フィールド博物館 |
フィールド博物館は、シカゴ、ミシガン湖畔の公園地区の中にあり、北側の入口の横にはブラキオサウルスの骨格キャストが立っている。シカゴの空港の中にもブラキオサウルスの骨格キャストがあり、その隣にはフィールド博物館のミュージアムショップがあった。 フィールド博物館の名前を知らない人には、「Sue」と名づけられたティラノサウルス・レックスの全身骨格をオークションで落札した博物館と言えばわかると思う。その「Sue」は、組みたてられて博物館1階の吹き抜けホール北側に展示されていた。 この博物館は、1893年に「知識の蓄積と普及」を目的としたコロンビア博物館とイリノイ州とが提携して設立されたもので、寄付者マーシャル・フィールドに因んで、1905年に改名された。 フィールド博物館の展示室は、南北に通る中央吹き抜けホールの東西両側の1階と2階、それと地下にある。 フィールド博物館はニューヨークのアメリカ自然史博物館と同様なテーマをもつ博物館で、職員数は600人、そのうちキューレータ(人類学、生物学、古生物学の研究者)が90人と、職員数ではニューヨーク自然史博物館の半分の規模と言える。敷地面積は上野の国立科学博物館とほぼ同じだそうだが、建物が分かれていない分とても広く感じた。 年間予算は5,500万ドルで、そのうちシカゴ市から800万ドルとイリノイ州から45万ドルの支援がある。その他の収入は、博物館会員の会費と入場料、会社などからの寄付、科学研究費、財団基金だそうである。 寄付金集めには15〜20人の専属職員がいるという。年間入場者は1999年が150万人で、2000年は240万人と急増しているが、これは「Sue」や恐竜関係の特別展によるところが多いが、数年前からフィールド博物館は新しい博物館経営を展開して、その成果によるところも多いと思われる。 午前中は、展示プランナーと教育マネージャー、情報オフィサー、広報・顧客マネージャーの4人から、これらの方々がこの博物館でどのようなことをしているのかという話を聞いた。 この博物館の3階にいる研究者(アメリカ自然史博物館では研究者は5階にいた)の知識を下の展示室で展開する仕事をしているという展示プランナーの若い女性は、快活に自分たちの仕事の流れをOHPで示してくれた。 展示部門の職員数は80名。常設展示は15年で更新し、特別展示は毎年数回行い、その特別展示には展示部門の職員の半数が関わる。 特別展のカテゴリーには、@博物館の理念(収集物)に関するもの、A日ごろ博物館には来ない特別な興味をもつ人たちをターゲットにしたもの、B利潤を生む展示、がある。特別展の準備には長いもので、6年以上費やすものもあり、現在開催している「クレムリン・ゴールド」という特別展は1993年に企画をはじめたと言う。 教育マネージャーは、Webやe-mail、さら放送も利用した最近行っている研究者と生徒や教師との交流教育の話をされた。博物館にある情報資源を統合するために昨年ここに来たという情報オフィサーは、博物館の中でのコミュニケーション・バリアーを取り払い、博物館のもっている情報を他の人に与えることにより、興味をもつ人を増加させ、情報の多様化を生み、コミュニティーが生まれると話された。 そのためには、情報のデジタル化と技術の進化に合わせた対応が必要で、そのひとつの例として博物館の情報提供をパームコンピュータ(Palm computer: Palm社が開発した携帯用コンピュータ)で行うことを検討しているという。 2年前までアメリカン・エクスプレスの副社長だったという広報・顧客マネージャーの女性は、今まで博物館ではお客さんに焦点が当てられていなかったが、お客さん側から見た博物館を知るために2年間お客さん調査をしたことや、その結果をもとに今までと違った博物館とお客さんとの関係を検討しているという。また、今後はWebなどe-スペースと物理的スペースの両方が絶対に必要になることも強調された。 フィールド博物館では2年前の理事会で今後の博物館運営や経営に関するマスタープランが決定され、それに従って大胆な博物館経営改革が行われているようで、スーの購入や新しい展示展開、人事の大幅な刷新などもその一貫と見られる。これらの博物館経営には、単に入場者や収入を増やすというのではなく、3階の研究者たちが収集や研究を行う本来の博物館活動を1階や2階で経済的に支えて行かなくてはならないという強い気持ち(博物館の経営理念)が感じられた。 