駿河湾の形成
島弧の大規模隆起と海水準上昇

柴 正博著

最終更新日 2017/10/10

私の地質学研究の集大成


三保の浜から駿河湾、日本列島、太平洋の形成まで、
地殻の隆起と海水準の上昇で地球の歴史を解き明かしていきます。
 


駿河湾の形成
 大規模隆起と海水準上昇
柴 正博著

ISBN978-4-486-03737-8
A5版・正製本・406頁
定価(本体3000円+税)
東海大学出版部
2017年11月6日発行予定 
変更されました


現在,私たちが見ている大地や海底の地形は,地質学的にみるとごく最近にできたものであり,現在と同じ地形が過去の地球表面にありつづけたわけではない.私たちは,海底に堆積した地層や地下深くで形成された花崗岩や変成岩を陸上で見ることができるが,これはそれらを含む大地,すなわち地球の表層を形成する地殻そのものが大規模に隆起しているためである.それに対して海底には,過去のサンゴ礁や河川の堆積物,陸上で噴出した火山が沈んでいるところがあり,これらは陸地が海水準に対して沈んだことをしめしている.

現在の地形は,今から約2300万年前から地球上に起こった大規模な隆起運動と海水準の上昇によって形成されたと,私は考えている.その大規模な隆起運動は,日本列島も含めた環太平洋などの島弧やヒマラヤ山脈などの大山脈,世界各地の高原台地,それと大陸と島々,海底の山脈(海嶺),深海底も含むもので,そのうちの海底の隆起とそこでの火山活動により海水準が上昇した.

そして,今から約1100万年前と約180万年前にさらに大規模な隆起運動が起こり,最終的には今から約40万年以降に起こった急激な隆起運動と,約1,000 mにおよぶ海水準の上昇によって,現在の地形がほぼ完成された.このような過程で陸地になったところと海底になったところがあり,駿河湾とそれをとりまく大地が形成された.そして,その活動は現在でもつづいている.


目 次
まえがき      iii

第1章  駿河湾という湾     1
     ―湾の地形と海水準―
富士山と駿河湾/日本一深い湾/駿河湾とは/火口起源の湾/リアス式海岸/ウルム氷期の海岸線/ウルム氷期後の海水準変動/おぼれ谷/海水準とは/海水準は不動か
コラム1  地球科学の仮説とは   13

第2章  駿河湾の地形と海水    15
     ―日本一深い湾の自然―
駿河湾の海岸/駿河トラフ/駿河湾の海底と石花海堆/黒潮が運ぶもの/駿河湾の沿岸流と表層水/駿河湾の海水/海洋深層水/豊かな漁場
コラム2  深海魚と生きている化石   29

第3章  三保半島の形成    31
     ―安倍川の礫と駿河湾の波がつくった砂嘴―
駿河湾の海岸は礫の浜/五つの河川の砂礫/海岸の堆積物/大陸棚の堆積物/三保半島と三保の松原/礫はどのように運ばれるか/海底を調べる/三保半島のおいたち/海岸侵食とその原因/清水平野のおいたち/静岡平野のおいたち
コラム3 岩石の見かたと名前   51

第4章  牧ノ原台地の形成    55
     ―大井川の河原と遠州灘の海岸段丘―
茶畑のひろがる牧ノ原台地/牧ノ原台地にあった内湾/古谷層と京松原層/海岸段丘/南関東の段丘との対比/牧ノ原段丘の隆起/更新世後期からの海水準変化/地形の逆転/草薙層の海進
コラム4 ミクロの化石   73

第5章  有度丘陵の形成    77
     ―隆起した安倍川の三角州―
日本平とよばれる有度丘陵/ファンデルタ/有度丘陵の礫層/40万年前からの海水準変化/有度丘陵の地質構造/六甲変動/有度変動
コラム5 酸素で過去の気候がわかる   93

第6章  小笠丘陵の形成    95
     ―隆起した大井川の三角州―
南西に傾く小笠丘陵/礫層からなる小笠層群/広域火山灰層と小笠層群の時代/赤石山脈の大規模隆起/大阪層群からみた海と陸の分布
コラム6 地球磁場の逆転  106

