めざせ!「博物館にホームページを!」
−博物館におけるホームページと博物館ネットワーク構築―



博物館ホームページ推進研究フォーラム世話人

柴 正博・石橋忠信(東海大学社会教育センター)

ACADEMIC RESOURCE GUIDEののNo.024(1999.03.25発行)



1.博物館におけるホームページの役割

 現在,日本の博物館3500館のうち,ホームページのある博物館はその半数におよんでいる(柴・石橋,1998b).しかし,それらの多くは観光施設としての博物館紹介やパンフレット,広告看板的なもので,博物館独自で情報発信や管理をしているホームページは少なく,さらに博物館にサーバーをもちドメインを取得しているところは数える程度にすぎない.

 博物館の多くは,ある特定の分野に絞って資料を収集・研究し,展示物や解説にその特徴を反映させることで,入館者の学習意識(知的好奇心)を促する教育機関である.そのため,博物館では従来から教育手段として[物+展示場]や[出版物]という媒体などを利用している.ホームページは[画像+インターネット]という媒体であるが,それを有効に利用することにより,ホームページは単なる広報媒体の枠を越えて博物館の教育活動の手段のひとつとなり.展示と同様に利用者に新しい動機付けを提供できる(石橋・柴,1999)と考えられる.

 また,博物館相互のコンピュータネットワークの構築を考えると,博物館の大小にかかわらず,多くの博物館が独自に博物館の情報を整理して,さらにホームページなどを開設してネットワークに参加できる体制をつくる必要がある.すなわち,コンピュータネットワークに参加する博物館が多くなってこそ,博物館のネットワークが構築される(柴・石橋,1998b)わけで,各博物館が独自に収蔵資料のデータベース化やホームページの公開など,電子情報通信(テレコミュニケーション)の環境整備を進めなくてはならない.

 そこで,予算の余裕のない小さな博物館でも電子メールの利用はもちろん独自にホームページを開設し,博物館のネットワーク構築に参加できる方法を検討することが,今後の博物館におけるインターネット活用や将来の博物館コンピュータ・ネットワーク構築にとって重要だと筆者らは考える.

 また,この電子ネットワークという新しいメディアを利用することにより,従来の学芸活動が徐々に変化しはじめ,博物館の情報が整理される(石橋・柴,1999).すなわち,ホームページの運用をキーワードに展示物およびそのデータを管理する学芸活動をより効率化することにより,博物館の業務や活動内容が飛躍的に進歩する可能性がある.

 ある目的のために「もの」を調査・収集し,保管・収蔵および研究して,その成果を使って教育・普及するという博物館の機能を考えれば,その仕事やデータ全体をデジタル情報という形で残し,ひとつの情報の流れ(系)の中で館内および館外の人にも利用できるようにすることは,博物館の最も重要な仕事である(柴・石橋,1998b).この重要な仕事は学芸員が中心となってそのシステムを構築するべきであり,ホームページを導入するにあたり,それぞれの博物館における情報管理環境の向上や新しい博物館の活動とそのあり方について十分に検討されるべきである.


2.博物館ホームページ推進研究フォーラムの発足まで

 筆者らが博物館のホームページとかかわりをもったのは,家庭でもWebが見ることができるようになった1995年頃だった.仕事がらWebでは世界のいろいろな博物館のホームページを見て,このメディアは博物館で利用できると確信した.翌年の1996年,筆者らはさっそく自分たちの職場である東海大学社会教育センターの博物館(海洋科学博物館,人体科学博物館,自然史博物館)のホームページをつくりはじめた(柴・石橋,1998).

 最初は広報目的で博物館のホームページをつくっていたが,個々の展示解説や普及誌の記事掲載にまで踏み込んだところで,博物館のホームページは博物館の教育・普及活動のひとつの手段になり得ると考えるようになった.また,個々の標本のリストや普及誌の記事を検索させるところに至り,ホームページがデータベースとして利用できることに気がついた.

 また,ホームページの全体構造の検討中に,実際の博物館の展示や活動やその問題点を再認識し,さらに新たな博物館をWeb上に再構築している自分たちの姿に気がついた.それは,ホームページの中にもうひとつの筆者ら自身の博物館をつくっているようなものだった.

 財団法人日本科学協会では1997年度から博物館学芸員に研究費を助成することになり,筆者らは「博物館におけるホームページの活用と博物館ネットワーク構築」というテーマについて研究助成を申請した.幸いにも筆者らは1997年度の笹川科学研究助成にあずかり,「博物館にホームページを!」という活動を1997年4月から開始した.

