博物館のデジタル情報と

インターネット利用


 

柴 正博・石橋忠信


T.はじめに

 編集委員の方から著者たちに与えられたテーマは,「これからの博物館における資料」という章の中の「見えない資料(デジタル情報)」というものであった.「見えない資料」とはいったい何だろうかとこのテーマに困惑してしまったが,「デジタル情報」ということであればなんとか話も展開できるような気がした.

 「見えない資料」の中には,博物館にあるにもかかわらず整理や公開されていないために,「見えない資料」になっているものがある.そして,そのような「見えない資料」を「デジタル情報」にすることによって,「見える資料」にすることができ,多くの人に利用される資料になる場合がある.

 また,この特集の趣旨に「博物館の現状分析ではなく,博物館の未来を予感させるような資料に関する取り扱い,研究,普及,展示活動を総括的に紹介する.」とあり,その点から本稿では博物館におけるデジタル情報とそれを核としたインターネット利用について,博物館における今後の展望を述べたいと思う.

 本稿をまとめるにあたり,編集委員の斎藤靖二氏と小出良幸氏にはいろいろとお世話いただいた.また,徳島県立博物館の小川 誠氏と埼玉県立自然史博物館の楡井 尊氏にはメーリングリストでの議論を通じて多大な示唆と同時に文献の紹介をいただいた.これらの方々に感謝する.


U.標本管理のデータベース化

 筆者たちは「博物館」を,ある目的のために研究・収集された「もの」や「情報」を将来のために収蔵・整理し,同時にそれらを用いて普及・教育活動を行う「機関」と考えている.したがって,公共の博物館であれば収集された「もの」や「情報」はつねに整理・公開され,いつでも誰でも利用できるようになっているべきであると考える.多くの博物館では従来から収蔵物や資料のリストを作成したり,収蔵目録や図録などを出版しているが,それは博物館の「収集活動」とその「情報の公開」という役割のためである.

 収蔵物の整理や管理については,多くの博物館では以前から登録簿や資料カードなどを用いて行われていたところが多く,大量の資料になると資料を探し出すことや検索や整理が困難であった.そのため,いくつかの博物館では汎用コンピュータによる標本管理のデータベースが用いられたりしていた.最近ではパーソナルコンピュータ(パソコン)の機能の充実と普及により,パソコンを利用して標本管理が行われる場合も多くなった.

 柴・石橋(1998)は静岡県の142の博物館へのアンケート調査で,回答のあった87館のうちコンピュータのある博物館は回答館のほぼ半数(54%)で,コンピュータのある館でもコンピュータを資料整理に活用しているまたは活用したいと考えているところはその35%しかないことを報告している.このように,資料の登録やリストづくりにコンピュータを用いている博物館はあまり多くないのが現状である.博物館でのコンピュータ利用や資料のデジタル化が進まない理由の主なものは「コンピュータがない」,「コンピュータを使える人がいない」,「データを入力する時間も人も予算もない」などである.

 デジタル情報とは「見えないもの」ではなく,見えている資料をコード化して検索やソートのために利用しやすくしたり,資料情報を加工したものである.さらにデジタル情報を電子化することにより,コンピュータを利用して資料情報の加工や検索を容易にし,電子記憶媒体や通信回線を利用して多くの人が情報を共有することができるようになる.

 たとえば,あるグループの化石標本をそれらのラベルに書かれた範囲でその採集地や分類,保管場所などの記録をまとめてもつことができれば,それはひとつのデータベースになる.そのとき,市販のデータベースソフトを利用し文字の記録はテキストとして写真は画像としてそれぞれ電子化された情報にしておけば,そのデータベースからはその化石標本の一覧や産地や種名による検索や一覧表の出力はもちろん,ラベルの印刷もでき,標本の追加や記載の追加などにより標本の履歴を追うこともできる.さらに,データベースの情報をもとに図録の原稿や印刷もでき,館内の他の職員や来館者にも利用可能な情報となる.またインターネットで公開すれば,Web(ホームページ)などを利用して博物館の外の人も自由に利用できる環境を構築できる.

 標本資料管理のためのデータベース化は,初期のころ汎用機による各分野を統一したフォーマットで集中管理するようなものが求められていた.しかし,実際には自然史系の博物館でも動物や植物,地学などの多分野にわたる資料を統一して管理するフォーマットをつくることは難しく,さらにそれらを集中管理することも困難である場合が多いことが明らかになった(松浦・志津田,1998;秋山,1998).

