地震はどこで起こっている?

2013/1/19 掲載
 柴 正博



はじめに

  実際に地震はどこで起こっているのか.地震学者からは,日本列島周辺の地震はプレート(岩盤)の境界とプレート内部で起こっていると解説されている.しかしそれは事実であろうか.

 ここでは,気象庁一元化震源データと山形大学の川辺孝幸教授から提供を受けた震源分布作成ソフトScat3Dを用いて,実際に日本列島周辺の震源がどこにあり,どのような分布の特徴があるかを検討したいと思う.震源データは気象庁一元化震源データのうち,日本周辺で1997年10月1日〜2011年8月28日までに起こったマグニチュード0.1〜9までの地震の震源を用いた.震源分布図は,この震源データを使用し,Scat3Dソフトでを作成した.震源の深さは円の色で,規模は円の半径の大きさで示してあるが,ここでは震源の位置に注目するため,それらの凡例を省略する.

日本列島周辺の地震分布の特徴

  第1図はすべての震源の分布を示したもので,これを見ると,日本列島周辺では海溝と島弧に沿って多くの地震が発生していて,まさに日本列島は地震の巣のように見える.しかし,これらの地震の震源をその深度ごとに見ると,いくつかの深度の範囲により異なった分布の特徴が認められる.


 第1図 日本周辺の深度0〜681kmの震央分布.

深度300km〜最深(681km)で発生している地震(第2図)

 この深さの震源は,小笠原諸島の南から伊勢湾,若狭湾を通り日本海の大和堆付近で終わる北北西−南南東方向で西に傾斜した深発地震の分布がある.また,千島海盆の北部から北海道の稚内付近まで伸びる東北東−西南西方向で北に傾斜した分布があり,これら2つの分布の間の日本海盆にも震源の分布があり,全体に「く」の字型に直交するように見える.この深度範囲の震源分布はいわゆる深発地震面の下部に当たり,上部の分布とは不連続で,異なった分布を示す.


第2図 日本周辺の深度300〜681kmの震央分布.
 
深度50〜300kmの地震(第3図)

 この深さの地震は,いわゆる深発地震面上部を形成する震源の分布を示すが,伊勢湾から豊後水道の間の太平洋側(南海トラフ)では深発地震面に相当するものが見られない.このことは,深発地震面に相当するプレート境界がないということになるのではないだろうか.ただし,紀伊半島と熊野灘南東側,室戸岬南方に震源の小規模な分布が見られる.



第3図 日本周辺の深度50〜300kmの震央分布.南海トラフに沿って地震がない.

深度20〜50kmの地震(第4図)

 この深さの地震は,島弧の太平洋側の大陸斜面に分布するものと,東北地方の日本海側大陸斜面と稚内付近に分布するものがある.島弧の脊梁部にはこの深さの地震がほとんどなく,西南日本の日本海側にも多くは分布しない.この深度範囲の下部のものについては,深発地震面の最上部の地震も含まれていると思われる.また,小笠原諸島より南側では地震がほとんどなく,千島弧では深さ25〜40kmに集中する.この深度範囲は島弧の下では大陸地殻下部に相当することから,そこでは地震が発生していないということになる.

 日本列島の下でこの深さの地震がないということは,そこが破壊しない塑性体(固体)でない可能性があり,地震波の低速度層や火山帯の分布と関連があるかもしれない.また,水色の震源は超低周波地震で,それらは火山帯の下にあるようにも見える.



第4図 日本周辺の深度20〜50kmの震央分布.日本列島の下で地震がない.
水色は超低周波地震で,それらは火山帯の下にあるようにも見える.

深度0〜20kmの地震
(第5図)

 この深さの地震は,島弧の脊梁部とその周辺の大陸斜面に分布する.深さ10km以浅のもの特に陸域といくつかの地域に集中して分布し,10〜20kmのものは大陸斜面に分布する.また,海岸線に沿っていくつかの地域で地震の空白域が認められる.小笠原諸島より南側ではこの深度の地震がほとんどなく,北海道と千島弧との間に空白域があり,千島弧では深さ15km付近に大きな地震が分布する.10km以浅の地震が島弧の陸域に分布することは,島弧の大陸地殻上部に地震が起こっていることになる.
 


