東海大学自然史博物館 学芸員 柴 正博
1997年11月5-6日に広島で行われた全国博物館大会で講演した講演要旨
1.マルチメディアとは
マルチメディアとは、コンピュータを中核としてCD-ROM(コンパクト・ディスク記憶媒体)や通信などをむすびつけて、文字、音声、映像などのさまざまな情報を一体化して取り扱える装置とそれに用いる視聴覚器材を総称するものです。マルチメディアは、おもに高解像度出力装置(ハイビジョンなど)の開発や画像処理(デジタルデータの圧縮・再生技術)の高速化、それにかかわるアプリケーシュンの充実の中で生まれてきたものです。そのため、「マルチメディア」というと、画像や映像のことを思い浮かべる人が多いと思います。
しかし、最近ではコンピュータと通信、とくにインターネットとの接続によって、電話、テレビ、コンピュータといった複数の情報媒体とインターネットが融合したものがマルチメディアと言われるようになりました。そして、その機能や利用の範囲は、今や急速に拡大しています。今後、通信・出版・教育・芸術の分野では、この急速に成長・拡大している「マルチメディア」が積極的に利用されていきます。その中でとくに、「もの」の収集・管理・研究・生涯教育を仕事、すなわち情報の収集と発信をしている博物館は、このことに無関心ではいられないでしょう。
2.インターネットとは
パソコンはメモリーなどの低価格化、OS(コンピュータの基本管理プログラム)としてのウインドウズの普及などに合わせ、職場や家庭に急速に普及しはじめました。これまでのパソコンはほとんどワープロか表計算など個別の処理や仕事に利用されていましたが、最近では統合ソフトや通信、映像・音響機器などの機能をもつマルチメディアとなっています。とくに通信機能については、パソコン通信やインターネットの利用が容易になり、誰でも気軽にパソコンと電話回線などを使って、回線につながっている世界中のコンピュータにいつでもアクセスできるようになりました。
浦島太郎の物語ではありませんが、現実は、私たちが気づいたらパソコンを利用したネットワークがどこにでも存在し、それらがリンクしている世界がすでに形成されていたのでした。それは、国や大企業が中央集権的に統一システムで作り上げたのではなく、いろいろなところで試みられた小さなコンピュータどうしのつながり(ネットワーク)が、次第に拡大しはじめ、いつしか世界中のコンピュータがつながっていたというものでした。そこには簡単な規格があるものの、世界のどこにあるどんなコンピュータでもつなぐことができ、相互にデータのやりとりができます。
このような世界中のネットワークのつながりがインターネットと呼ばれ、これを利用して電子メールやデータ、ソフトなどのファイルの送受信、WWWと呼ばれるいわゆるインターネット・ホームページの利用などが行われています。今やネットワークはすでに存在し、そのクモの巣はさらに急速に増殖しています。
インターネットは、電話、自動車、コンピュータ、そしてテレビなみ、いやそれ以上のインパクトを今後私たちの生活に与えることになります。自分のコンピュータをインターネットにつなげていない人はまるで、電話器を買っても電話線につなげていない人のようなものです。通信手段ということでは、インターネットは電話と似ています。電話を今だに使っていない博物館があるでしょうか。
さらに、現在電子メールをおもに用いたテレコミニケーションが、個人にとっても会社組織にとっても、急激な勢いでコミニケーションの標準手段となりつつあります。近い将来、インターネットは今の電話以上に、ひとりひとりの通信手段として欠かせないものとなります。1980年にアルビン・トフラーが著した「第三の波」が今、現実のものとして押し寄せてきています。
3.ホームページとは
インターネットを利用した機能のひとつに、「World Wide Web:WWW(世界に広がるクモの巣)」と呼ばれるものがあります。これは文章データや画像データなどを提供したり獲得することができる機能で、これを利用してホームページを公開したり、他のホームページから情報を得ることができます。