 また,これらの標本管理データベース自体を研究や普及用のデータベースとしてそのまま利用することも無理があり,それぞれの目的にあったデータベースの設計が必要となる.すなわち,汎用機による集中管理システムの場合,すべてをカバーしようとするとシステムが大きくなり,それに反して利用目的が異なると自由が制限される.さらにシステムが大きくなればなるほど,一度作ると変更がきかず,結果的に使いにくくなる場合が多い.

 それに対してパソコンや市販ソフトの機能はこの間に急速に充実した.安価な市販のデータベースソフトでも80万件のデータを瞬時に検索できるようになり,博物館の学芸員自身が市販ソフトを利用して手軽に標本データベースを作成することが可能となった(小川,1997;勝山,1998).標本資料についてもっとも知っているのはその専門学芸員であり,データベースの設計はその専門学芸員によって行われるべきで,市販ソフトを利用することによって機能の更新も他のソフトと複合させた作業も容易にできる.

 標本資料管理用のデータベースは各分野の資料の性質や各博物館の事情などもあり,各館または各分野の学芸員が中心となり作成されるべきものだろう.研究や普及目的の公開用データベースは標本資料管理用のデータベースから必要な項目のみを抽出して生成し,まったく別の目的をもったデータベースとして利用するべきと考える.最近の市販データベースソフトでは,HTMLファイルへの自動変換機能があるものもあり,これを利用すれば公開用の標本データのホームページを自動的に作成できる.

 博物館のもつ資料には,標本資料だけでなく分布情報や画像資料,展示解説,研究資料などもある.これらについてもデジタル化され,それらを組み合わせることにより資料を立体的・複合的に取り扱えることになる.

 デジタル情報の複合はさておき,まず情報のデジタル化をいかにはかるかということが最初にある.情報のデジタル化のためには,資料情報をコード化できるような形に整えたり,個々の情報の不完全な部分や信頼性についてあらかじめ補足しておくことが重要である.データベース処理をする場合,どのように料理する(どのようなデータベースをつくる)かはさておき,料理できる材料(情報)をまず調えておくことが重要である.実はこれがデータベース処理の基本であり核心でもある.

 また,データベースは標本や資料の記録できる部分をなるべく忠実に保存するものであるが,標本や資料それ自体に代わるものではない.それと同時に,データベースは生きものであり,メンテナンスの体制が確立し,蓄積した標本や資料の保存や利用のための施設の確保がもっとも優先的な課題でもある(金井,1998).

 次に,情報の電子化をいかにはかるかという問題がある.しかし,電子化はそれほど難しいものではなく,データ処理用のコンピュータソフトの活用に習熟していなければ,最初はテキスト変換機能のあるワープロ機でテキスト(文章)を入力してもかまわない.最近ではスキャナーによる文字判読(OCR)で容易にテキスト化もはかれるようになった.

 画像入力については,まず資料としての写真や図などがきちんとそろっていることが重要で,スキャナーやデジタルカメラがなくても写真屋に頼んでフォトCDにして電子化することも可能である.要するに今からつくる資料,そしてできれば現存する資料をできるだけ電子化して残しておくことが重要である.

 デジタル情報について語る筆者たちのいる博物館でも,標本資料のデータベース化は十分に行われていないのが現状である.しかし,展示業務については,すべての展示解説や展示標本ラベルと主要な展示標本の画像についてはすでに電子化されている.また新たな展示についてはデータベース上で展示内容の検討が行われ,それをもとに展示パネルやホームページへの出力を行っている.また,普及誌の原稿や画像も同様に電子化され,発行とほぼ同時にホームページにも掲載されている.


V.標本資料データベースの標準化

 全国科学博物館協議会ではここ数年にわたり,科学系博物館の標本資料のネットワーク化やデータベースを他の博物館と共通利用できるようにするための共通フォーマットの策定(データの標準化)について検討されてきた.しかし,標本資料データの標準化には前述の集中管理システム同様に,いくつかの難しい問題があることが明らかになった.

 たとえば,各博物館ごと標本資料の分類コードや記載項目が統一していないことや,さらに博物館のコード自体もたとえばKNHM(北九州自然史博物館と倉敷市自然史博物館)などのように重複がみられる例も多い.したがって,統一コードをもし設定しようとすれば,各博物館のデータベース項目やコードを再設計しなければならなかったり,さらには各博物館の標本ラベルの変更にまで影響をおよぼすことになりかねない.