第5図 日本周辺の深度0〜20kmの震央分布.日本列島の下に特に集中する.

地震はどこで起こる

 地震には,海溝型巨大地震と阪神・淡路大震災を引き起こした1995年に起こった兵庫県南部地震(M7.3)のような内陸直下型地震,それと群発地震という3つのタイプがあると言われている(島村,2011).海溝型地震は,いわゆるプレート境界型で,他の2つはプレート内地震などと言われている.しかし,プレート内地震とはどのように起こるのであろうか.プレート内地震の地震発生メカニズムについては,プレート境界型のようにわかり易い説明がされていない.

 第6図に東北地方の三陸沖を切る東西断面を示す.ここでは深発地震面は上下2列(二重深発面)をなし,上面の上方端は海溝ではなく,深海平坦面の西縁付近に延長される.東北地方太平洋沖地震の本震は深発地震面上面の上方延長よりも海溝側に分布し(第6図の矢印の深度24km),海洋プレートが沈み込んでいるとされる日本海溝はさらにその東側100km以上のところにある.



第6図 東北地方の三陸沖(北緯38°)を切る東西断面での震源分布.
矢印の深さ24kmが東北地方太平洋沖地震の本震の震源.
日本海溝はその東側100km以上のところにある.

 深発地震面上面の上方延長が海溝より陸側にあることは東北日本弧だけでなく,伊豆−小笠原弧や琉球弧でも見られる事実である.深発地震面上面が海溝から沈み込んでいないのに,海洋プレートは海溝から沈み込んでいるのであろうか.海洋プレートの沈み込み帯と深発地震面が一致しないのに,海溝型地震の発生機構はどのように説明されるのであろうか.

 また,東海地震や大規模地震が想定されている南海トラフには,上述したように深発地震面が存在しない(第3図).海溝型地震は海洋プレートが沈み込むときに起こるとされているので,海洋プレートの沈み込み帯に相当する深発地震面が存在しないことは,海溝型地震が発生しないということになるのではないか

 兵庫県南部地震のような内陸直下型地震と呼ばれる地震は,都市の発達する平野や盆地と隆起する山地との境界付近で発生する.その規模は海溝型に及ばないが,震源が都市直下のために大きな被害が発生する.このような地震は,日本全国の平野や盆地でしばしば起こっていて,静岡平野で言えば1935年に有度丘陵の南西部の平野との境界で起こった静岡地震(M6.4),清水平野では1965年に北部山地と平野との境界で起こった静岡地震(M6.1)がある.2009年8月に起こった駿河湾地震は海域であるが,石花海海盆の北縁で起こったものである(柴ほか,2010).

 このような地震は,平野や盆地の規模が小さければその地震の規模も小さく,大きければ地震の規模も大きいと考えられる.ただし,このような地震は,周期的に同じ盆地の同じところに起こるとは限らないと言われている(島村,2011).因みに,兵庫県南部地震と同様な地震は,1596年に六甲−淡路島断層帯で発生したとされる慶長伏見地震と言われ,両地震の間隔は約400年になる.

 第7図に南海トラフ沿いの0〜30kmの震央分布と第8図に深度0〜50kmの震央分布を,また第9図に南海トラフを横切る4つの南北断面における深度0〜50kmの震源分布を示した.第9図を見ると前述したように深発地震面は存在せず,深度20〜40kmに見られる震源の分布もその上方端は海岸線付近に延長され,トラフ軸とは一致しない.

 第7図と第8図から東海から紀伊半島の陸域では,深度30km以浅の地震の空白域が赤石山地と紀伊山地にあり,その山地の南部に深度30〜50kmの地震が集中している.またその海域では,深度30km以浅の地震の空白域は遠州灘から熊野灘にかけてあるが,深度30〜50kmの地震が集中しているのは熊野灘南部にあり,遠州灘には存在しない.すなわち,この地域において深度30〜50kmの地震の集中は隆起地塊の南部縁辺に見られる(第8図).



