博物館資料論 |
柴 正博東海大学海洋学部 博物館資料論テキスト Y. 博物館の展示1. 展示の意義 2. 展示動線と観覧者の行動傾向 3. 展示設計と施工 博物館全体または展示室全体の展示製作設計については,計画段階の設計と実施段階の設計および施工がある. (1) 計画設計 計画設計にあたっては,@展示テーマの設定,A展示ストーリーと展示シナリオ作成,B展示物および展示ケースの配置(動線計画),C全体の展示デザインと色彩設計,D展示ケースとステージの設計(視線計画),E照明の配置設計,F電気配線・空調など環境設計,G予算計画など含めて順次総合的に設計していく. @展示テーマの設定 何を博物館で見てもらい伝えたいかという,最も根本的な問題で,これが明らかになっていなければ,展示の意味がない.観覧者に伝えるべき博物館側の思想的ドメインであり,個々の展示テーマやストーリーの基礎にあるテーマである. A展示ストーリーと展示シナリオ作成 テーマにしたがって,展示ストーリーと展示シナリオを作成する.どのような展示物をどのような順に,どのような展示手法で展開するかを「チームアプローチによる展示開発」で検討する. B展示物および展示ケースの配置(動線計画) 展示空間や部屋の配置にしたがい,動線計画と展示物および展示ケースの配置を設計する.この場合,建築基準および消防法に抵触しないよう配慮する. C全体の展示デザインと色彩設計 展示の全体としてのデザインと色彩をとりあえず決定し,展示物の配置なども含めた各展示室のパース画(立体的なデザインで図面)(図6-2)を作成する.これによって,展示空間の全体的なイメージが得られる. D展示ケースとステージの設計(視線計画) 視線計画にのっとり具体的な展示ケースや展示ステージの設計を行い,展示物や解説パネルの内容や配置などを設計する. E照明計画 展示物の配置にともない照明計画を行い,照明の配置設計を行う. F電気配線・空調など環境設計 照明や展示ケースの配置が決定することにより,電気配線や空調器配置などを決定する.電気容量,電気コンセントや配線ダクトなどの基本設備については,清掃や展示変更・追加など考慮して,多めにまたは追加できるように設置計画を行う.既存の建物や展示室を利用する場合,これらの設備配置がすでに決まっているので,それにあわせてまたは一部変更して展示設計を行う. G予算計画 計画設計にしたがって,展示を制作するための見積もりを出し,予算とつき合わせて設計変更など行う. (2) 実施設計 計画設計にしたがい,B以下のより具体的な実施のための展示シナリオ(図6-3)や具体的な展示設計を行い設計図が作られる.同時に個々の展示バネルやラベル,作成する展示物のデザインと設計を行い,タイトル,コピーなどの文章やイラスト,写真なども作成,決定する.施工期間や完成時期も決定し,施工に係わる問題や,広報・人員配置など展示以外の展示開始に関連する事項についても検討が行われる. (3) 施工 実施設計にしたがって,展示設置工事および展示製作などが行われる.実際に工事や展示製作になると,計画や設計と異なる場合も多く,そのつど調整や設計変更も生じる.このような施工管理の仕事にも配慮しつつ,展示パネルの校正や展示資料の配置など学芸員自らが行わなくてはならない仕事も多い. 4. 視線計画と温度条件 4-1. 視線計画 動線とその動線上を歩く人の視線と展示物の大きさ,高さ等に関する見せ方の計画. @ 視線高 展示資料は,一般にその高さの中心を成人の眼高(視線高)平均である約150cmを基準に設置するが,幼児や児童,車椅子利用の生涯者を対象とした博物館ではもっと低い位置に視線計画の眼高平均が設定される.人の視野は上方に50°,下方に70°左右に110°の広がりをもつが,視覚的情報を正確に受け止められるのは,視野の中心から25〜30°の円錐体内といわれる(倉田・矢島,1997)(図6-4).また,生理的には視線高はやや下目の方が疲労は少なく,心理的にも親しみやすい空間である.展示に親しむように仕向けるためには,平均眼高よりもやや下に視野高を設定し,反対に仰ぎ見る空間は,崇高なもの,憧れるものが位置する空間を作り出す. A 展示物との距離 視野と展示物の大きさの関係から,展示物との距離は一般に展示物の長辺の1.5〜2倍が目安とされる.