 溝口(1997)は,各人各組織が自由にデータベースをつくり,公開し,そして互いに好意(著作権等)を尊重しあってさらに補足・改良すれば,生物の進化と同様,自然に共通の標準的なデータ項目が定着する,と指摘している.データベースの作成に関しては,基本的にそれをつくり利用する側が使いやすい形で作成すべきものと筆者たちも考える.ただし,これまでの標本資料データの標準化の議論の多くが入力段階での標準化に集中していたように思われる.

 ここで,標準化の問題点が発生する原因について考えてみる.実はここまで「データベース」と記述してきたシステムは,本来のデータベースシステムではないのである.

 情報を管理する場合,多くの組織ではあらかじめ分類を設定しておきデータを追加するという作業によって実現されている.受入台帳というノートを用意し,資料が受入れられるたびにそのノートに書き込むシステムである.この方法であれば情報はきちんと整理された状態で蓄積される.同様に資料に関しても,動物剥製ノートとか植物化石ノートという様にノートを用意してデータを記入し,資料という書架に整理して保存しておけば管理が可能である.受入に関する情報は,受入台帳の何ページにある何番の項目を参照せよ,という様なメモを記すことで,他のノートとのリレーションも設定できる.

 この様な管理方法はファイリングと呼ばれ,ここまで「データベース」と記述してきたシステムは,単に電子化されたファイリングシステムのことに他ならない.一方,本来のデータベースシステムによる管理方法とは,極端に言うとノートではなくメモ用紙を準備し,データを書き込んで籠にポンポン放り込むような蓄積方法を行う.この方法では情報は混沌・無秩序に蓄積される.これで情報が管理できかというと,データベースシステムの場合は情報を利用する際に整理して表示する.そのため,データは整理されていなくても結果的に,ファイリングによる管理とほぼ同じ結果を得ることになる.

 つまり,ファイリングは情報を蓄積する段階で予め項目を決め,情報を秩序立てて蓄積していく管理方法であり,データベースは蓄積の段階では何もせず,利用する段階で秩序立てて出力する管理方法といえる.さらに言うと,ファイリングは使用目的が明確(専用システム)であり,蓄積する時点で出力に不要な情報は切り捨てて蓄積する管理方法であり,データベースは存在する情報は全て残したまま蓄積し,使用する段階で目的に沿った情報を拾い上げる管理方法(汎用システム)である.

 現在入手可能な情報管理システム(データベースソフト)は実はほとんど電子化されたファイリングシステムであり,特定の目的に関係しない情報を切り捨てて蓄積されている.そのため,これを利用してより多目的にデータを共通利用しようとすると限界がある.

 そこで物理的な道具の利用というレベルを離れ,概念としてのデータベース構築を再考してみる.前述した「篭の中にポンポン」放り込む実体として,メモ用紙でなく前述のノートを利用し,データベースはノートの内部を検索し,秩序立てて出力できるものとしたらどうだろうか.つまり情報の集まりをデータとそれを検索する機能がペアになったブラックボックス(オブジェクト)群として扱えば,データベースとして機能するのではないか.

 その電子化されたファイリングシステムに乗せられた情報をデータベース的に利用する方法についての鍵は,SQLサーバーなどのように情報を蓄積する部分と検索・表示する部分が分離されたシステムに隠れていると思われる.現時点でデータベースソフトはデータベースマネージャとデータブラウザ(レポート機能)が閉じた系(同一ソフトで賄うタイプ)として商品化されているが,SQLサーバーなどのようにサーバーとクライアント,すなわち管理機能と表示機能を切り離して考えられるシステムが一般的になってくれば,無理に標準化しなくても表示側の機能によって容易に標準化した出力が実現できる可能性がある.

 データベースの要素としては,データ,データベースマネージャ(サーバー),データブラウザ(クライアント)がある.まず,データは管理する人間が使い勝手の良い分類・表記で登録してかまわない.データベースマネージャーも同様に使いやすいソフトを選んで使用してかまわない.データブラウザはデータを表示する目的のソフトで,いわゆるデータベースソフトのレポートの機能だけを取り出したものである.

 データブラウザでデータを検索する場合,データベースマネージャにキーワードを渡し,検索してもらった結果を表示する事になる.ところがデータブラウザで自分の使い易いキーワードを指定すると,要求するデータとは違うモノが出力される可能性がある.これは要求するデータを検索するための適切なキーワードが判らないために起こる現象である.

