自分の主張をWeb上に公開しているものが、ホームページです。博物館は自らもっているあるテーマに沿った情報を展示という形などで公開していますが、その本質には博物館としての主張が存在するはずです。その点から見ると、ホームページと博物館の展示教育活動とは同じです。ホームページでは[画像+インターネット]という媒体を用いますが、それを有効に利用することにより、ホームページは単なる広報媒体の枠を越えて博物館の教育活動のひとつとなります(石橋・柴,1999a)。ホームページは展示と同様に利用者に新しい動機付けを提供するとともに、より多くの情報も提供できます。
博物館は学習素材の宝庫:坂井(1999)は、将来の学習システムの中で博物館の果たす役割は、一次資料をもつ強みで高度情報化の健全な発達に貢献するとともに、博物館の資料情報は情報化の核心的なデータベースになり、博物館は高度情報化社会における学習素材の宝庫になると述べています。
博物館相互ネットワーク:コンピュータ・ネットワークによる一般からの博物館利用や博物館相互のネットワーク構築においては、博物館はその大小にかかわらず、多くの博物館が独自に情報を整理してホームページを開設してネットワークに参加できる体制をつくることが必要です。すなわち、コンピュータ・ネットワークに参加する博物館が多くなってこそ、博物館の資料が利用しやすくなり、相互ネットワークが構築されます(柴・石橋,1998b)。そのためには、各博物館が独自に収蔵資料のデータ化やホームページの公開など、電子情報通信(テレコミュニケーション)の環境整備を進めなくてはなりません。
電子ネットワークの活用:博物館のネットワーク構築に参加するためには、予算の余裕のない小さな博物館でも電子メールの利用はもちろん独自にホームページを開設する方法を検討することが重要です。また、この電子ネットワークという新しいメディアを利用することにより、従来の学芸活動が徐々に変化しはじめ、博物館の情報が整理されます(石橋・柴,1999a)。すなわち、ホームページの運用をキーワードに展示物およびそのデータを管理する学芸活動をより効率化することにより、博物館の業務や活動内容が飛躍的に進歩します。
博物館の現状
なぜ博物館独自のホームページができない:博物館がホームページを独自に制作して管理することは、比較的容易に安価に実現できます。それにもかかわらず、なぜ博物館独自のホームページがそれほど増えないのでしょうか。その原因は、博物館にコンピュータがないことと、あってもコンピュータでインターネットを利用していないこと、ホームページをつくる技術や人手がないことがあげられます。さらに、コンピュータやインターネットについての理解が十分でないことと、博物館自体がコンピュータやインターネットを必要としていないこともあげられます。
コンピュータは電話と同じ:コンピュータは今や単なる計算機ではなく、電話やファックスと同様の通信機器です。現在、電話やファックスをもたない博物館がないのと同様に、近い将来インターネットに接続できるコンピュータをもたない博物館はなくなるでしょう。同様に、現在ほとんどの家庭に電話があるように、家庭にもインターネットに接続できるコンピュータは急速に普及します。
コンピュータは21世紀の必須アイテム:インターネットの普及は、単に情報伝達の手段がひとつ増えたということにとどまらず、社会や組織の構造まで変えてしまう大きな変化の始まりです。その近い将来の新しい社会における必須アイテムであるコンピュータは、すでに社会的にも個人的にも必要な存在となっています。
もうひとつの理由:地方自治体の多くの博物館では、ホームページをつくりたいが上部組織がホームページを作成・管理しているため、博物館が独自にホームページをつくれないという場合があります。また、インターネットのインタラクティブ(双方向性および随時性)な面を考えると、著作権も含む博物館側から提供する情報の許諾範囲の問題があり、ホームページを独自に自由につくることができないという場合もあります。
インターネットは非中央集権:インターネットは、もともと上部組織が中央集権的につくったネットワークではなく、個々が通信回線でつながって自然発生的にネットワークができたものです。そのため、基本的に上部や中央の組織からの管理にはそぐわない歴史的・構造的性格をもっています。ホームページを公開する組織や個人は、その組織や個人の責任において自由に自分たちの主張を述べるためにホームページをつくり、運営しています。そのため、ある部署の許諾責任をその上部部署が管理するとなれば、その動きは鈍くならざるをえません。したがって、小回りのきく組織や個人のホームページに魅力的な内容のものが多いという傾向が現れます。
従属的な博物館からの脱却:このような博物館のホームページの現状は、日本の博物館の多くが従属的な存在であることを示しています。博物館はそれぞれが独立した機関であるべきにもかかわらず、日本ではある組織の付属施設ないし従属的な機関にすぎないということが、ホームページでの情報発信でも大きな問題になっています(柴・石橋,1999)。そのため、博物館が独立した機関となる一歩としても、ぜひとも博物館にホームページが必要です。
データベースとしてのホームページ
