地球の半径
構造地質学史の一断面


星野通平
東海大学出版会 1995年
 1600円+税

cover of this book 地球の半径をどうみるか。このことは地球観の根本にかかわり、さまぎまな地質学説がこれを土台にして生まれてきた。

 第二次大戦以前、地球成因説の主流は、灼熱の火の球が、しだいに冷却して今日の地球になった、という考えであった。冷却する地球の半径は小さくなっていった。いわゆる地球収縮説である。いま、この説を信じる人は少ない。

 第二次大戦後、地球成因説の主流は、隕石集積説に変わった。隕石が集合してつくられた地球は、その中に含まれている放射性元素の発熱によって、姿をかえてきたという。そして、このような地球成因説をもとにして、地球膨張説がとなえられてきた。

 地球膨張説を信奉する科学者の多くは、途方もない地球半径の増大を考えている。ある人は、恐龍が栄えた中生代の地球の半径は、4000キロメートルほどにすぎなかった、と主張している。現在の地球の半径は、約6400キロメートルである。しかし、このような地球大膨張のからくりを、納得いくように説明した者はいないし、大膨張に伴う海面の変化を深く考えた人もいない。

 いま、わが国で流行しているプレート説では、湧き上がったプレートは、いずれ海溝で地球内部に沈んでいく、と考えられている。プレート説では、大すじとして、地球の半径は変らないと考えているのである。

 私が、地球の膨張、つまり地球半径の増大によって、海面が2000メートル上昇した、と発表したのは、35年ほど前のことであった。考えてみると、地質学ではじめて海面変化がとりあげられたのは、地球膨張と全く逆の、地球収縮説にもとづいて海盆底が陥投し海面が低下する、という発想にもとづいていたのである。

 海面は、私たちの生活に密着した、高さ深さの基準面である。しかし、自然と社会の多くの基準と同様に、海面の位置は、永遠に不動のものではない。ふりかえると、40年をこす私の地質学の旅路は、海面の変化の追求にあったともいえる。

 本書は、地表の隆起と海面の変化、つまり、地球の半径の変化の様子と、その変化の原因について、地質学を開拓した人びとの足どりをたどりながら、あわせて、このことについての私の考えを述べたものである。長い間このことにたずさわりながら、遥かにつづくこの道の行く手を想うこの頃である。

謝 辞

 本書をとりまとめるに当り、A・J・スミス (ロンドン大学)、E・E・ミラノフスキー(モスコー大学)、H・ゾラーおよびL・L・レーガン (米国地質調査所)、范元炳(中国自然科学研究基金委員会)、舟橋三男、谷津栄寿、鈴木尉元、花田正明、板東和郎の各氏に、資料収集のために多大の御協力をいただきました。

 佐藤 武、渡辺秀男、中陣隆夫、柴 正博の諸氏には、粗稿を閲読してもらい、貴重な訂正加筆の援助をうけました。また、柴 正博、佐藤 武の両氏には、写真や図の調製に全面的な援助をうけました。以上の各氏に、心からの感謝を申上げる次第です。

 末筆になりましたが、小著の出版にあたり、多くの御配慮をいただいた、東海大学出版会の方がたにお礼申上げます。

1995年2月19日
   小日向の茅屋に春を待ちつつ、
                                 星野 通平


    (本書の「まえがき」より)


2001/09/02

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