 それを防ぐためには,データベースマネージャとデータブラウザの間に,元になっているコードの体系や記載内容の基準を表で持ち,検索する度に参照・読み替えを行うプログラムを挟めば多くの問題は解消される.この機能や基準となる表をデータベースマネージャに持たせるかデータブラウザに持たせるかは意見の分かれるところだが,自分が公開するデータの普遍性を自分で保証するという立場に立てばデータベースマネージャに持たせることがよいと考える.

 一方で,自分の使いやすい表現でキーワードを指定したい場合には,データブラウザ側にも変換機能を持たせ,データベースマネージャにリクエストする方法が考えられる.この場合キーワードは表に記されたキーワードに変換されてリクエストされる.すなわち,データやデータベースマネージャーが異なっていても,それらとブラウザの間に変換処理プログラムを介在させることで誰でも使えるデータとなり,標準化の目的は達成される.


W.デジタル情報のネットワーク利用

 博物館は将来の生涯教育の核として期待され,現在文部省からの予算を受けて全国科学施設協議会をはじめ動物園水族館協会などで,それぞれ教育ネットワークの構築プロジェクトがはじめられている.また,美術館や人文系博物館においては,文化庁が中心となりインターネットを利用した文化財情報の共通索引システムの構築が進められている.

 たとえば文化財情報の共通索引システム試行版では,各美術館などが所蔵する1つの芸術作品について1枚のホームページをつくり,そのURLと作品名・作者を検索システムのサーバに登録するという形式で共通索引システムを構成している.最近では共通索引システムに参加する館も多く,検索できる作品も増加している.この共通索引システムを利用すると日本のあちこちの美術館に所蔵されているある作者の作品や同じようなテーマの作品をいながらにして検索して見ることができる.

 自然史関係の標本では,1資料1ページということはできないものもあるが,ホームページに標本資料の情報をなんらかの形で掲載しておけば,情報を知りたい人が「GOO」のようなロボットによるテキスト全文検索サービスを利用することで,キーワードを入力することにより情報にたどり着くことができる.そのため,各分野ごとの専用テキスト全文検索システムをつくることによって,検索をより容易にすることが可能となる.

 各分野ごとに横断検索できるネットワークシステムがどこかにあり,各博物館や研究者が自分たちのもつ個々のデータベースから公開用のHTMLファイルを作成し,ホームページに掲載してそれに参加したとする.そうすると,ある情報を求める人がいくつかのキーワードを組み合わせて入力することで,情報を容易に見つけることができる.このように各分野での横断検索を行うことによって,公開された情報の相互利用が可能となる.

 上記のような専用テキスト全文検索システムの試行実験はすでに,博物館関連サイトや,図書館情報学 ,地域情報などの分野で行われており,近い将来こうしたサービスが広い分野で普及するだろう.博物館におけるこのようなサービスは,できるだけ多くの博物館の参加があって有効に活用されるため,全国科学博物館協議会や日本博物館協会などが中心となってシステムが運用されるべきと考える.

 博物館相互のコンピュータネットワークの構築には,博物館の大小にかかわらず,多くの博物館が独自に博物館の情報を整理し,さらにホームページなどを開設してネットワークに参加できる体制をつくる必要がある.すなわち,コンピュータネットワークに参加する博物館が多くなってこそネットワークが成立するのであるから,現状では各博物館が独自に収蔵資料のデータベース化やホームページを公開するなどの電子情報通信(テレコミュニケーション)の環境整備を進めなくてはならない.そして,博物館のこのようなサービスの充実には個々の博物館でどれだけ情報をデジタル化できるかということにかかっている.


X.博物館とインターネット

  最近のパソコンは計算機や検索機というだけでなく通信と結びつき,とくにインターネットへの接続によって情報発信や情報利用,情報交換の強力な通信機器として活用されている.そして,インターネット利用の範囲は今や急速に拡大している.通信・出版・教育・芸術の分野で急速に成長・拡大しているインターネットが今後積極的に利用され,今までとちがった教育システムが発生し発展してくる可能性がある.博物館がそのことに気づき,それを十分に理解して,博物館自身がその先駆的な役割をはたせば,博物館のデジタル情報はその新たな教育システムの核となりえると筆者たちは確信している.