第7章  庵原丘陵の形成    107
     ―隆起した富士川の三角州―
富士川河口の丘陵をつくる地層/約100万年前のファンデルタ/90万〜70万年前の火山/70万〜40万年前の入江と河川/コノシロとシカの化石/羽鮒丘陵の緑色の礫層/富士山の下の基盤/重力異常で地下がわかる/100万〜40万年前の富士川河口/丹沢山地の隆起と足柄層群/丹沢山地の隆起の原因/島弧の大規模隆起
コラム7 沖縄の隆起とサンゴ礁  128

第8章  駿河湾の形成    131
     ―沈んだ陸地と隆起する海底―
石花海北堆の礫と石花海海盆/駿河湾の海底の地層/駿河湾のおいたち/1,000 mの海水準上昇/相模湾と駿河湾/有度変動と外縁隆起帯/島弧と海溝/大陸斜面はいつできた/海溝の形成/ヒマラヤ山脈と日本列島
コラム8 静岡県にもゾウがいた  153

第9章  掛川層群の地層と化石    157
     ―地層の形成と海水準変動―
掛川層群という地層/火山灰層を追って/掛川層群の地質時代/地層はどのようにつくられるか/堆積シーケンスと海水準変動/掛川層群の堆積シーケンス/地層は連続して堆積するか/貝化石密集層はどのようにできるか/相良油田と女神石灰岩/相良層群と掛川層群の層序関係/相良層群の地質時代/掛川層群の浮遊性有孔虫化石層序/マイナス2,000 mの海水準
コラム9 第四紀のはじまり  190

第10章 富士川谷の地層と褶曲    193
     ―陸上で見られる駿河湾の基盤―
フォッサマグナ/糸魚川―静岡構造線/浜石岳の浜の石/地層の堆積と褶曲構造/基盤ブロックとその上昇/富士川谷の地質構造/南部フォッサマグナの基本構造/富士川谷の基盤/静川層群とアムシオペクテン/曙層群のファンデルタとその変形/手打沢不整合/島弧はどのように形成されたか
コラム10 地質系統と地質時代  233

第11章 伊豆半島の地質と生物    237
     ―伊豆半島は南から来たか―
グリーンタフの時代/高草山の海底火山/日本列島の隆起と海の分断/伊豆半島の地質/伊豆半島の化石/箱根火山/愛鷹山と富士山/伊豆半島衝突説/レピドシクリナはなぜ生き残ったか/伊豆半島の衝突と足柄層群/伊豆諸島の遺存種たち/オカダトカゲがいた半島/シモダマイマイが進化した島/伊豆諸島の植物のおいたち/古伊豆半島/古伊豆島と古八丈島
コラム11 毒ヘビの来た道  263

第12章 静岡県の大地と赤石山脈    265
     ―赤石山脈は付加体か―
静岡県の大地の姿/静岡県の大地の構成と構造線/倉真層群と西郷層群/駿河湾西岸の地質構造と隆起帯/赤石山脈は何からできている/赤色チャートは深海泥か/付加体とは何か/大陸斜面の付加体の正体/海溝の起源/黒潮古陸/親潮古陸/西南日本弧の地質構造帯/西南日本弧の形成/東北日本弧の地質構造帯/西南日本弧と東北日本弧の違い
コラム12 日本列島の形成  304

第13章 太平洋のギヨーと海水準上昇    309
     ―白亜紀に沈んだ島と大陸―
海底に沈んだサンゴ礁/ギヨー/第一鹿島海山/矢部海山/ブロークントップギヨー/白亜紀中期の海水準/沈んだ陸橋/オーストラリアの恐竜と有袋類/ガラパゴスとマダガスカルの生きものたち/海水準はなぜ上昇したか/プレートテクトニクスのしくみ/第一鹿島海山は割れて沈みこんでいるか/第一鹿島海山は南半球から来たか/プレートテクトニクスの矛盾
コラム13 南極氷床と草原の発達と哺乳類  341

第14章 地震分布の実態    345
     ―東海地震はいつ起こる―
「明日にも起こる」といわれた東海地震/東海地震とは何か/東海地震のふしぎ/地震の分布/海溝型地震/東北地方太平洋沖地震/東海地震の可能性/深発地震面は海溝から沈みこんでいない/地震はどこで起こる/南海トラフの地震/地震へのそなえ
コラム14 丹那断層の実態  366

