ホームページ時代のデータベース
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石橋忠信・柴 正博
(東海大学社会教育センター 学芸文化室博物課 学芸員)

博物館研究 第34巻 第7号 p.13-17. 日本博物館協会
図については省略した



1.はじめに

 博物館におけるホームページはこの数年の間に次々と公開され、現在ではその把握が難しくなるほどの数が存在している。筆者らは1996年に職場のホームページ(http://www.scc.u-tokai.ac.jp/sectu/welcome.html)を公開して以来、このホームページとは一体何なのかということについて、「博物館にホームページを!」という博物館ホームページ推進研究フォーラムの活動を通して、実際に実験用のホームページ(試験サイト http://www.museum.gr.jp/)を運用しながら模索してきた。

 その結果、博物館にとってのホームページは、単なる電子パンフレットに留まらない可能性を持つ教育用ツールであるということを認識した(石橋・柴,1999)。また、利用者にとってのホームページとは、知りたいデータを探すことのできるデータベースであるという結論を得た。そのため、博物館としては利用者がその機能を十分に利用できるように、博物館のホームページを設計しておく必要があると考える。したがって、本稿では、博物館ホームページのデータベース的利用と、その構築手段の考え方について検討する。

2.博物館のホームページの機能

 筆者らが、ホームページを制作したり、いろいろと係わってきた中で、博物館におけるホームページの機能をホームページに対する経験値の増加による意識の変化に沿って考えてみる。

(1)パンフレットの掲示段階
 ホームページ公開以前や当初は、その形態を電子パンフレットないし展示解説書として考えた。そして、まずはその電子パンフレットや電子解説書をインターネット上で博物館のホームページとして公開することを大きな目的とした。

 この段階までであれば、既に原稿は印刷物であるパンフレットないし展示解説書という形で存在していたので、ホームページの公開は文書(テキスト)と写真(画像)を貼り付けてホームページになるファイルをつくるという形で、比較的簡単に実現した(柴・石橋,1997)。

(2)メールによるリファレンス対応段階
 ホームページを公開すると、ほぼ同時に利用者がアクセスを開始しはじめ、博物館側で用意した問い合せ用のメールアドレスに利用者から電子メール(以下メール)がたまに舞い込むようになる。メールの内容は入館料や近辺の駐車場に関する問合せや激励といった内容が多いが、中には展示物に関する問い合せも含まれる。

 この時点で筆者らは、ホームページ及びそれを取り囲むインターネットという媒体が、単なる電子パンフレットではなく、メールによるリファレンスという新しい形態の教育活動となり得るという実感を得た。と同時に、利用者からは、ホームページの活性度がデータ更新や追加によって計られることにも気付いた。

(3)掲示板活用段階
 ホームページのデータを作成することに慣れて来ると、ホームページの機能を利用して展示物に関する簡易Q&Aや、パンフレット的な情報と多少専門的な情報を切り替えて提供することができるようになり、条件によっては利用者も書きこめる掲示板の機能を活用できることに気付く。つまり、この時点でホームページによる情報は、博物館から利用者に向かうだけでなく、利用者から博物館に向かう情報も存在することに気付く。これは、ホームページを一種のコミュニケーション・ツールとして機能させる動機にもなる。


(4)メーリングリスト活用段階
 メールを利用したコミュニケーションのひとつにメーリングリスト(以下ML)がある。MLとは一本のメールを登録したメンバー全員に配信するサービスで、MLにメールを出すと、メンバー全員にそのメールが届く。そのため、これは一種の会議的な機能を実現することができる。

 筆者らは試験サイトにおいて、学芸員を対象としたML(MML: Museum Mailing List)を設け、日本各地の学芸員と様々な話題に関して意見を交換している。最近では、大阪市立自然史博物館で、このMLの機能を利用して友の会的なグループを編成し、博物館の展示物に限らず自然史博物館で扱ういろいろな話題に関して、利用者と学芸員が活発に意見交換や情報交換が行われている。

 この段階になると、ホームページは単にホームページに留まらず、インターネットそのものを利用した教育活動となり、それは既に単なる情報発信媒体ではなく、人的ネットワークを支えるコミュニケーション媒体となる。