ひとつの展示物を注視するときに他の展示物はノイズとなり,展示の展開やリズムを検討するときに,快適に展示を見ることができるよう配慮した視線計画が必要である. A 展示物との距離 視野と展示物の大きさの関係から,展示物との距離は一般に展示物の長辺の1.5〜2倍が目安とされる.ひとつの展示物を注視するときに他の展示物はノイズとなり,展示の展開やリズムを検討するときに,快適に展示を見ることができるよう配慮した視線計画が必要である. 4-2. 照明・採光の条件 照明計画は,展示設計において視線計画の次に行うべきもので,重要である.照明計画なくして具体的な展示設計はできない.照明計画には,展示場全体の照明や各展示スペース,各展示ケース,各展示について,展示物にあわせて光源の種類や質,展示物や展示ケースと光源の位置関係など詳細に検討しなければならない. (1) 照明の種類 @ 自然光 照度が平均して正しい色を再現できるが,天候・時間によって変化し,紫外線により展示物の変退色を引き起こしやすい(図6-6).同じ照度(放射照度)で照明したときの変退色の傾向を示す損傷指数は天頂青空光による損傷影響度を100%とした場合,曇天空光は31.7%,白熱灯は2.8%,白色蛍光灯は11.2%であり(Harrison, 1954),自然光は変退色に大きな影響を与える. A 白熱灯 レフ灯やビーム灯などあり,色のついたビーム灯もある.点照明.暖色の消失はない.消費電力が多く使用時間は短く,輻射熱(赤外線)が大きい.輻射熱を抑えたクールビーム灯もある(図6-7). B ハロゲン灯 点照明.白熱灯と同じくフィラメントに通電して発光させるが,その温度が高くより明るく寿命も長い.また,フィラメントの温度が高いことから白熱灯では光が赤みを帯びているのに対し、ハロゲン灯では白い.ランプは高熱になるため,熱を後方に放出して可視光線のみを反射するダイクロイックミラー照明器具(図6-8)などがある. C 蛍光灯 点灯管式とラピッド式があり,色には白色,昼白色,温白色,ブラックライトなどある(図6-9).線照明で照度が平均する.消費電力が少なく使用時間は長い.赤のエネルギーが弱く青っぽく見える.一般の蛍光灯は前掲の損傷影響度で示されるように白熱灯に比べよる変退色を引き起こしやすい.しかし,現在一般に使用されている3波長形蛍光灯では約1.4%と白熱灯程度またはそれ以下である.また,美術館・博物館照明用蛍光灯(電球色のものは0.6%で昼白色のものは約1.3%)であり,損傷が危惧される展示ではこれらの電球色の美術館・博物館照明用蛍光灯を用いるべきである(渕田,2009).蛍光灯は輻射熱がきわめて少ないが,付随する安定器から発熱する場合がある. Dグラスファイバーによる照明 グラスファイバーによる小規模なスポットライトは,光源をケースの外に置くことができ,発光する場所での発熱を避けられる(瓜生,2009).また,展示物だけに照明を当てられ,奥まった部分にもグラスファイバーを伸ばすことで対応できる. ELED照明 LEDは第3の新光源として急速な技術進歩とともに市場に普及しはじめている.現在,電球タイプからダウンライトのような部分照明から室内全般を使用名する領域にも利用されはじめている.LEDは,省エネルギー,長寿命,小型・軽量,点光源,多様な光色,高速な点滅性能,個体発光のため割れない,赤外線および紫外線の放射が極めて少ない,など従来の光源とは異なる特徴をもち,これらの特徴を活かすことで美術館・博物館照明も含めて,多様な応用分野での発展が期待される(渕田,2009). (2) 明るさ(照度)と色温度 オフィスや学校などの室内照度は1000ルックス前後が求められるが,博物館ではモノの光による劣化を防ぐことから300ルックス以下,絵画などは200ルックス以下,染色資料では100ルックス以下という照度基準がある(倉田・矢島,1997).光はその光量が十分でも色の質が良くなければ芸術作品など正しい色や質感を見せることができない.