炎の崖(7月31日)

車が火をふく

砂漠  ガゼル(デュラン)が何頭もゴビを走る。気をよくして、トゥメンバイヤーがスピードを上げてガゼルを追った。

 その時、彼が
「何か匂う!?」
 と言った。彼と私との間のコンソールボックスから突然白い煙が出てきた。

 彼は車を止めて、すぐにバンパーを上げて、バッテリーについている線を切り離した。煙は収まり、コンソールボックスをはずすと、焼け爛れたビニール電線が現れた。ヒューズも1本切れていた。エンジンは動かない。

 ほかの車はすでに先に行っていて、目の前には砂漠がひろがっていた。


化石発見?!

化石発見  台地の縁の崖の上に3台の車が見えた。午後5時、崖の上に着くが、みんなすでに来ていて、私たちを待っていた。この崖が、ちょうど炎の崖の南側の台地の縁にあたり、前に見える崖が「炎の崖」にあたる。すでに大久保さんは、崖を降りはじめていた。

 私が崖を途中まで下った時、上にいた岩月さんが
「化石だ!」
 と、叫んだ。降りてきたところを上に登って見ると、肋骨が地面から出ていた。声を聞いて降りてきた酒井さんが、
「これは化石じゃないよ。」
 と言って、埋まっている土が岩盤でないことを証明してくれた。

 また、だいぶ降りていくと、また岩月さんが、
「化石だ! 今度は本物ですよ。」
 と、上の方で叫んでいる。

 私はおそらく風邪のために熱も出て、体はだるく、歩くことさえつらかった。しかししかたなく、再び登って上まで行くと、今度は砂岩の中に長さ10cmほどつながった脊椎骨の本当の化石があった。その下にも連続した骨の化石も見られた。しかし、私にはすでに化石をさらに探すだけの体力は残っていなかった。


炎の崖「ヤッホー」事件

炎の崖  私は夕食までテントの中で寝たこともあり、少し元気が出てきた。夕食のころには日没が近くなった。坂東さんは早々と西側の丘の頂上に上がり、カメラをセットしていた。

 日が沈むにしたがい、この丘の影が炎の崖の麓にかかり、他の山並みが影に入った時に、正面の炎の崖はまっ赤に燃える。

 私たちは、刻一刻と影が伸びるのをカメラをかまえ無言で見つめていた。その時である。何を思ったのか酒井さんが崖に向って走り出しているではないか。坂東さんは、
「酒井さん、戻ってくれ!」
 と、叫んだ。

 酒井さんは、少し振り返って手を振り、崖に向って走っていった。そして、崖を駆け登りはじめた。丘の影は崖の麓にかかり、崖は赤みをおびてきた。酒井さんはとうとう崖の上に上がり、両手をあげて、
「ヤッホー!」
 と叫びだした。坂東さんは、
「どけー!、どいてくれーえ!」
 と、叫んだが、その想いは酒井さんにはとどかなかった。

 崖は赤く燃えはじめた。今までよりもいっそう赤くなり、すばらしい自然の造形が目の前に展開していた。写真をとるには最高の時だった。しかし、崖の上では酒井さんが両手を上げて叫んでいた。


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