 ホームページは博物館の情報発信のひとつの手段として有効であり,この1年で博物館のホームページは急激に増加している.筆者たちは「博物館にホームページを!」というホームページをもち,その中で日本の博物館約3500館の住所録データベースを公開しているが,1997年10月に調査した結果(柴・石橋,1998)では,その博物館の中でホームページを公開しているところは500館程度だった.その多くは市町村やNTTなどの企業,それと全国科学施設協議会など博物館関係の協会などのページに付加されている観光施設案内や博物館紹介程度のもので,博物館独自でホームページを製作・管理しているところは100館に満たない状況だった.

 しかし,その半年後の1998年4月に同様の調査を行ったところ,ホームページをもつ博物館は1500館以上と半年で3倍以上になり,博物館独自で制作・管理するところも同様に急増していた.また,サーバーを設置してホームページ,データベースの公開などに利用している博物館も増加していた.

 ホームページによる博物館の資料や活動の紹介は,博物館側からの一方的な情報発信の手段としてのインターネットの利用である.これらの中には,博物館の紹介(博物館のパンフレット,利用説明書),博物館展示物の解説(展示解説書),博物館収蔵資料のデータベース,博物館の普及誌,博物館の催し物情報などが含まれる.ホームページは博物館の活動と同様にそれ自体アクティブでなければ見にくる人もいなくなる.そのためには,博物館のもつデジタル情報を核としてそれを積極的に発信していく組織なり人材なりが必要となる.

 インターネット利用の大きな特徴はホームページのように一方的な情報発信だけでなく,双方向であり随時性(都合のよい時間を選んで応答できる機能)を持った機能の活用にある.そのためインターネット利用の次の展開として,博物館利用者との相互コミュニケーションを考える必要がある.それらの活用の中には,各種問い合せの対応,データ検索,メーリングリストやニュースを利用した友の会などの情報および会議サービスなどが含まれる.

 国内の博物館では,水戸芸術館や中里村恐竜センターなどが,アマチュアのボランティアを中心とした情報サービスやメーリングリストによる友の会活動,さらに博物館活動の企画づくりなどを展開している.

 博物館側からの積極的な相互コミュニケーションの活動は,新たなニーズや一般からの強い支持者を生み出し,新たな博物館活動を展開する可能性を秘めている.このようなインターネットやホームページの活用は,単なる展示館としての博物館のイメージを一新し,情報館や研究センターとして一般の人や研究者が博物館活動に参加する新しいタイプの博物館を生み出すと思われる.そのためには,相互コミュニケーション機能をもった博物館の組織づくりが今後必要であろう.

 インターネットを利用した相互コミュニケーション活動における問題点として,博物館側から提供する情報の許諾や著作権の問題がある.すでに許諾範囲の決まっている情報であれば問題はないが,ニュースや問い合せなどで即時的に提供する情報の中には,博物館内部で公開すべきかどうかを検討する必要のあるものが含まれている場合がある.しかし,提供するすべての情報について,博物館管理者にいちいち許諾申請をしていたのでは相互コミュニケーションを十分に生かすことはできない.また,ボランティアも含めた博物館活動となれば,さらにオープンスタンスの博物館の活動や組織体制が要求される.


Y.インタープリターとしての博物館

 山崎(1998)は,地質情報を21世紀の市民生活の中で身近なものにすることを考えるとき,情報について,その内容を検討することに加えてそれを共有する方法も検討することが必要であり,その際インタープリター(自然解説員)という人材育成が主要な課題のひとつであると述べている.

 博物館は,研究の場であるとと同時に一般市民に対して教育普及の場でもある.各専門分野の研究をそのままの形で一般市民に提供しても,その内容が理解されにくく,反対に理解する意欲をなくす場合もある.そのため,博物館では一般にわかりやすい展示や講演会や自然観察会,友の会などで普及教育活動が展開されている.

 博物館の資料情報は研究に利用できる情報でなくてはならないが,それをもとに一般の人に利用しやすい情報の整備も必要である.博物館の資料の公開や提供は,結局は博物館をとりまく一般市民やアマチュア専門家の知識の底上げや底辺の拡大に通じ,博物館活動や各研究分野の重要性の理解と研究の展開に貢献し,後継者の育成にも寄与する.博物館は研究者やアマチュア専門家,それと一般市民との間にあり,それ自身インタープリターとしての役割ももち,インタープリター(自然解説員)の育成の場でもあるべきだろう.