特に一般の蛍光灯は演色性(正しい色の再現性)が悪いので,演色性の良いものを用い,自然光や白熱灯との併用などで自然光に近づけるようにする.なお,3波長形蛍光灯は色差の不規則なずれが生じる危険があり,美術館・博物館用のように正確な色再現性を必要とする照明としては適当でない(渕田,2009). 照度と色温度の関係により,快適に感じる照明が与えられ,光源の色温度が3000〜4000K(ケルビン)のものが適している.展示ケースのガラス自身の色や厚さによって,可視光線の透過率が異なる.一般の板ガラスでは透過率が83%で,厚くなると純度が悪くなり青みがかった色に見えてくる.博物館・美術館用には,この問題を解決した特殊ガラスが市販されていて,低反射ガラスや紫外線防止ガラスもある.また,ジオラマなどの展示では,ガラス面での写りこみ(反射)を避けるために,ガラス面に傾斜角をつける手段もあるが,一般的に展示では行われていない. @ 展示壁面の照明:天井や壁面上部に蛍光灯または天井のライテングレール(照明ダクト)に着脱できるスポッ式点照明が用いられる. A 展示ケース内の照明:展示台や展示壁面が均質な照度分布になるようにする.資料に合わせて白熱灯では調光器で照度を調整できると良い. B 展示室内の照明:展示ケースの照度の50%以下,メモをとれる程度の明るさ(50〜70ルックス)で,一般にはダウンライト型の白熱灯.展示ケースのガラス面にライトが写りこまないように注意する. C 背景と展示物との輝度:背景は反射率の小さい材質を選び,背景の輝度が展示物のそれの半分くらいになるようにすると見やすい.視野に入るものの照度は展示物に対して背景は1/5,室全体は1/10程度が目の疲れが少ない. 4-3. 温湿度条件 来館者と展示資料にとって快適な温湿度条件が必要であるが,来館者にとっての快適な温湿度が必ずしも展示資料の保存に適したものとはいえない.また,資料はそれぞれの材質などによってその条件は異なる.さらに,開館中だけ冷暖房などにより温湿度が調整されていても,閉館後に急激な変化があれば展示資料にとっては劣化の大きな原因となる. 設備の整った美術館などでは展示室の空調とは別系統の空調をもつ展示ケースを用意することでこの問題を解決しているところもある.ただし,この場合でも室内とケース内の温湿度の差が大きいと空気の噴出し口付近のガラス面に結露が生じる.また,完全密封の可動ケースでは,調湿剤でケース内の湿度を調整することができるが,温度まではできない. 5. 展示技術 展示物の作成や展示パネルの作成およびそれらの設置は,学芸員の基本的な仕事でもある.小規模な展示会や簡単な展示は,学芸員自身で行うことある.また,展示物の破損や,展示機械や展示具の故障があった場合,それらを補修や故障の原因究明,修理などを行わなくてはならない.そのため学芸員は,木工,アクリル加工,経師,接着,展示パネルの製作,設置方法,照明,電気などの基礎的な知識と材料や道具についての知識とテクニックをもつ必要がある.図6-10では各種テープについて,図6-11ではドライバーやカッターなどを,図6-12では接着剤を紹介する.これらの知識や技術は,大規模な展示設計や施工でも役立つ. ハレパネ作成 @ テキスト(文章)と画像の作成. A IlustratorまたはPhotoshopなどの画像ソフトでパネル原稿作成. B パネルの印刷 できれば顔料インクのプリンターで出力 C ハレパネに貼る 紙とパネルの間に空気が入らないようにする(図6-13). D パネルの大きさにハレパネを切る.外側にカッターを当てる. パネルの設置 @ 視線計画にしたがって,パネルの設置高さを決める. A 高さを統一するために糸を張り,水平を出す. B パネルの間隔はメジャーで測定してそろえる(図6-14). C パネルを壁面に固定する.釘やL字金具などを用いるが,簡易的には,裏面に画鋲とガムテープをつけて壁に押し当てて固定する(裏画鋲法).この方法は位置決めや固定が楽であるが,ガムテープの接着力は1年程度なので長期の展示には適さない.また,両面テープで壁に固定すると,はがす時に壁面の塗装もいっしょにはがれる結果となり,展示で一般には用いない.