さて、フィールド博物館の展示であるが、2階北東側のフロアーにスーも含めてLife Over Timeという展示室があり、生物の進化が古い時代から順番に展示されている。この展示はアメリカ自然史博物館とはまったく違って、デザインの統一はあまりなく、むしろいろいろな小物がたくさん置いてあり、触っていじる間に子供たちでも生物の仕組みや進化の歴史が理解できるようにいろいろと工夫されている。 スーのコーナーでは、マクドナルド(マクドナルドの第一号店はシカゴ市にある)の寄付による化石クリーニング・ラボがあり、その隣にはスーのミュージアムショップもあった。たとえば、スーの足の骨格が描いてある透明アクリルの下に、その両側にゾウとチータの足の骨格の絵があり、手前のアクリルを動かすとそれぞれの足に重なりどちらの骨格の似ているかがわかる。チータに重なれば「ピンポン」と正解音がなる。 Life Over Timeの入口には、地質時代の長さを体験させるために、地質時代が書いてあるロープを引っ張り出す展示がある。このロープは子供には重たく感じ、そしてとても長いので途中で飽きるぼどである。それほど地質時代は長いということが体で理解できる。古生代や中生代などの時代のはじまりのコーナーには、モニターがあり、そこにはニュースキャスターが現われ、その地質時代に起った出来事をニュース調に語りはじめる。 また、Triassic Tribuneなどといったタブロイド版の新聞が置いてあり、三畳紀の出来事を新聞調に解説している。もちろん3面にはマンガも載っている。無脊椎動物の体の仕組みについて、木でつくったりライフジャケットに穴をあけた展示物があり、それを触れたりいじったりすることで動物の体の仕組みが「ああそうか!」と理解できる。 古生物学者の研究室らしき展示があり、机の引き出しには化石や骨などとともに、恐竜のおもちゃも入っている。研究者の仕事ぶりがわかる。恐竜や哺乳類の展示では、木やアクリルの板でつくった頭蓋骨のモデルの下あごを動かすことで、そのかみ合わせの仕組みが理解できたり、カモハシ恐竜の鼻腔音をパイプを使って鳴らしたり、視覚障害者のためか金属でできた骨や恐竜の形のミニチュアが説明板の横に取りつけてある。 歯医者の椅子に牛がコート(皮)を脱いで座って口をあけて座っていたり、古人類のところでは、原人の顔の入ったハ―フミラーの箱の前に座ると、その顔と自分の顔が重なり、原人と自分の顔がどのように違うかがわかる。 これらの展示は、私にとってとても興味深かった。展示プランナーの女性が言っていたように、3階の知識を下で展開するためには、いろいろと工夫がいる。このような展示は、研究者の生物やその標本についての本当の知識と、それを来館者にどのように理解させるかという展示プランナーの努力のふたつがうまくいっしょになってできるものだということを痛感した。 地下には最近オープンしたUnderground adventureという展示があり、1インチの小人になって土中を探検するというストーリーで、それなりに地下の生物の営みが理解できるが、探検を終えたところの展示が実験をしながら学べるようになっていて、ここでもまたいろいろと工夫がされていた。電子レンジを使って土壌を作ってみる実験や土壌の違いによる水はけの実験など、体験的な展示の工夫がされている。 同じに地下にあったエジプトの展示では、ピラミッドの積み石にロープがまいてある展示があり、だれでもロープをもって引きずってみるが、動かないということが体験できて、ビラミッド建設がどれだけ大変だったかということが体で理解できる。 博物館のパンフレットに書いてあるように、広くて興味深い展示を半日で見ることは不可能だったが、他の展示については閉館までの時間で駆け足でめぐった。5時の閉館まで館内をうろちょろしていると、中央ホールと2階通路には丸いテーブルが並べられ、ウエイターやウエイトレスがパーティーの仕度をはじめていた。入口にはすでにパーティーの参加者が押しかけていた。 広報・顧客マネージャーの女性が言っていたように、このパーティーも博物館の新たな顧客獲得作戦のひとつだろうし、博物館が市民の憩いの場として利用されることは悪くないことだと理解して、楽しい夜会の開かれるだろうフィールド博物館をあとにした。 |
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登録日:01/03/31