 前述した水戸芸術館や中里村恐竜センターの活動のように,博物館を中心として研究者やアマチュア専門家,それと一般市民がインターネットなどを通じて交流し,博物館の強いサポーターとして活動している例は今後増えていくだろう.博物館の中だけですべての博物館活動をしていくことは困難であるが,博物館が博物館外部の人たちを巻き込んだ活動体の核となることは可能である.このような博物館の活動は,博物館側からのオープンな情報提供と博物館活動自体の公開があって可能である.

 インターネットと言うとグローバルなネットを一般には想像するが,インターネットは実は地域ネットとしてもより有効に利用できる.地域の情報を地域のために,そして日ごろあまり交流のない同一地域の博物館同士やアマチュア研究者との情報交換の場に利用することは地域の公立博物館にとって特に有効である.

 今後の情報社会の急激な発展の中で,見かけ上博物館の情報提供と同様のサービスは博物館しかできないものではなくなり,さらにひとつの大きなマーケットともなり得る.博物館はその博物館のもつ活動の実績や資料情報を今後きちんとした形で公開提供していかなくては,この分野でのイニシアチブをもつことができず,博物館は重たい門に閉ざされただだの標本収蔵庫としての意味しかもたないことになる.


Z.博物館内部のデジタル情報システムの構築

 デジタル情報を核とするホームページや電子メールの利用は博物館の外部に対してだけでなく,内部での情報流通手段として職員の利用に大変有効である.したがって,他の博物館などとの相互データ利用なども含め,業務のネットワーク化による業務・情報システムの再構成を進める必要がある.そして,それは新しい博物館システムとその活動の展開へとつながる.

 ある目的のために「もの」を調査・収集し,保管・収蔵および研究して,その成果を教育・普及するという博物館の機能を考えれば,その仕事やデータ全体をデジタル情報という形で残し,ひとつの情報の流れ(系)の中で館内および館外の人にも利用できるようにすることは,博物館の最も重要な仕事である.この重要な仕事は学芸員が中心となりシステムを構築し,そのための新しい部署も必要となる.そして,その仕事はさらに博物館の情報管理や情報提供という面で,博物館活動における新たなニーズをつくり出す.

 そのためには,博物館にサーバの設置はもちろん情報管理・運営の部署,相互コミュニケーションを積極的に進めるための小回りのきく組織づくりが必要である.そして,博物館におけるドメイン(組織体の活動範囲や領域)の明確化と,今までのそして将来のドメイン戦略,すなわち新しい博物館とあるべき組織の検討が必要になる.これら新しい博物館とその活動の発展のためにも,博物館のデジタル情報とその活用方法については学芸員が中心となり,博物館独自で検討し作成する必要がある.

 博物館のデジタル情報を生かし,博物館における将来のインターネット利用,さらにコンピュータネットワークの構築を考慮すると,インターネットやホームページといったデータ流通手段を十分に理解する必要がある.そして,博物館においても早い時期にネットワークの特性に対応したデータ処理方法の検討や博物館活動の見直し,さらには新たな組織づくりが必要となる.


文 献

秋山 忍(1998)標本資料データベースの標準化に関する調査報告書 国内施設報告(自然史部門)植物.「標本資料データベースの標準化に関する調査報告書(平成9年度)」,全国科学施設協議会,東京,18-21.

金井弘夫(1998)長野県植物誌とコンピュータ.長野県植物誌, 信濃毎日新聞社,長野市,1519-1544.

勝山輝男(1998)標本資料データベースの構築についての一考察.「標本資料データベースの標準化に関する調査報告書(平成9年度)」,全国科学施設協議会,東京,38-40.

小川 誠(1997)博物館の情報整理.徳島県立博物館ニュース,28,2-3.

松浦啓一・志津田嘉康(1998)コンピュータによる標本管理システムの一例.「標本資料データベースの標準化に関する調査報告書(平成9年度)」,全国科学施設協議会,東京,3-9.

溝口優司(1997)標本資料データベースの標準化は必要か.「標本資料データベースの標準化に関する調査報告書(平成8年度)」,全国科学施設協議会,東京,23-25.

柴 正博・石橋忠信(1998)博物館におけるホームページの活用と展開.静岡県博物館協会研究紀要,21,11-21.

山崎博史(1998)地質情報を共有財産とするために.地学団体研究会第52回総会(山陰)シンポジウム要旨集,地学団体研究会,東京,209-212..


『博物館にいこう』へ戻る

『ホーム』へ戻る


最終更新日: 00/04/27

Copyright(C) Masahiro Shiba