パネルを吊るす展示具を用いて展示する場合,ワイヤーフックやテグスなどを用いるが,重量物についてはその器具の強度を考慮する必要がある. 6. 参加型展示とユニバーサルデザイン 6-1 参加型展示 ものをより理解するために,見る展示だけでなく,体を動かし何かを行い観覧者自身が考える展示.ただ,ボタンを押してビデオや解説が流れるというものではなく,何かをすることにより,展示物との相方向のコミュニケーションやアクションによってものの特徴や原理を理解する展示物. ハンズオン展示:参加型展示のひとつで,(Hands-on 「手を置く(手を触れる)」)というところから,体験学習的な,参加体験,実用的体験,インタラクティブ体験,実習,実験,体感など,体を使うことによる展示を指す.本で学ぶだけでなく実際に行った方が学習効果が上がるという考えに基づく.博物館では触れない模型や芸術作品などの展示物に実際に手を触れることで,探究心を刺激し,理解力を深め,実用的知識を蓄積し,楽しむことで学習内容の定着度を上げる効果が期待される. 6-2 ユニバーサルデザイン ユニバーサルデザイン(Universal Design,UDと略記することもある)とは,文化・言語・国籍の違い,老若男女といった差異,障害・能力の如何を問わずに利用することができる施設・製品・情報の設計(デザイン)をいう.さまざまな多くの人が訪れる博物館では,建物や展示室,展示や解説などに,「できるだけ多くの人が利用可能であるようなデザインにすること」が基本コンセプトであるユニバーサルデザインが要求される. 具体的には,段差のない床やエレベータなどの設備,安全で快適な館内環境(空調・トイレ),迷わない動線,わかりやすい解説,多国人にも対応した解説やサイン,障害者でも理解できる展示の配慮などがあげられるが,それ以外にもさまざまな配慮が必要と思われる. 6-3 動態展示および映像メディア型展示の落とし穴 動態展示および映像メディアを用いた展示は,無人で参加型または体験的な展示を実現できる.最近ではコンピュータやそのプログラムソフトと,映像メデイアのハードとソフトの発達によって,さまざまなものが開発されている.これらを活用して観覧者に展示物とその内容についてより理解してもらうことは必要であり,それらのソフトの一部(コンテンツ)については,できれば博物館独自で収集・開発すべきである. しかし,その導入にはハード(機械,展示設備,環境)およびソフト(画像,内容,プログラム)を外注または購入,レンタルするのに大きな費用がかかる.さらに,メンテナンス管理費も発生する.しかし,ハードとソフトの寿命は実質5〜10年程度である.一度そのようなハードを導入設置すると,ハードとソフトの更新が5〜10年ごとに発生し,そのつど大きな費用がかかることになる. これらは,博物館における費用対効果の問題であるが,映像メディアやゲームソフトなどの発展は急速であり,5〜10年間のスパンで博物館の展示を更新してそれに追従しなければならず,それを行うことが,最良かどうか考慮する必要がある.また,同じ費用を機械にかけるか,博物館のコンテンツを学術的または教育的に充実させる資料や人材,または機能(ソフト)にかけるかは,博物館の目的および使命が何かという問題でもある. 7. 博物館の展示の例 7-1. 東海大学自然史博物館 ここでは,私の勤める東海大学社会教育センターの自然史博物館の展示の変遷について,柴(2004)をもとに述べる. (1)恐竜館(自然史博物館)の開館 東海大学自然史博物館は,1981年10月に恐竜化石骨格の展示を主体とした「恐竜館(自然史博物館)」として開館した(図6-12). 1973年に東海大学と読売新聞社が共催して,ソビエト科学アカデミーの所蔵する恐竜化石標本などを紹介する「大恐竜展」が,清水三保と東京上野の国立科学博物館で開催された.その時に,恐竜を含む多くの化石標本のレプリカが日本で制作され,残された. 東海大学では,それらのレプリカのいくつかを所有していたこと,展示会を開催した建物がそのまま残っていたことから,すでにあった海洋科学博物館や人体科学博物館とともに,社会教育センターの博物館群のひとつとして,括弧づきであるが「(自然史博物館)」が開館された.