小幡喜一 (埼玉支部)
地学団体研究会機関紙「そくほう」 2002年6月
■博物館の増加と学芸員の実情
この約20年間に、自然史系の博物館が日本各地につくられた。博物館の誕生は、学校建設が一巡し、教育施設の建設予算に余裕ができたことにあわせて、地域の活性化、自然環境への関心、生涯学習の推進などの社会的要求の高まりによるところが大きい。
博物館は、地学の研究を進めてきた若者たちの就職先にもなった。しかし、博物館で働く学芸員の地位は、千差万別で、独自採用の研究職ならばよいが、異動をともなう一般事務職や、教員の出向先であったりする。大規模な県立館をのぞくと、学芸員は少なく、多く展示の企画や教育普及事業から、予算書づくりや業者との折衝、メンテナンス、広報など、多岐にわたる仕事を一人でこなしている。
こうしたなかで、地質・古生物学関係の学芸員による「博物館ネットワーク」が行われ、自然史学会連合によって「地域博物館におけるナチュラルヒストリーの学術研究を強化する運動」が始まっている。
■新教育課程とスリム化による圧迫
本年度から始まった新教育課程に対応し、博物館では土曜日のこども向け事業が追加された。さらに、「総合的な学習の時間」のために、突然の来館や電話、電子メールでの質問が多くなり、学校や野外に出向いて指導することも増えている。
こういった状況に加え、緊縮財政により、職員が削減され、業者に委託していた仕事も自前でやるようになり、調査研究や標本収集・収蔵といった博物館の根幹をなす仕事ができなくなっている。
いっぽう、行政スリム化のために「企画立案機能と実施機能の分離」によって切り離された機関の受け皿として、独立行政法人が誕生した。そのひとつである国立科学博物館では、年間入館者数100万人など、いくつもの数値目標が2005年度までの中期目標としてだされるなど、さまざまな問題を抱えたまま実施されている。
この独立行政法人の導入は国だけにとどまらず、地方自治体での導入が、本年度中にも国会で法制化されようとしている。
■博物館の廃止をくい止めよう
東京都高尾自然科学博物館は、都立では唯一の自然史系博物館だが、都庁改革アクションプランにより、昨年12月、廃止が適当との結論がだされた。その理由は、非常に地域性の強い、小規模な博物館ということだ。また、箱根町の大涌谷自然科学館は、建物の老朽化や赤字経営などを理由に、廃止の方向で検討されている。
環境問題や生物の多様性が、注目されている今、地域の自然を調査研究し、その資料を保管し、住民に普及する環境行政の中核として、また、生涯学習の場として、自然史博物館の機能の重要性を訴えていきたい。
■博物館を地域の自然史研究センターに
博物館を、市民参加の団体研究による、調査研究拠点ととらえよう。学芸員は、研究をリードするまとめ役となって、地域の面白そうなテーマをみつけだし、市民に呼びかけ、研究グループを組織するのだ。参加者の個性を生かし、魅力的な活動を続けていけば、博物館は、地域の自然史研究センターに成長するだろう。
市民を研究活動に惹きつけるには、たとえば、ハザードマップづくりなど、市民に直接役だつ研究も必要である。また、その研究成果を展示や出版、インターネットなどで公開していけば、広く住民や行政にたいする博物館のアピールとなるはずである。
博物館の活動も、創造活動を中心にすえ、普及と条件づくりを共に進めることが重要だ。地域の博物館を、地団研会員の力で盛りあげていこう。
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