ウエッブ空間はデータベース:インターネットを利用する人たちは、Web空間をさまよう時に、「知りたい情報をさがす」というデータ検索と同じことをしています。すなわち、利用者はWebというホームページ(HTMLファイル)からなる巨大なデータベースにアクセスして、無意識にデータ検索、すなわちデータベース機能を使っています(石橋・柴,1999b)。
データベースの条件:良質なデータベースの条件とは、まずデータ件数が多いこと、そして頻繁にデータが追加・更新されることです。生きたデータベースは、多くの人がデータの追加が行えることが条件です。
アーカイブス:アーカイブするということは、すべてのことを記録し将来に残すために保存するということで、これは博物館での記録保存の活動と同じ意味があります。保存された文書や資料、すなわちアーカイブスがデジタル化されていれば、検索することによりデータベースとして活用できます。
テキスト文書:職場においていて最も大量に作成されているデータ形式はワープロの文書類です。多くのワープロは広く利用可能なテキスト(Text)のデータ形式で文書を保存することが可能です。このテキスト形式のファイルをデータベースのデータとして利用すると、データの追加はワープロで作業できます。すなわち、博物館でつくられた文書がすべてテキストファイルとして保存され蓄積されれば、それが博物館のデジタルアーカイブスとなります。
ホームページの作成:テキストファイルがあれば、ホームページ用のデータ(HTMLファイル)を作成するのは容易です。ホームページ用のデータは溜まったテキストファイル群から公開すべきものを選んで、HTMLファイルを作成することで準備できます。そしてそれは、同時に「公開用データベース」となります。
ホームページのコンテンツ:ホームページを作成するのに、ホームページのために新たにコンテンツを考えたりつくる必要はありません。コンテンツは本来、博物館の活動の中にあるものであり、それをそのままホームページにすればよいのです。たとえば博物館の展示を紹介するのであれば、展示資料の写真と解説パネルの原稿を利用すればよいのです。博物館のコンテンツとしては、このように展示物解説や普及書、収蔵資料目録や研究報告の公開、新着展示や教育活動の紹介や報告、学芸員や学芸活動の紹介など、日常の博物館活動から出力される文書(記録)を活用することで、ホームページは充実していきます。
ホームページ作成の人材: HTMLファイルの作成は、すでにある原稿(テキストと画像のデジタルデータ)があれば、実際の作業者には資料に関する専門的な知識がなくても、HTMLを書ける人材さえいればすぐにでもホームページがつくれます。とは言っても、人材不足の博物館ではホームページをつくるために余分な人を雇えないし、現状の人材でも余計な仕事が増えるということになります。結局、現状維持を決めこめば、あなたの博物館ではホームページは永遠にできないということになります。
博物館になぜホームページが必要か
ホームページは不可欠なもの:今やWeb(ホームページ)による情報公開やリファレンス(問い合わせ)に対するサービスは、どんな機関や施設でも不可欠なものとなりつつあります。博物館にホームページや電子メールアドレスがないことは、博物館に電話がないことと同じです。博物館が積極的に情報を公開することにより、今までになかった新たなニーズも生まれます。いくつかの博物館ではメーリングリストを使った友の会活動やホームページ作成支援ボランティア、研究や展示活動への市民参加など、インターネットは博物館と博物館活動を支援する人たちにとって重要なツールとして活用されています。
将来戦略のために:博物館はある個別のテーマについて情報を掘り下げているところです。したがって、個々のより詳細な情報が要求される21世紀の情報化社会にとって、博物館の存在は重要です。そのためには、博物館はより独自性のある意味ある収集活動と情報発信を行うことが必要であり、博物館は博物館のドメイン(設立目的)やメッセージをより明確にする必要があります。また、リファレンスや博物館活動の支援者に対する即時対応のきく情報管理体制をつくる必要もあります。すなわち、博物館は将来の博物館経営のために、今、情報ネットワークの活用を基礎とした組織体制の再構築をしなければならない時にあります。
おわりに
博物館にホームページを!:博物館にホームページがあれば、利用者にとって有効であり、博物館相互のネットワーク構築にもつながります。そのためには全国の博物館にホームページをつくってもらわなければなりません。そのような考え方から、私たちは1997年5月から「博物館にホームページを!」という活動をはじめました。この活動では、「博物館にホームページを!」というホームページ(http://www2.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/~museum/)を開設し、このテーマについて関心のある人たちといろいろと議論をするためにメーリングリスト
(Museum Mailing List:MML)を開設しました。
博物館ホームページ推進研究フォーラム:このMMLに参加している全国の博物館の学芸員や博物館に関心のある人々で、「博物館ホームページ推進研究フォーラム」がつくられました。このフォーラムでは、今回のように研究会を開催して、「博物館にホームページを!」の活動を進めています。