「恐竜館」という展示館的な名称だけでなく,「(自然史博物館)」という名称を付加するのにこだわった理由は,開館準備にあたった当時の淵 秀隆館長はじめ東海大学海洋学部の教員が,恐竜だけでなくこの博物館が将来自然史全般にわたるテーマを扱うような博物館になることを期待していたからと聞いている. 「恐竜館(自然史博物館)」はその後,1983年4月に隣接する未使用の建物を「地球館」に整備し,その名称を「東海大学自然史博物館(恐竜館・地球館)」と変えた(図6-13,6-14).1982年から専門学芸員,私であるが,1名を配置し,展示の充実と研究活動,教育活動を開始した.1986年に館長に就任した海洋学部水産学科の波部忠重教授は,化石だけでなく現生軟体動物の収集と展示に力を注ぎ,1987年に約800種を展示した「世界の貝・日本の貝」展示室を新設した. 東海大学自然史博物館は,現在,海洋科学博物館とともに「東海大学社会教育センター」の傘下の博物館として,学芸面では同センター学芸課の学芸員が両館を兼務しながら活動している.一般の多くの自然史博物館では資料や研究は植物・動物・地学の分野をカバーしているのに対して,東海大学自然史博物館では恐竜など古生物や地学,海洋生物関連の分野が中心である.そして,それらの資料や研究の主なテーマは,恐竜など古生物の進化と絶滅と,地元である駿河湾周辺地域の地質や海洋生物に関するものである.特に,後者のテーマについては海洋学部の教員との共同研究や卒論研究として博物館で学生を受入れて,毎年継続的に実施されている. (2)1993年の大改修 1983年4月に改設された「東海大学自然史博物館(恐竜館・地球館)」の展示については,1988年以降,当初からある恐竜骨格を核に,主に大型恐竜標本を設置することで充実をはかってきた.1988年には「ブロントサウルスの足跡」,1989年には「ステゴサウルスの全身骨格」,1990年には「アパトサウルスの大腿骨」,1991年には「トリラトプスの頭骨」,1991年には「アロサウルスの頭骨」など,1992年には「イグアノドンの頭骨」,1993年には「ディプロドクスの全身骨格」.そして,1993年1月にはそれまで使用していなかった恐竜館2階も含め,全体を再構成した大改修を行い,名称も「東海大学自然史博物館」となった.これによって,自然史博物館は展示場だけでなく,収蔵および教育,研究スペースをある程度整えた博物館となった(図6-15). その後,1995年には「トリケラトプスの全身骨格」,1999年には「ユーオプロケファルスの全身骨格」を展示し,ここに至り当初から展示していた「タルボサウルス」,「サウロロフス」,「プロバクトロサウルス」,「プロトケラトプス」と合わせ,恐竜の大きなグループの代表的な種類が恐竜ホールにすべて勢ぞろいした(図6-16,6-17). 新しく建設される博物館では,展示は開館時に専門の展示業者が中心になり,配置やデザインなど練り上げられて完成することが多い.そのような場合,その後すぐに学芸員が展示資料を追加したり,展示自体を大きく改修したりすることはあまりなく,学芸員は展示の創造よりもむしろ展示の管理のために働く場合が多い. 東海大学自然史博物館はもともとあった古い催事展示館に特設したような,完成されたと言えない展示から出発した.しかし,時間の経過とともに,いくつかの特別展や展示の新設などを行い,そのたびに展示資料の充実と展示技術のノウハウを磨いた.そして,恐竜ホールの大きな空間を,「みんなの知っている大好きな恐竜で埋め尽くそう!」という構想が生まれ,それをもとに長期的に恐竜の全身骨格をひとつひとつ配置していった. 新しい展示資料を設置するたびに,ステージや展示ケースを追加し,その周囲の展示を改修して配置を変えた.そのため,ステージや展示ケースは可動または改修可能な形態とし,毎年小規模な展示の追加と改修を行った.博物館は展示面では,だんだんと博物館らしく完成に近づいていった. もしも,展示室が最初から展示資料で埋め尽くされていたり,それなりに小規模な広さしかなかったら,このように一年一年展示を追加し充実していく博物館はできなかっただろう.