ホームページの公開は、専用回線でネットワークに常時接続したサーバーと呼ばれるコンピュータに、作成したホームページのファイルを入れておけばできます。ホームページを見るにはコンピュータと専用回線や電話回線を利用して、使用できるサーバーにアクセスして、そこからホームページを見るためのソフト(ブラウザ)を使って他のサーバーにアクセスして見ます。
WWWのホームページは、現在世界中でどんどん増殖していて、それを見て利用する人たちも急増しています。ホームページは新聞や雑誌、テレビ、ラジオと同様に、メディアのひとつで、新聞や雑誌は紙という媒体からなり流通機構によって提供し、テレビやラジオは画像や音声信号を電波と受信機によって提供しています。それに対して、WWWのホームページは画像や文章(テキスト)などのデジタルデータがコンピュータを介して提供されますが、新聞やテレビと異なり、提供をうけるだけでなく、こちらからもホームページを作ってデータを提供したり、その場で問合わせや情報の検索をすることもできます。
とくに、紙の媒体を利用したメディアとのちがいは、提供する人数や機会に合わせて情報自体を印刷する必要がなく、流通機構を利用しないということ、誰でも自由に情報を提供できるという点です。そして、インターネットを利用することのできる人であれば、誰でもいつでもその情報を見ることができ、自分のデータとして収録することもできます。
ホームページにはいろいろなものがあり、内容についてはそれを提供する側の自由です。これらの点から考えて、このメディアが博物館の教育・普及活動やデータ検索のためのネットワークのひとつの手段として、とても有効なものだと考えられ、現在、日本でもいろいろな博物館がすでにホームページを開設・公開しています。しかし、その多くは単なる博物館の入口で配布されるパンフレットや宣伝広告のようなものに終わっています。そのようなものの多くは、博物館への交通アクセスや入場料、代表的な展示の紹介で終わっていて、ページ自体の更新もほとんどなされていません。
ホームページの先進国であるアメリカのものには、興味深いホームページが多くあり、今やアメリカの博物館ではホームページを中心に博物館活動全体、とくに教育・普及活動への利用を強く打ち出しているところも少なくありません。たとえば、スミソニアン博物館では常設展示はもちろん特別展の各展示のひとつひとつの展示物やパネルまで見ることができます。また、カリフォルニア大学古生物博物館は、標本管理と研究が主体の博物館で一般公開の展示室をもたない博物館ですが、ここの膨大な収蔵標本は現在ホームページ上で公開されています。
4.なぜ博物館にホームページが必要か
博物館におけるホームページの初期の活用目的を、私たちは、博物館の標本や資料の公開と博物館活動の紹介にあると考えていました。ホームページ自体は単なるメディアのひとつなので、ホームページをつくるために博物館活動があるのではなく、博物館のさまざまな活動や博物館の標本資料の整理や展示があり、それを紹介するための手段のひとつとしてホームページが必要なのです。
さらに、そのためには博物館の標本や資料、活動記録自体のデータベース化を行えば、ホームページ自体が博物館の標本資料の整理や展示の仕事それ自体を紹介し、さらに私たち自体がそのデータベースを利用できる、ないしそのシステムをつくることができる。そのためにホームページは有効と考えました。
したがって、あらたまってホームページのための資料を作らなくても、実際にある資料や博物館の活動の結果をホームページに掲載していけばよいのです。たとえば常設展示についての紹介は、展示解説書をホームページに掲載すればよいことで、展示解説書に使用した写真(画像)と文章(テキスト)があれば印刷費がかからずに作成できる。また、ホームページでは、ひとつのページからいろいろなページにリンクして飛び回ることのできる「ハイパーテキスト」という機能を使えるので、本のページを順番に読んでいくような方法だけでなく、ひとつの情報からいろいろな情報にリンクしてダイナミックにその物をとらえることができます。
このような博物館の資料や活動の紹介は、博物館側の一方的な情報発信の手段としてのインターネットの利用です。これらの中には、博物館の紹介(博物館のパンフレット、利用説明書)、博物館展示物の解説(展示解説書)、博物館収蔵データベース(収蔵リスト、収蔵資料集)、博物館の普及誌、博物館の催し物情報などがふくまれます。