 まず,この研究の基地として「博物館にホームページを!」というホームページ(Http://www.ask.or.jp/~museum/)を開設し,このテーマについて関心のある人たちといろいろと議論をするための場として掲示板を設置した.しかし,掲示板にはほとんど書込みがなく,つづいてメーリングリスト(Museum Mailing List:MML)を開設した.このMMLには全国の博物館の学芸員や博物館に関心のある多くの人々が参加され,参加者が最大のころで150人を越え,これまでにスプールされたメールは2000以上におよんでいる.

 また,博物館研究の基礎データとして,全国の博物館3500館の「博物館住所録データ」をデータベースに作成して,それをホームページ上で公開した.そしてそのデータをもとに,全国の博物館のうちどれだけの数の博物館がホームページをもつか,他のリンク集や検索エンジンにあたって調査し(柴・石橋,1998a),その結果もリンク集として公開した.

 1997年11月に行われた全国博物館大会(広島市)で筆者のひとり柴が博物館のホームページについて話題提供を行った(中川ほか,1998a,1998b).このことが契機となって,博物館ホームページに関する筆者らの研究が文部省の「学芸員の資質向上の方策に関する研究」のひとつとして取り上げられた.これは,1997年度と1998年度の2年間のモデル研究事業であり,筆者らはこれを機会にMMLでの議論を発展させていくための組織として「博物館ホームページ推進研究フォーラム」を設け,さらに地元の静岡県博物館協会に「博物館にホームページを!」の活動を実践して行くための「インターネット活用研究会」をつくる計画を立てた.

 1998年3月に静岡市にて,「博物館にホームページを!」のこれまでの研究のまとめと今後の方針を検討するために,MML参加者による研究会を開催した.その席で,MML参加者の討論の場を「博物館ホームページ推進研究フォーラム」とすることを決定した.


3.博物館ホームページ推進研究フォーラムの活動

 1998年5月に静岡県博物館協会の中に「インターネット活用研究会」を設置していただき,事務局のある静岡県立美術館内に,「インターネット活用研究会」の実験サーバー(lemon)を設置した.この実験サーバー(lemon)は「インターネット活用研究会」のサーバーと同時に「博物館ホームページ推進研究フォーラム」の活動の拠点ともなった.筆者らは,博物館でホームページやインターネットを今後どのように利用していけばよいか,このメディアを使って博物館にとってどのようなことができるのかを検討するために,このサーバー(lemon)を利用して実験を開始した.

 夏の繁忙期を終えた9月には,それまで懸案だった「博物館住所録データ」のデータベース形式を変更することができた.さらに,メールからのHTMLファイル(ホームページ)を自動作成するプログラムの制作とその検索プログラムの試行実験を開始した.11月には,静岡県博物館協会「インターネット活用研究会」のホームページ(http:///www2.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/)とメーリングリスト(smml@lemon.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp)を開設し,研究会への参加者を募集し,具体的な「インターネット活用研究会」の活動を開始した.

 12月には,「博物館ホームページ推進研究フォーラム」のメーリングリストを実験サーバーに移転し(museum-ml@lemon.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp),博物館データ間の横断検索の試行実験(http://www2.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/exp/search/)を開始した.また,特別展・企画展情報をメールで配布するCGIによるメールサービス(http://www2.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/exp/infocast/cst_info/spool/smml/)を作成し,これも実験を開始した.

 1999年2月に,「博物館住所録データ」をもとに実験サーバー上にSQLデータベースを構築し、Webブラウザを利用してアクセスする博物館住所検索(http://www2.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/exp/dbms/museum/search_muse.html)を行う実験を開始した.

 3月9日・10日に静岡県立美術館において,「博物館ホームページ推進研究フォーラム」と「静岡県博物館協会インターネット活用研究会」の合同研究集会を行った.この研究集会では,MMLの参加者にホームページや博物館の情報システムについての話題提供をしていただき,今後の「博物館ホームページ推進研究フォーラム」の活動についても討論した.

 この研究集会において,埼玉県立自然史博物館の楡井 尊氏は「予算が無くてもホームページを作るには」,美濃加茂市文化課の井戸幸一氏は「美濃加茂市民ミュージアムの準備段階におけるインターネットの利用」,静岡県立美術館の泰井 良氏は「静岡県立美術館における自治省実証実験について−次世代ハイビジョン・ミュージアムの現状と課題」について話題提供を行った.大阪市立自然史博物館の佐久間大輔氏は「博物館の普及活動におけるインターネットの利用」,特に学芸員同士や友の会や一般の方とのメーリングリストを活用した活動について話題提供を行った.

 滋賀県立琵琶湖博物館の戸田 孝氏は,「はじめに人のネットワークありき―住民参加型調査結果の発信に向けて」というネットワークを活用した博物館の研究活動について話題提供を行い,岩手県立大学総合政策学部の平塚 明氏は東北大学理学部附属植物園のホームページを開設・運営した経験から「植物園がホームページを持つこと -Botanical Gardens on the Web-」という話題提供を行った.