第15章 まとめ    371
     ―駿河湾の形成―
隆起した海底と沈んだ陸地/地球の微膨張と海水準上昇説/隆起する大地/量から質への転換

あとがき    379
引用文献    383
索 引    402



はじめに

今,私たちが見ている大地と海の姿は,町の姿がつねに変化しているように変化していて,この現在という瞬間のものである.私は40年以上,静岡県静岡市に住み,毎日まわりの山々や富士山と,太平洋につながる駿河湾をながめて過ごしてきた.それらはいつも変らないように見えるが,海岸侵食や砂礫の堆積により海岸線は変化し,山や丘陵は開発や崖くずれなどによってその姿を少しずつ変えている.

本書は,私の住む駿河湾沿岸の大地と駿河湾の地形がどのようなものでできていて,それらがどのように形成されてきたかということを例に,大地と海の姿の変化を現在から過去にさかのぼっていくものである.駿河湾とその周辺の山地がどのように形成されたかということは,駿河湾だけの話ではなく,日本列島という島弧全体の形成過程にかかわることであり,ひいては地球全体の大陸と海洋底がどのように形成してきたかということにつながる.

日本列島は,台風や暴風雨による土砂災害や洪水災害などが多く,地震や火山噴火による甚大な被害もある.しかし,日本の学校教育では高等学校で地学が学べる機会が少なく,多くの人にとって,大地や海についての基礎的な知識は中学校までに教わったわずかな内容しかあたえられていない.私は,人々が社会生活をおこなうために,その生活の基盤をなす大地のことについて,学ぶ機会がもっと多くあたえられるべきであり,さらに一人ひとりがきちんとそれら地学的な知識を知らなくてはならないと考えている.

さいわいに私は高等学校で必修科目として地学を学ぶことができ,私たちが立つこの大地のことを知る重要性や,地球成り立ちに興味をもつことができた.そして,大学で地質学を学んだことから,私はこれまで40年以上にわたり,私の住む身近な駿河湾周辺の大地の地形と地質の成り立ちについて,自ら仲間とともに地質調査をおこない,その成り立ちをあきらかにしてきた.本書ではその成果を知ってもらうとともに,私が考えている駿河湾とその周辺の地形がどのように形成されてきたかということの,全容をあきらかにする.そして,島弧や海溝などの日本列島や太平洋の地形が,どのように形成されてきたかという私の考えをのべる.

それは,これまでの教科書やテレビなどで解説されている駿河湾や日本列島の地形のできかたとは,多くの点で異なるものが含まれる.しかし,大地がどのようなものでできていて,それがどのように形成されたかということや,それについていろいろな考えかたがあることを知ることは,私たちの住む大地の成り立ちについての情報として,とても有意義であると思う.

現在,私たちが見ている大地や海底の地形は,地質学的にみるとごく最近にできたものであり,現在と同じ地形が過去の地球表面にありつづけたわけではない.私たちは,海底に堆積した地層や地下深くで形成された花崗岩や変成岩を陸上で見ることができるが,これはそれらを含む大地,すなわち地球の表層を形成する地殻そのものが大規模に隆起しているためである.それに対して海底には,過去のサンゴ礁や河川の堆積物,陸上で噴出した火山が沈んでいるところがあり,これらは陸地が海水準に対して沈んだことをしめしている.

現在の地形は,今から約2300万年前から地球上に起こった大規模な隆起運動と海水準の上昇によって形成されたと,私は考えている.その大規模な隆起運動は,日本列島も含めた環太平洋などの島弧やヒマラヤ山脈などの大山脈,世界各地の高原台地,それと大陸と島々,海底の山脈(海嶺),深海底も含むもので,そのうちの海底の隆起とそこでの火山活動により海水準が上昇した.

そして,今から約1100万年前と約180万年前にさらに大規模な隆起運動が起こり,最終的には今から約40万年以降に起こった急激な隆起運動と,約1,000 mにおよぶ海水準の上昇によって,現在の地形がほぼ完成された.このような過程で陸地になったところと海底になったところがあり,駿河湾とそれをとりまく大地が形成された.そして,その活動は現在でもつづいている.

にゃんこ先生の研究室

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作成日:2017/9/19

Masahiro Shiba