しかし、インターネット利用の特徴は、そのような一方的な情報伝達ではなく、双方向および即時性にあります。ですから、次に私たちは、博物館利用者との双方向および即時的なコミニケーション利用を考える必要があります。それらの活用の中には、各種問い合せの即時対応、データ検索・情報サービス、メーリングリスト利用の友の会情報と会議サービス、掲示板・チャット利用によるフォーラムなど公開会議などがふくまれるかもしれません。このようなサービスをしているところが日本ではまだあまりないので、今後他にもいろいろな利用があるかもしれません。
上にあげたこれらの利用はおもに、博物館の外に対しての利用やサービスでしたが、これらの活動を進めることはむしろ博物館内部の業務のデータベース化やOA化を進めることにつながります。たとえば、ホームページやテレコミニケーションは館内でのイントラネットとして職員の利用に有効で、他の博物館などとの相互データ利用、すなわちインターネットを利用した情報収集と外部とのコミニケーシュン利用や、業務のテレコミニケーション化による業務・情報システムの再構成・再構築を進めます。そして、それは新しい博物館システムとその活動の構築へとつながります。
博物館とは、単なる展示のための教育施設(建物)という役割だけではなく、ある目的のために「もの」を調査・収集し、保管・収蔵および研究して、その成果を教育・普及するところと私は考えています。となれば、博物館のこれらの仕事やデータ全体を、デジタル・データという形で残し、ひとつの流れ(系)の中で館内および館外の人にも利用できるようにすることは、博物館の大きな仕事であり、それらはさらに情報管理や情報提供という面で博物館活動における新たなニーズを創り出していくと思われます。
そのためには、サーバの設置はもちろん、テレコミニケーシュンを活用的に進めるための小回りのきく組織、そして博物館におけるドメイン(組織体の活動範囲や領域)の明確化と、いままでのそして将来のドメイン戦略、すなわち新しい博物館の組織の検討が必要になると思われます。
5.私たちの研究
私たちは私たちが所属する東海大学社会教育センターにおいて、昨年インターネット活用委員会を組織し、海洋科学博物館・人体科学博物館・自然史博物館博物館を含む東海大学社会教育センターのホームページ(http://www.scc.u-tokai.ac.jp/sectu/welcome.html)を開設・公開しました。東海大学社会教育センターにはサーバーもなく、大学組織との専用回線が現在でもありませんが、一応ホームページの運用を行っております。
私たちは、ホームページの制作にかかわり、博物館におけるインターネット活用とコンピュータネットワーク利用の重要性に気がつきました。そこで今年度、日本科学財団の研究費をいただき「博物館にホームページを!」(http://www.ask.or.jp/~museum/index.html)というホームページを公開して、「博物館におけるホームページの活用と博物館ネットワーク構築の研究」を行っています。この研究では、小さな博物館でも独自にホームページを開設し、博物館のネットワーク構築に参加できる方法を検討し、それにともなういろいろな問題点について整理し、今後の博物館相互のコンピューター・ネットワーク構築の指針を検討しようというものです。
この研究は実質的に、ホームページの掲示板やメーリングリストを用いて、現在ホームページを開設していたり、これからつくろうとしている博物館の担当者や博物館に関心のある方々が参加するネットワークをつくり、学芸員相互の連絡・情報交換の場をつくっています。そして、それを利用して、ホームページ開設や資料のデーターベース化に係わる情報を収集し、同時にその公開とさらにデータ交換などの実験を行っています。
みなさまの中で、これらのことに興味がある方がおられましたら、私たちのホームページにアクセスしていただき、メーリングリストにご参加ください。分科会におきましては、その研究で検討された博物館におけるホームページの開設・公開・運用やデータベース化の問題点などについて意見を述べたい思います。
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