3.ホームページの本質

 筆者らがブラウザ(ホームページを見るためのソフト)を開き、インターネットに接続してWeb空間をさまよう時、その目的は情報収集であることがほとんどである。広大なWeb空間に存在するデータを求め、色々なWebサイトからのリンク情報をもとに、目指すデータを探し回る。すなわち、それはデータの検索である。これは、データベースにアクセスし、データ検索をしているのと同じ作業である。

 またインターネットを利用している一般の人をみても、「洋服を通販で」、「ペットの情報が欲しい」など目的は様々であるが、そこで行われている作業はデータの検索にほかならない。つまり、博物館がホームページを単なる『電子化されたパンフレット』であると考えていたとしても、利用者はそれ以上の機能、即ちデータベース機能を求めて博物館ホームページにアクセスしてくる。

 しかし、筆者らを含め利用者は自分たちがデータベースを利用しているということを特に意識しないし、伝えてもこない。それゆえ、筆者らもなかなか「ホームページはデータベースである」という意識を持てなかったのであるが、実はホームページ時代のデータベースとは、取りも直さずホームページそのものなのである。

 筆者らの試験サイトでは、『博物館データ間の横断検索』の実験(http://www2.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/exp/search/)を行っており、そこにアクセスして筆者らのいうホームページのデータベース的利用を実感して戴きたい。このページは徳島県立博物館学芸員の小川 誠氏により作成されたもので、キーワードを指定すると登録された博物館のホームページ内に存在するページを検索して、キーワードが掲載されたページの一覧が表示される。

4.データベースとは

 ここで簡単にデータベースについて説明しておく。もともとデータは蓄積されていくものであり、当然そのデータは再利用されることが想定され管理される。その管理形態として、ファイリングとデータベースという2つの方法がある(Haseman and Winston,1977)。ファイリングはまず再利用の形態や書式を想定し、データを入力する時点で不要なデータを除外して蓄積・管理する方法である。一方、データベースは逆に出力の時点で必要なデータのみを選択して出力するものとし、入力の時点ではデータの除外を行わずに蓄積・管理する方法である。

 データベースは出力書式を想定しないため、蓄積するデータが限定されず、検索をかけた時に思わぬ結果が現れる可能性がある。データベースをファイリングと比較すると、すべてのデータを検索する必要があるため出力に時間がかかったが、今日のパーソナルコンピュータ(以下パソコン)の能力向上により本来のデータベースとしての利用が実用的になった。しかし、現在『データベース』として市販されているソフトのほとんどは実はファイリングの道具である。

 それでは良質なデータベースの条件とは何だろうか。まずデータ件数が多いこと。そして頻繁にデータが追加・更新されることである。これが満たされないとデータベースとしての機能がかなり制限される上、生きたデータベースとして扱えなくなる。したがって、データの追加は一人だけでなく、多くの人間が行うことが重要であり、逆にそれによってデータベースの質は向上する。

 しかし、筆者らの職場を含め一般に博物館でもデータベースが日常的に活用されているところは少なく、その能力を認識して柔軟に利用されているところはほとんど無いように思われる。その理由として、市販されているデータベースソフトが一種のデータベース構築用言語の形態を取り、その言語でプログラムを書かないと使えない、すなわち非常に使い難いところに原因がある。

 コンピュータのプログラミングが一般的でないように、データベース構築言語を使ったデータベースの設計や構築もまた一般的ではない。そしてプログラミングなしではデータベースの設計ができないとなると、使うまでに茨の道を歩まなければならなくなる。また、できあがったデータベースはさらにデータを入力する必要があり、そのためには、まず利用者が未知の道具の使い方に慣れる必要があり、導入するためには時間と費用がかかることになる。

5.テキストファイルのデータベース的利用

 博物館では標本や情報の整理にデータベースを利用する必要があるが、それではどのようにこのデータベースを構築すればよいのだろうか。ここでちょっと見方を変えてみる。

 1980年代にOA(オフィスオートメーション)という名のもとに職場に現れた機械に、コピー、ワープロ、FAXなどがある。その中でワープロの進化は著しく、現在では単体で動作するワープロ専用機はむしろ少数になり、ワープロとして動作するソフトを搭載したパソコンがその座を奪いはじめている。以下、ワープロという語が出てきた場合、パソコン上のワープロソフトを利用したシステムを含むものとする。

