豊橋市自然史博物館のシンポジウム 「恐竜の謎にせまる」 |
豊橋市自然史博物館開館5周年記念シンポジウム
シンポジウムの司会は同博物館の顧問の糸魚川淳二氏と学芸員の松岡敬二氏によって行われ、講演者と講演題目は次のようなものでした。後藤道治(富山市科学文化センター)恐竜化石と博物館活動/濱田隆士(放送大学)日本の恐竜ブームの背景をさぐる/瀬戸口烈司(京都大学)恐竜温血性説を批判する/福田芳生(千葉県衛生研究所)恐竜の生活防衛/青木良輔(爬虫両棲類研究会)恐竜はワニか。 後藤氏は、自ら取り組まれた恐竜の足跡化石の発見が、博物館の研究・収蔵・普及・展示活動に生かされ、市民による富山県古生物研究同好会が発足し、博物館がそのセンターとなったという内容の話題を提供してくださいました。 濱田氏は、恐竜について興味をもつ人は多く、他の地学事象の中でこれほど興味をもたれるものはないことを強調され、自然の歴史と人とを結ぶ重要な素材であると言われました。また、恐竜のもっている謎が恐竜のもっとも大きな魅力であり、日本からの恐竜化石の発見や恐竜に関するマスメディアによる情報の増大が、より恐竜を身近なものとしていると述べられました。 瀬戸口氏は、恐竜ブームはマスコミによって形成されていて、恐竜温血性説や隕石衝突絶滅説など科学的根拠の裏付けのない説がテレビや雑誌で流され、ウソがまるで真実のようになってしまう危険があることを強調され、古生物学者としてブームに悪乗りするのではなく、きちんとした科学的な見解を示すことが重要であることを述べられました。そして、恐竜は色彩認識はもともと夜行性である哺乳類より優れていたが、音声認識は十分にできなかったために、映画や動刻モデルのように恐竜が吠えるようなことはなかっただろうと述べられました。 また、爬虫類には脳の新皮質がないため個別の識別ができず、恐竜が群れ生活をしたり育児をしたということは恐竜を哺乳類と同じように見ていたり、擬人化しすぎていると述べられました。また、温血性でないということは、爬虫類は、横隔膜や二次口蓋などがないことから呼吸効率が悪いことと、心臓の隔壁が不完全なことから血液循環が悪く、これらのことから瞬発力はあっても持続力がないと思われ、温血性でなかったと述べられました。 福田氏は、「ジュラシックパーク」の裏には日本タタキの考え方が潜んでいて、それに気づかずに恐竜ブームと言って喜んでいる日本人は情けないと一言いわれました。また、恐竜についてはイマジネーションを膨らまして楽しむべきもので、日本の古生物学界はイマジネーションを押え込む傾向にあるために発展しないと述べられました。そして、肉食恐竜の攻撃や草食恐竜の防御や攻撃について、氏のイマジネーションも含めて楽しく話されました。 デイノニクスの爪やトリケラトプスの角、ケラトサウルスのとさか、恐竜を苦しめた吸血性寄生虫、装甲恐竜の尾や装甲板をもった竜脚類(サンタサウルス)、マイヤサウラの子育てなど、今まで気にとめていなったそれぞれの器官の特徴から恐竜の生活を復元する楽しみを味わうことができました。 青木氏はワニを研究する立場から恐竜に関連した話題を提供されました。瀬戸口氏が指摘したワニの心臓の不完全さや個別を認識できないということに対しての反論を述べられ、温血か冷血かという議論は妥当でなく、環境においては冷血や低代謝の方が有利な場合があり、それなりに活発な行動や集団行動をとる場合があることをしめされました。 また、恐竜の恒温性説にまつわる脚色について批判し、特にデイノニクスの爪やマイヤサウラの子育てを取り上げられました。恐竜の絶滅については氏のワニの栄養に関する研究から、紫外線不足によるビタミンDの不足から恐竜がクル病になり絶滅したという説を述べられました。 総合討論では、 今回のシンポジウムは、講演者ごとにそれぞれ意見が異なり、恐竜の議論に関してどれを信じていいかわからないということが浮き彫りになりました。また、一般の聴取者の多くがNHKの地球大紀行やマスコミだけから恐竜の情報を得ているということが明確になりました。 今や恐竜の謎は深まり、まことしやかな話は広まり、イマジネーションは膨らんでいきますが、やはりその基礎となる科学的根拠をきちんと整理し普及することが重要であるということを今回のシンポジウムを聞いて感じました。 |
最終更新日:00/04/27