展示室が大きな空間であったからこそ,そこに展示資料を追加し,整えて博物館をつくりつづけることができた.そして,毎年,展示や博物館をよりよいものに変えて行く努力が推進されていった. (3)2002年の移設リニューアル 新たな世紀を迎えるにあたり,2000年10月に東海大学社会教育センターでは組織も大きく変わり,人体科学博物館とミニチュアランドが閉館した.2001年になると,旧人体科学博物館の建物に2002年1月までに自然史博物館を移設し,あわせて展示をリニューアルすることになった(図6-18). 旧人体科学博物館の建物は鉄筋コンクリートで,これまでの催事館的な鉄骨系の建物よりも外観や内装設備は一般の博物館の建物らしいものだった.しかし,中央にエスカレータや階段があることと柱が多いことから,展示面積が狭く,またバックヤードがとれないために収蔵や研究スペースが館内に設けられなかった.その結果,収蔵と研究スペースは別の建物を利用することになった.また,自然史博物館に必須の大型搬入口もなく,巨大な恐竜骨格の搬入と設置にはいろいろな工夫と複雑な工程を要した. 移設した新たな展示は,「生物の進化と絶滅」をテーマとし,恐竜化石の展示を中心に脊椎動物の歴史を過去から現在にたどるストーリーになっている. エントランスホールには,地球とその歴史をイメージしたトリケラトプスやデイノニクスなどとともに各時代の化石が来館者を迎える.そこからトンネルに入り,エスカレータに乗って,脊椎動物が発展した約4億年前の古生代デボン紀の世界(3階)へとむかう. デボン紀の世界では魚類や両生類の化石が,それに続く古生代末のコーナーではディメトロドンやイノストランケビアなど単弓類に属する爬虫類の化石を展示している.さらにゲートをくぐると,そこは「恐竜の世界」. ディプロドクスやトリケラトプスなど7体の大型恐竜の全身骨格がフロアいっぱいにひしめきあう(図6-19).また,サウロロフスやイグアノドンなどの頭骨や,その他の恐竜化石標本もある.「恐竜の世界」では,最近の恐竜学の成果をもとに「恐竜とはなにか」など恐竜の系統を概観し,モンゴルゴビの化石や恐竜のたまご化石も展示している.タルボサウルスやプロトケラトプスの発掘地であるモンゴルについては,1989年に資料調査を,1994年には南ゴビ地域で現地調査を行った. 2階は「中生代の海」,「生きている化石」,「新生代の哺乳類の発展」および「氷河時代」などの展示コーナーで構成している.リニューアルにともない,「氷河時代」のコーナーにケナガマンモスの全身骨格を購入し設置した.1階はディスカバリールームとして新コーナーを設置した.ここでは化石や生物,岩石・鉱物などをより身近に体験的に楽しみながら学習してもらうために,「わくわくボックス」,「化石をさがそう」,「恐竜Q&A」,図書コーナーなどがある.また,自然史博物館でのネイチャースクールや掛川での発掘調査などの研究活動やその標本などを紹介する展示もある(図6-20). 7-2. 日本の博物館 1) 北海道大学植物園・博物館 現在「博物館本館」と呼ばれている建物は,札幌仮博物場が手狭となったため,1882年に新設された札幌博物場の建物.設置者である開拓使が廃止されたため,1884年に札幌農学校に移管された.この博物館本館は,現役の博物館建築としては国内最古のものである.展示は陳列展示であるが,展示されている資料が北海道大学の学術活動の歴史を示す「モノ」であり,それを表すのにとても魅力的でシンプルな展示(図6-21)となっている. 2) 群馬県立自然史博物館 1996年開館.大型脊椎動物骨格を中心に生命と地球の歴史を展示し,群馬の自然と環境,ダーウィンの部屋,自然界におけるヒト,かけがえのない地球というテーマで展示が行われている. 3) Dinosaur FACTory 林原自然科学博物館により,「チームアプローチ」によって展示展開された展示館.2002年から2006年まで,東京有明のパナソニックセンターにあった. PDA (Parsonal Digital Assistant) で解説を聞きながら展示を見られるなど試験的な展示手法がとられていた.