 データベースソフトを利用して作成されたデータは、いわゆるワープロなどでは読むことのできないバイナリ(Binary)のデータ形式で作成されている。これは処理速度の向上やデータ保存の効率を考えた場合に必須であるが、逆にデータを作成する場合にもデータベースソフトを利用しなければならないという宿命を持っている。

 一方で、職場においていて最も大量に作成されているデータ形式は何かというと、ワープロの文書類である。実はワープロもデータを保存する場合には独自のデータ形式で保存されるが、多くのワープロは広く利用可能なテキスト(Text)のデータ形式で文書を保存することが可能である。

 このテキスト形式のファイルをデータベースのデータとして利用すると、データの追加はワープロで作業できる。すなわち、優れたデータベースとなる条件のうちデータの追加を、手馴れたワープロで行えることになる。ワープロが使える職員は多いはずであるから、ほとんどの職員がデータベースのデータ追加作業を行えることになる。さらにこれは、データベース操作のための学習が不要であることを意味する。

 実は、筆者らが提言するデータベース的利用とは、このテキストデータを利用し、データベースを構築して利用しようというものなのである。

 ここで、ネットワークについて簡単な定義をしておく。本稿でいうネットワークとは複数存在するパソコン同士を繋ぎ、どのパソコンからでも共通に利用できるディレクトリ(フォルダ)を作成するための物理的手段であるとする。

(1)データの集積
 データベースの核心がデータ量であるとすると、いかにデータを作成し集積していくかがデータベースの能力を上げる鍵になる。前述したように、データベースソフトを使わず、テキストファイルのみで構築することを前提にすると、展示企画書・解説コピー原稿・館内回覧などワープロで作成された文書類はすべてそのままデータとして扱うことが可能になる。

 さらに、この時点でネットワークを利用すると、一人だけでなく多くの人間が作成したデータを簡単に集積することが可能になり、それによってデータベースの質は向上し、優れたデータベースが構築されていく。データベースの構築、という言葉の響きからはとても難しそうな感じを受けるが、実際にはテキストファイルを整理されたフォルダに保存していくだけである。

(2)データの管理
 利用されるべきデータは、まず正確であることが望まれるが、そこは人間が行うことであるため、当然誤りが混入する可能性がある。したがってデータの訂正が必要になるが、この訂正作業も単に使いなれたワープロでファイルを開き、修正して保存し直すという作業だけですむ。

 ネットワークが使えれば、特定のフォルダにファイルが溜まっているので、修正はそのフォルダに保存されているファイルを対象に作業することで、全員が修正されたデータを利用することが可能になる。

 ネットワークに接続されていないパソコンの場合、ある機械にセットされたハードディスクにはその機械以外からはアクセスできず、だれかがその機械を利用しているとデータを作成しようとしてもその作業が終了するまで待たされてしまう。

(3)データの検索
 データベースは、利用する時点で目的に沿ったデータを出力する管理方式であるため、データの検索機能が必須である。現在市販されているパソコンにはWindows98が搭載されており、このWindows98や一世代前のWindows95には、ファイルから特定の語を検索する機能が標準で付いている(図1)。この機能を利用すれば、特定のフォルダに保存されたテキストファイルから指定したキーワードを含むファイルを検索することが可能である。

 また、Windows95や98には標準でネットワーク機能が備わっており、パソコン一台に一枚ずつ3000円程度のインターフェースボードを用意し、5000円程度のハブ(集線器)を介してケーブルで結べは、3〜5台のパソコン間で簡単なネットワークが実現できる。

 この状態こそがテキストファイルのデータベース的利用であり、この程度のシステムでもデータさえ充実していれば、実に便利にデータベースを活用することができる。

 たとえば、『作業日誌』をテキストファイルに残していたとする。そこには、搬入された標本記録や館内で球切れになった照明器具の交換履歴があったり、企画展実施までの作業記録や、入館者からの質問、電話での問合せ内容などが含まれる。そして、これらが何年間か蓄積された場合の情報としての価値は、ここで説明するまでもないと思う。