博物館がホームページもつ意味:博物館がホームページやインターネットを利用する意味は、それが電話や出版物と同じように私たちが博物館活動をするための大事なコミュニケーションの道具だからです。そしてその道具は、私たちの研究や教育、収蔵といった博物館の活動にとって、今までになかった大きな力をあたえてくれる可能性をもっています。
ホームページは活動を写し出す鏡:ホームページというものは、「バーチャル」です。「バーチャル」とは、「表面上または名目上そうではないが事実上の、虚像の、仮想の」という意味で、鏡に映った自分の姿や他人に見られている自分の実態のようなものです。博物館のホームページは、ですから博物館の本質や活動の姿を写し出す鏡のようなものということになります。ホームページをもてば、その博物館がどんな活動をしているかが写し出され、Webを通じて世界に公開されます。博物館がホームページをもつもうひとつの意味は、博物館がアイデンティティーをもった活動を公開しながら活発に展開するということにあります。その意味でも博物館はホームページをもつ必要があります。
引用文献
石橋忠信・柴 正博(1999a)博物館におけるホームページの役割.海・人・自然(東海大学博物館研究報告),1,81-95,東海大学社会教育センター.
石橋忠信・柴 正博(1999b)ホームページ時代のデータベース.博物館研究,34,no.7,13-17.
大石雅之・竹谷陽二郎・成田 健(1998)博物館の現場からみた学芸員のかかえる諸問題. 地質ニュース, 532号,28-34.
坂井知志(1999)情報化社会と博物館.博物館研究,34巻2号,18-22.
柴 正博・石橋忠信(1998a)博物館におけるホームページの活用と展開.静岡県博物館協会研究紀要,21,11-21.静岡県博物館協会.
柴 正博・石橋忠信(1998b)博物館のデジタル情報とインターネット利用.地学雑誌,107,809-816,東京地学協会.
柴 正博・石橋忠信(1999)博物館にホームページをー博物館ホームページ推進研究フォーラムの目的と活動ー.博物館研究,34,no.6,5-9.
博物館リンク集のリンク集
MML博物館リスト集 http://www2.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/~museum/index_l.html
博物館の博物館 http://candy.hus.osaka-u.ac.jp/esthome/matusita/Museum/Museum.html
日本博物館協会のホームページ http://www.j-muse.or.jp/
博物館・美術館のリンク集info@museum http://www.bekkoame.ne.jp/~atsuka/ush/im.html
国内美術館ホームページリンク集 http://www.enjoy.ne.jp/~shibata/museumlink.
日本と世界の博物館、美術館美術館、天文台へのリンク集 http://www.lint.ne.jp/~murai/
企業博物館案内 http://village.infoweb.ne.jp/~hoshiai/index.html
世界の博物館リンク集Virtual Library museums pages (VLmp) http://www.icom.org/vlmp/
日本のミラーサイト http://www.museum.or.jp/vlmp-J/index.html
ミュージアムイエローページ(丹青社) http://www.museum.or.jp/myp/
ミュージアム・リンク(乃村工芸社) http://www.nomurakougei.co.jp/m.links/m_index.html
インターネットミュージアム http://www.museum-japan.com/
Museum Information Japan(大日本印刷) http://www.dnp.co.jp/museum/icc-j.html
全国科学博物館協議会 http://jcsm.kahaku.go.jp/JCSM/
科学館情報ディレクトリ http://www.jst.go.jp/sun/kagakukan/m_ken/tizu.htm
日本の科学館リンク集 http://www.renkei.or.jp/ichiran.html
全国こどもスポットガイド(学研サイエンスキッズ) http://kids.gakken.co.jp/kidsnet/spguide.htm
日本の動物園・水族館リンク集(動水協) http://jdbsys.jazga.or.jp/links.html
全国動物園・水族館情報(NTTのWNN) http://www.wnn.or.jp/wnn-z/zooinfo/zooinfo.html
動物園リンク http://www.sala.or.jp/~owl/link.htm
日本の植物園リンク集 http://www.hokudai.ac.jp/agricu/exbg/cooperate/org/jabg.html
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