恐竜の化石を見せる展示ではなく,テーマは恐竜発掘から復元までの研究過程を示す(図6-22)ことであり,一般の博物館の展示とは異なっていた. 4) 豊橋市自然史博物館 豊橋市自然史博物館は,1988年5月に開館し,市立としては学芸員が館長含めて8名と充実している.2004年に古生代の展示室を改装し,2008年に中生代の展示室を改装した.改装後の展示は,展示標本数も多く,いろいろな展示の工夫があり,学芸員の努力がうかがえるものとなっている. 5) 福井県立恐竜博物館 勝山市で恐竜の化石が発掘されたことで,2000年に開館.4,500uという広大な展示室には,30体以上もの恐竜骨格をはじめとして多くの標本,大型復元ジオラマや映像などが展示.「恐竜の世界」「地球の科学」「生命の歴史」の3つのゾーンから構成されている.恐竜全身骨格と展示標本の量では圧巻(図6-23)であるが,展示が図鑑的なイメージで構成されている. 6) 北九州市立 いのちのたび博物館 1978年に「自然史博物館開設準備室」が置かれ,1981年に北九州市立自然史博物館が八幡駅ビル内に仮施設として開館し, 2002年に自然史,歴史,考古の博物館がー体となり,「いのちのたび博物館」として新しい博物館として誕生した.展示は「いのちの道」にそって展開していて,とても美しいと感じた(図1-4). 7) 沖縄美ら海水族館 2002年に開館した水量7,500m3の世界最大級の水槽をもつ水族館.総展示槽数は77槽.「沖縄の海との出会い」をコンセプトにしている.ジンベイザメの泳ぐ大水槽(図6-24)は圧巻,サメの展示も魅力的である. 7-3. アメリカの博物館 1) American Museum of Natural History ニューヨークのセントラルパークに面して建ち(図6-25),創立は1869年,現在25の建物が一体となって,迷路のような中に46の展示室と多くの分野の研究室があり,収蔵標本および品目数はなんと3,200万点,科学研究スタッフは50人のキューレータを含む200人以上で,全職員数1,500人,それに加えてボランティアの数は1,000人以上,年間入場者は450万人.展示室と展示物の多さに圧倒される. 2) The Field Museum シカゴにある自然史博物館(図1-1)で,創立は1893年,ニューヨークのアメリカ自然史博物館と同様なテーマをもつ博物館で,職員数は600人,そのうちキューレータ(人類学,生物学,古生物学の研究者)が90人と,職員数ではニューヨーク自然史博物館の半分の規模と言える.敷地面積は上野の国立科学博物館とほぼ同じだが,建物が分かれていない分とても広く感じる.フィールド博物館の展示室は,南北に通る中央吹き抜けホールの東西両側の1階と2階,それと地下にある.展示にはいろいろと工夫がされていて,小さな物まで気がとても利いている.これらの展示は,研究者と展示プランナーの共同作業で生み出される. 3) Birch Aquarium ステファン・バーク水族館(図6-26)は,カリフォルニア大学スクリップス海洋研究所の付属水族館である.展示室は入口のギャラリー左右にわかれ,右はいわゆる水族館で,左は海洋科学関係の展示室になっていて,規模や水族館と博物館の機能があること,それに大学付属であることも,東海大学海洋科学博物館ととてもよく似ている. 4) The Page Museum ページ博物館は,カリフォルニア郡立自然史博物館の分館で,サーベルキャット化石が発掘されたことで有名なタール池(La Brea Tar Pit)に埋没した多数の哺乳類化石と,その研究からわかった4万年以降のカリフォルニアの自然を展示している.George C. Page氏が寄付して1977年に,発掘サイトでもあるタール池の隣りに建てられている.ここでは,4万年前から4000年前まで堆積した深さ6mのタールピットから,140種の植物化石と420種の動物化石が発見され,現在でも研究が続けられている.ガラス越しにクリーニング室が見学でき,現在でも研究がすすめられていることが示されている(図6-27). |
最終更新日: 2010/09/30
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