6.博物館でのホームページの作成

 テキストファイルが存在すれば、ホームページ用のデータ(HTMLファイル)を作成する作業はタグと呼ばれるマークをそれに埋めていくだけである(図2)。文書(テキスト)ファイルの『データベース的利用』が実際に行われていれば、ホームページ用のデータは溜まったテキストファイル群から公開すべきものを選んで、HTMLファイルを作成することで準備できる。そしてそれは、『公開用簡易データベース』となる。ホームページの利用者は、インターネットを利用してこの『公開用簡易データベース』にアクセスすることができる。

 ホームページで提供される情報の例として、新着資料の紹介について考えてみる。ここでホームページを作るために、「新着資料の画像を作成し、新規に文章を書き下ろす」という作業が必要であるが、ホームページのみを対象として考えた場合、教育効果の面からどう考えてもリーズナブルな対価を生み出すとは思えない。しかし、この作業に必要な材料は、「新着資料を展示場に設置し、新規に書き下ろした解説パネルを置く」という現実の展示作業が実施されたとすれば、その中に落ちている。

 資料の写真は資料管理の面から当然撮影されているであろうし、展示場に置く解説パネルのための原稿は、パソコンやワープロのフロッピーに残されているはずである。つまりホームページを運用するための材料は、現実の博物館での作業の残滓で充分であり、とりたててホームページのための材料を用意する必要はない。このような残滓が出るように、現実の作業をシフトしていけばよいということになる。

 まずは、「ワープロの文書は用途が無くなっても必ず残す」、そして「ワープロの文書はテキストファイルで残す」という2つの作業を習慣づけることが重要である。すなわち、先に述べた文書ファイルの『データベース的利用』のデータを蓄積しはじめることである。

 これが実を結べば、HTMLファイルの作成はタグを打つだけであるため、ホームページで公開するための原稿作成作業は著しく減少する。原稿の推敲・校正がきちんとできていれば、実際の作業者には資料に関する専門的な知識が要求されないため、HTMLを書ける人材さえいればすぐにでもホームページの作成が可能となる。

7.まとめ

 博物館におけるホームページ作成は、まず研究・収集・展示・普及などの活発な博物館活動が展開されるところから開始される。そして、それらの活動の計画や進行状況、また報告などが回覧の形で館内に周知され、その文書原稿が特定のフォルダにテキストファイルとして残され、気づくたびにワープロで修正されていけば、ホームページのための原稿はほぼ完成しているも同然である。

 これに加え、年報や研究報告、普及誌、広報誌などの原稿もテキストファイルで残されていけば、一年間でかなりの量の原稿が確保可能である。そしてこれらのデータは、検索が可能になり、単なる過去の記録から将来への資料へと姿を変え、優れたデータベースとして機能しはじめる。

 その一部をホームページとして切り出し、一般に向けて公開すれば、ホームページの利用者はそれを無意識にデータベースとして利用し、これらのデータ群から彼らのほしい情報を探し出す。利用者からのメールやMLでのメールは、博物館利用者からの要望、興味、意識の指針という意味で博物館活動や博物館経営におけるサンプルデータとして重要であり、実はこれもテキストファイルであることからそのままデータとして扱え、博物館の持つデータベースは多彩な情報を含む柔軟で優れたデータベースとしてさらに育っていくことになる。

引用文献

Haseman, W. D., and A. B. Winston (1977) Introduction to Data Management. Richard D. TRWIN, Inc. [鈴木道夫訳編:新しいデータベース技術.Bit 1980年4月号別冊,271pp.,共立出版]

石橋忠信・柴 正博(1999)博物館におけるホームページの役割.海・人・自然(東海大学博物館研究報告)東海大学社会教育センター,1,81-95

柴 正博・石橋忠信(1997) 東海大学社会教育センターにおけるホームページの開設.静岡県博物館協会研究紀要,20,51-60





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最終更新日: 2009/07/24

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