第7図 南海トラフに沿う深度0〜30kmの地震の震央分布.
陸上では中国山地,四国山地,紀伊山地,赤石山地に地震の空白域がある.



第8図 南海トラフに沿う深度0〜50kmの地震の震央分布.
30〜50kmの地震が豊後水道,紀伊水道,熊野灘深海平坦面の東南部,赤石山地の
西南部に集中している.四角で囲った枠内A-A’等は第16図の断面地域にあたる.



第9図 南海トラフに沿う震源の断面分布.
Troughはトラフ軸付近.Coastは海岸線付近を示す.トラフ軸からの深発地震面はなく,
大陸斜面上部から陸側に傾斜する地震面とトラフの下に震源の集中域が見られるところがある.

 山地は隆起し,盆地はそれに対して相対的に沈降しているところであり,たとえば大阪湾から大阪平野の地域と隆起する六甲山地との境界では,第四紀のある時期から六甲変動(藤田,1990)と呼ばれる隆起と沈降の相反する動きが継続してきた.同様に,赤石山地や紀伊山地,さらに深海平坦面(前弧海盆)を形成した海溝陸側の外縁隆起帯およびその陸側の大陸斜面上部も,第四紀以降隆起しつづけてきたところと思われる.このような盆地に対する山地や大陸斜面の隆起運動のメカニズムが,地震の発生と密接に関係していると思われる.

 なお,島弧−海溝系の特徴は,島弧の隆起と火山活動,海溝および地震の発生である.島弧は後期新第三紀以降,特に第四紀後半の隆起によって形成されていると考えられ,火山活動と地震活動もそれにともなった活動と考えれば,海溝もジュラ紀以前からある地形ではなく,後期新第三紀以降,特に第四紀後半の島弧の隆起にともなって形成されたと考えるべきであろう.したがって,プレートの沈み込みのみを地震の原因と考えるのではなく,島弧を形成した隆起運動と地震との関係から地震の性質をより詳細に検討する必要があると考えられる.

まとめ

  このように見てくると,地震は沈み込む海洋プレートに押されて陸側のプレートにひずみが蓄積して陸側が跳ね上がって起こるという単純なメカニズムで発生しているのではなく,地域ごとの隆起帯と盆地との相互の関係と,隆起や沈降を引き起こしているであろう地殻内やその下のマントル上部内での応力の上昇や変化などに関係していると思われる.そのため,地震を理解するためには,地域ごとの隆起帯と盆地との相互の関係を個別に検討していくことが必要であると考える.

 地震は何が原因となって,どのように発生しているのか,筆者にはまだ明確にわからない.しかし,地震の多くが隆起帯と盆地との境界で起こることから,地殻の隆起を起こしている何か,おそらく地殻下部またはマントル上部での低速度層とされるものや,マグマの活動などと密接に関連していると思われる.

 地震の起こる原因や地震の周期については,現在のところ十分にわかっていない.また,これまで3,000億円もの国家予算を投入してきた前兆現象に頼る地震予知の可能性もない(Geller,2011).したがって,地震がいつどのようなところに起こるかは,誰も断言できない.そのため,地震予知の期待から設置された「大規模地震対策特別措置法」を早期に廃止して,もっと地質学的研究も含めた科学的な地震研究と防災研究が行われることを強く望みたい.

 そして,地震がいつどのようなところに起こるかわからない以上,私たちは地震に対して自分自身でその備えを常に心がけておく必要がある.

引用文献

Geller,R.(2011)日本人の知らない「地震予知」の正体.双葉社,東京,185p.

星野通平(1969)震央の分布と海底地形・地質との関連について.東海大学海洋学部紀要,3,1-10.

藤田和夫(1990)満池谷不整合と六甲変動-近畿における中期更新世の断層ブロック運動と海水準上昇.第四紀研究,29,337-349.

柴 正博・増田祐輝・柴 博志・駿河湾地震被害調査グループ(2010)2009年8月11日駿河湾地震の被害分布の特徴と地形・地質との関連.「海・人・自然」東海大学博物館研究報告,10,1-16.

島村英紀(2011)巨大地震はなぜ起こる-これだけは知っておこう.花伝社,東京,303p.

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最終更新日:2013/2/24

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