 筆者のひとり石橋は上述した実験サーバー(lemon)でのHTML自動化と検索利用を中心に「ホームページのデータベース的利用」という話題提供を行い,徳島県立博物館の小川 誠氏は博物館データ間の横断検索システムを試行した例なども含め「全文検索の構築と有効活用方法」という話題提供を行った.最後に国立歴史民俗博物館の鈴木卓治氏は氏のこの1年のホームページ作成や情報処理についての活動を総括し,今後の博物館の状況やインターネット活用についての具体的な問題点を示した.


4.今後の博物館ホームページ推進研究フォーラムの活動

 上述したサーバー(lemon)をもちいたこれまでの実験は,博物館でのホームページ作成や管理,電子メールの利用やメーリングリストの活用,さらにメールやテキストからのHTML自動変換によるホームページの更新と検索への活用,データベースの作成とWebブラウザによる遠隔更新,ホームページからのデータ検索利用といったものである.これらは,FreeBSD上で動作するフリーウェアのみを利用して石橋が設置・運用した.

 このサーバー(lemon)があれば,博物館でテキストやメールからホームページが自動生成され,それをすぐに検索して利用することができるようになる.たとえインターネットに接続していなくても,博物館内でのイントラネットとして博物館資料の整理と管理,資料検索,学芸員同士の情報交換や研究ツールとしても利用できる.もちろんインターネットサーバーとして利用すれば,それに加えて,一般の利用者が博物館資料を閲覧したり検索したりすることができ,利用者の質問に対しての対応やメーリングリストの活用,さらにそれらのメールをHTMLに自動変換して情報データとして蓄積し再利用することも可能である.

 1999年3月の「博物館ホームページ推進研究フォーラム」の研究集会では,今後のフォーラムの活動について,今後も今まで同様にMMLで情報交換や議論を行っていくことを確認した.また,特に技術的な話題については一般に公開する「MML-Tech(http://www2.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/mml/tc_spool/)」という新たなメーリングリストを設け、既存のMLであるMMLと連動させることにした.

 上述した実験サーバー(lemon)については,イントラネットとしても利用できるため,サーバーとして利用できるハード(コンピュータ)さえあれば,プログラムをインストールし、実験サーバーでの設定値やHTMLファイルをテンプレートとして細部の設定を書き換える作業だけでこれらの機能がすぐに利用できる.そのため,これを他の博物館などでも利用できるように,希望する博物館へ配布する方法や利用・管理体制などについてさらに検討することにした.

 また,このシステムが博物館だけでなく,多くの博物館や科学館を組織している団体や協会でも活用されていけば,そこに所属する博物館にホームページがつくられやすい環境ができると思われ,今後その点についても努力していきたい.

 「博物館ホームページ推進研究フォーラム」では,ひとつでも多くの博物館にホームページが開設されるよう,そしてそれらが本当のネットワークとして機能するような道筋を研究していきたいと考えている.また,博物館をとりまくインターネット環境をできるだけ改善させていくために,「博物館ホームページ推進研究フォーラム」の活動をより多くの人々に知っていただく積極的な行動を起こしていきたいと考えている.その意味からも,今回,本稿を執筆する機会を与えてくださったAcademic Resource Guideの編集発行者である岡本 真氏には感謝する.


引用文献

中川志郎・大塚和義・柴 正博・竹澤雄三・堀 由紀子(1998a)シンポジウム 教育普及活動の新たな展開を求めてー魅力ある博物館づくりのためにー.第45回全国博物館大会報告書(平成9年度),26-40,財団法人日本博物館協会.
中川志郎・大塚和義・柴 正博(1998b)分科会 マルチメディア.第45回全国博物館大会報告書(平成9年度),41-50,財団法人日本博物館協会.

柴 正博・石橋忠信(1997)東海大学社会教育センターにおけるホームページの開設.静岡県博物館協会研究紀要,20,51-60,静岡県博物館協会.

柴 正博・石橋忠信(1998a)博物館におけるホームページの活用と展開.静岡県博物館協会研究紀要,21,11-21.静岡県博物館協会.

柴 正博・石橋忠信(1998b)博物館のデジタル情報とインターネット利用.地学雑誌,107,809-816,東京地学協会.

石橋忠信・柴 正博(1999)博物館におけるホームページの役割.海・人・自然(東海大学博物館研究報告),1,81-95,東海大学社会教育センター.

■博物館ホームページ推進研究フォーラム■

 この活動は,全国の博物館が独自にホームページを作ることにより,博物館相互のネットワークができれば素晴らしいだろう,と考えてはじめめました.現在,ホームページとMML(Museum Mailing List)を運用しています.世話役:柴 正博・石橋 忠信(東海大学社会教育センター)




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最終更新日: 2009/07/24

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